よろしくお願いします。
やらかした。
自分が固まって動けなかったのが駄目だったのに。速く動けるのが取り柄なのだから助けられたはずだ。
だが後悔してももう遅い。ぼくの親友は奈落の底に落ちていく。助けないと。
けれど、それをクラスメイトが邪魔をする。
ぼくが原因なのに。責任ぐらい、取らせてくれてもいいだろうに。
そう考えながら自分のクラスがこの世界に召喚されてからのことを思い出していた。
***
月曜日。
それは大抵の人が辛く感じるであろう週の始まりだ。
その日はいつもと同じように日常が始まり、終わると思っていた。
だから異世界召喚など、想像するはずがなかったのだ。
自分、
ぼくの席はグラウンドがある方の一番後ろ。自分の前の席にはまだ親友は座っていなかった。先週勧められたゲームの話しでもしようかと思っていたんだが。
しばらくしてチャイムが鳴るギリギリになった頃に親友、南雲ハジメが教室に入ってきた。周りからはハジメを蔑むような睨むような目線を送られてるのはもう日常茶飯事だ。
そこに馬鹿ども四人がゲラゲラと笑いながらハジメに話しかける。
「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」
「うわっ、キモ~。エロゲで徹夜とかマジキモイじゃん~」
……いや、本当に何が楽しいんだ? 小学生かよ。
それらの言葉を無視してハジメは席に着いた。
まあ、実際ハジメはオタクでぼくもオタクなわけで。
それをぼくたちは隠してはいないが、ハジメの方だけ嫌われている。
ハジメは行動は不真面目だが成績は普通だし、カツアゲされているおばあさんと子供を見て皆が見て見ぬふりをしている前でそれを気にせず、土下座してカツアゲしていた人達を退散させたりと人格的には普通にいい奴だと思う。ぼくはそこでは動けなかったし、本当に勇気のあるやつだと思っている。
ハジメに向けられるクラスメイトの蔑むような目線を気にしないようにしながらぼくは話しかけた。
友達がそういう目で見られているのは嫌いなんだけど。
「今日も遅いね、もっと早く来て欲しかったりするなあ。せっかくこないだ勧められたゲームをプレイしたのに話ができないじゃん」
「あー、ごめん、でもこの生活リズムはなかなか変えられないなぁ」
ハジメが嫌われている理由はひとつ。
クラスどころか学校で人気のあるかなりの美少女によく話しかけられているから。
ぼくは彼女がハジメに好意を持っていると確信している。
いや、むしろあの態度を見て好意を持っていないと思うのがおかしい。
ハジメを含めたほとんどのクラスメイトはなぜ彼に構っているのか気づいてないようだけど。まあ、気づいているか知っていると思われる人もいる。
そしてその彼女がやってきてハジメに話しかけた。
「南雲くん、おはよう! 今日もギリギリだね。もっと早く来ようよ」
彼女の名は白崎香織。
先ほども説明したが、学校で二大女神と言われ男女を問わず絶大な人気を誇る美少女。
基本的にいつも微笑が絶えない彼女は責任感が強く、面倒見も良いためによく頼られる。
「あ、ああ。おはよう白崎さん」
ハジメが返事をすればかなり嬉しそうな顔をするので周りからはハジメに注目が集まる。無論、主に嫉妬で。
まあ、完璧と思えるほどで超がつくほどの美少女が不真面目でルックスは普通の人間に話しかけて喜んでいたら嫉妬ぐらいはしてもおかしくない。これがイケメンだったりするのなら諦めはつくのだろうけど。
ハジメは外見は可も不可もない普通な人だから、これほどの嫉妬を受けていると思う。
まあ、ハジメは絶対に白崎さんが好意を持っているとは思ってもないだろうし。それを自惚れとか思っていそうだ。
ハジメが返事に戸惑っているのか少し無言でいると、三人の男女が話に入って来た。
あ、ちなみにぼくは傍観者なので。
「南雲君。おはよう。毎日大変ね」
「香織、また彼の世話を焼いているのか? 全く、本当に香織は優しいな」
「全くだぜ、そんなやる気ないヤツにゃあ何を言っても無駄と思うけどなぁ。あ、
「おはよう、龍太郎くん」
ハジメに唯一朝の挨拶をしたのは八重樫雫さん。白崎さんの親友だ。一言で表すならば超剣道上手い美少女。
ポニーテールにした黒髪と切れ長の鋭く、けれどその奥には柔らかさもあるかっこいい目つきが特徴だ。
背が高くて羨ましい。いや、ぼくの背が低いわけじゃないから!
後輩の人たちからはお姉様! とかよく呼ばれて顔を引き攣らせているのはよく見かける。
次に、些か臭いセリフで白崎さんに声を掛けたのが天之河光輝くん。勇者っぽいキラキラネームの彼は、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。でもぼくはこの人が少し苦手。嫌いではない。
サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった身体。誰にでも優しく、正義感も強い。だけど、思い込みも激しい。
小学生の頃から八重樫さんと同じ道場に通っているらしい。剣道では全国クラスの猛者だとか。白崎さんや八重樫さんとは幼馴染であるらしい。ダース単位で惚れている女子生徒がいるそうだが、いつも一緒にいる八重樫さんや白崎さんに気後れして告白に至っていない子は多いらしい。それでも月二回以上は学校に関係なく告白を受けるというのだから筋金入りのモテ男だ。
それなんてエロゲ?
いやマジで漫画とかラノベの主人公みたいな人がこの世にいるとは思わなかったから、最初会った時は思わず謙りそうになったことがある。
最後に投げやり気味な言動をしてぼくに挨拶した男子生徒は坂上龍太郎くん。光輝くんの親友だ。短く刈り上げた髪に鋭さと陽気さを合わせたような瞳、百九十センチメートルの身長に熊のみたいな大柄な体格、失礼だけど見た目に反さず細かい事は気にしない脳筋タイプだ。
龍太郎くんは努力とか熱血とか根性とかそういうのが大好きな人間なので、ハジメのように学校に来ても寝てばかりのやる気がなさそうな人間は嫌いなタイプらしい。現に今も、ハジメを一瞥した後フンッと鼻で笑い興味ないとばかりに無視している。
ちなみに彼とはとある映画の話でかなり盛り上がったことがある。
まあ、彼らは白崎さん含めてかなりの有名人かつ人気者なのでぼくみたいなモブからしたら居心地が若干悪い。
「おはよう、八重樫さん、天之河くん、坂上くん。はは、まぁ、自業自得とも言えるから仕方ないよ」
ハジメがそう答えるが、この後誰が何を言うか大体予想がつく。だったら尚更直せ、と光輝くんが言いそう。
その瞬間、視線が更に厳しいものが増えた。八重樫さんも人気だから仕方ないのかもしれないけど。
「それが分かっているなら直すべきじゃないか? 何時までも香織の優しさに甘えるのはどうかと思うよ。香織だって君に構ってばかりはいられないんだから」
やっぱり予想が当たった。
というか白崎さんが話しているのはおそらく話したいからだと思うんだけど……
まあ、光輝くんは思い込み激しいし、仕方ないか。
それにハジメは確か将来設計はきちんとできているらしい。詳しくは聞いたことがないけど、彼の父はゲームクリエイター、母は少女漫画家でどちらもアシスタントとしてアルバイトをしているらしい。
彼の母親に会ったことがあるけど、ハジメの技術は即戦力扱いだって言っていたぐらいだし授業中寝るだけの余裕はあるのだから将来的にやりたいものは決まっているんだろう。
そこが羨ましい。ぼくは特に何も決まっていないからハジメと違ってフラフラしているようなもんだし。
「いや~、あはは……」
光輝くんの言葉を聞いて苦笑しているハジメ。
そこに爆弾が投げ込まれた。
「……? 光輝くん、なに言ってるの? 私は、私が南雲くんと話したいから話してるだけだよ?」
いや、空気読もうよ、白崎さん……
まあ、やはりというかなんというか。
今の発言でクラスがざわめき始める。男子はハジメの歯ぎしりしながら睨んでるし馬鹿ども四人は何やら本気の形相で話し始めるし。
「え? ……ああ、ホント、香織は優しいよな」
光輝くんに至っては思い込み発動。おそらく白崎さんがハジメを気遣ったと思ったみたいだ。
それを聞いてハジメは窓の方を向いて虚空を見つめていた。
諦めたらそこで試合終了だよ? ハジメくん。
おそらくこの場にいる中で最も人間関係や各人の心情を把握している八重樫さんが、こっそりハジメに何やら耳打ちしていた。おそらく謝罪でもしてるのだろう。
そう思っているとチャイムが鳴った。
今日のホームルームまでの時間はいつもより数倍濃く、長く感じられた。
ちなみに前の席の人はもう既に居眠りしていた。早いな、おい。
***
四時間目の社会科の授業中が終わって昼休み。
相変わらず愛ちゃん先生は愛されてますなぁ。
さっさとご飯食べて本でも読もうとしていたら白崎さんがこちらにやってきた。いや、正確に言うならばハジメに話をしにきた。
「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」
おお、おお。顔に困惑を浮かべてますなぁ。
いけないいけない。ニヤニヤしてるのがバレてしまった。
help me ! と顔に書いてあるけど笑顔で黙殺。
軽く恨めしそうに睨まれるけど気にしない。
そこまで好かれてるんだからもう付き合っちまえば良いのにと言いたくなる。
ぼくに頼るのを諦めたのか、ハジメは抵抗を試みる。
「あ~、誘ってくれて有難う、白崎さん。でも、もう食べ終わったから天之河君達と食べたらどうかな?」
そう言いながら空になったエナジードリンクの容器を白崎さんに見せた。
「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」
だけど白崎さんにそれは通用しない。もはや抵抗は抵抗ではなくなってむしろ白崎さんが食いついた。
まあ、そのせいか知らないけどやはりこちらに視線が集まってくる。
そこに現れたのは光輝くんだった。
「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」
「
おっと小声で呟いてしまった。
白崎さんには聞こえなかったようだが、ハジメには聞かれてしまった。
笑顔で睨んでくる。目が笑っていない。
流石にやりすぎたな、あとで謝らないと。
「え、なんで? 光輝くんの許しがいるの?」
今の一言はヤバイ。思わず吹き出して笑い出すところだった。笑うのを堪えるのに必死で腹筋が鍛えられる。少しずつ痛くなってくる……
八重樫さんも今の発言で吹き出した。
だよね、これ一種のコントだよね。
その時床下がなんか光り出した。
「な、なんじゃコリャ⁉︎ ついにぼくの頭狂った?」
そう言いながら鞄の蓋を閉める。
この中には結構大事なものが入っているんだ。何かが起こったらまずい。
それと同時に携帯を操作して家族に会話アプリでメッセージを小分けに送る。明らかにやばい。爆発なんかしたら最後に喋った言葉が……なんてことは嫌だから、ひらがなでメッセージを送り続ける。
よく見てみると光輝くんの足元に純白に光り輝く円環と幾何学模様が現れている。
その異常事態には直ぐに周りの生徒達も気がついた。おそらくぼくの声のせいで。
全員が金縛りにでもあったかのように、輝く紋様……俗に言う魔法陣らしきものを注視する。
その魔法陣は徐々に輝きを増していき、一気に教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。しばらくすると周りから悲鳴が聞こえる。
未だ教室にいた愛子先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった。
すごく眩しい。一体、何が起こっているんだ。
そんなことを考えている間に白い世界は僕たちを覆い尽くした。