全体的に流れは前と同じなのでめちゃくちゃデジャビュあると思います
視力を閃光に奪われてしばらくすると、ようやく視力が回復してきた。
目の前のスマホには会話アプリで家族宛に送った沢山のメッセージがあった。その内のいくつかは送られていなかった。スマホを見ると圏外になってたからしょうがない。
しかし、ここはどこだ?
教室じゃない。
目の前には巨大な壁画がある。縦横十メートルはありそうなその壁画には、背中に後光が差し、長い金髪のうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。背景には豊かな自然——山や湖などが描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。
とても綺麗だ。
壁画から目を離すとここは巨大なドーム状の建物の中。素材は大理石のように真っ白な何かで構成されていて、それらは全て美しい彫刻などで彩られていた。
大聖堂と言っても過言ではないと思う。
それらを見ているとおそらくクラスメイト全員がここにいる。ついでに愛子先生もいた。
ついでとは失礼すぎたな。
ぼくたちはその中でもひときわ高い台座のようなものの上にいた。
ぼくたちの他に異物がいた。いや、ぼくたちの方が異物なのかもしれないけど。
そこには少なくとも三十人近い人々が、ハジメ達の乗っている台座の前にいたのだ。まるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好で。
彼らは全員、金色の刺繍の入った白い法衣を着ていた。
その中でもひときわ目立つ存在がいる。
そいつはその集団の中でもかなり高価そうな装飾の入った法衣を着て高そうな杖を持っている老人だ。かなりの覇気を纏っていて狂信者と言っても通用しそうだ。
ああ、これ、異世界召喚ってやつか。スマホの電波届いてないし、ほぼ確実だろう。
傍迷惑な。
正直言って腹がたつ。こっちは学生。これからの人生を決める大切な時期だぞ⁉︎
まあ、良いや。こんなところで怒っても仕方ない。雨が降っているのに雨が降っているのを文句つけても結果は変わらない。起きたことは起きたのだ。
そしてここから先はどうなるかはわからない。
だからただ生き残る事に終始しないと。
覇気を纏った老人がそれでも外見によく合う深みのある落ち着いた声音で話し始めた。
「ようこそトータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。
でもやっぱり胡散臭い。
***
鞄がすごく重い。鞄持っていたのはぼくだけだった。仲間はずれかよ。
鞄持ってたら鞄ごと付いてくるのは付属物として認識されたからかなとか思っていたらイシュタルさんに案内されてぼくたちは十メートル以上の机がいくつもある大広間に着いた。
愛ちゃん先生と光輝くんたちリア充四人組が上座の方に座っている。ぼくは最後方だ。モブには一番後ろがいいのだ。
ぼくが座るとメイドさんたちがやって来た。結構綺麗な人たちだから、主に男子の大半は興味津々なのかメイドさんたちに目線が行っている。
別にぼくはメイドさんに興味がないので凝視とかはしなかったけど。あ、女子が男子の大半を絶対零度の目線で見てる。
女子こえーわやっぱ。
これって美人局的なアレなんかな?
そして話が始まった。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
まあ、結局のところイシュタルさんが話したことはラノベとかネット小説でよく見るこっちの都合を考えない勝手なものだった。
要約すると、この世界はトータスと呼ばれていて、人間族、魔人族、亜人族の三種族がいること。
人間族は主に北一帯を魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の大きな樹海に隠れ住んでいるらしい。
人間族と魔人族は長い間戦争を続けていて、人間族は数で攻め、魔人族は数が少ないかわりに質で——個々の力が強い——で攻めていて均衡を保っていたらしい。故に今は事実上休戦状態。
けれど、最近になってから異常事態が発生した。
それは魔人族による魔物の使役。
人間族は数で戦力を対抗させていたのにその数の利がなくなるかもしれない。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだとか。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。
数と質で負けている。この事実はいずれまた大きな戦争を引き起こし、人間を滅ぼすかもしれない。
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルさんはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているんだろうけど。イシュタルさんによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。
やっぱり狂信者ですか、さいですか。
ちょっと怖いな……
愛ちゃん先生が叫ぶようにまくし立てた。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることは唯の誘拐ですよ!」
ぷりぷりと怒る愛子先生。彼女は今年二十五歳になる社会科の教師ですごく人気がある。百五十センチ程の低身長に童顔、ボブカットの髪を跳ねさせながら、生徒のためにと走り回る姿は何とも微笑ましく、いつでも一生懸命な姿と大抵空回ってしまう残念さのギャップに庇護欲を掻き立てられた生徒は少なくないと思う。
ちなみに愛ちゃんとか言われると怒る。なんでも威厳ある教師を目指しているらしい。
多分というか少し無理にも思われる。
愛ちゃん先生が言ったことをイシュタルさんが否定する。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
まあ、無理だろうな。
何しろこんな便利なコマを利用しないわけがない。その気になれば嘘をついて帰還するための方法を隠していることだって考えられる。
周りは沈黙。まあ、誘拐も同然の方法で呼ばれ、しかも帰ることができないとなれば絶望なり、悲嘆なりはするだろう。
ぼく? 多分現実を未だに認識できていないか逃避しているせいか、そんな感情は思い浮かばない。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
愛ちゃん先生が叫ぶ。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。
まあ、クラスのみんなからしてみれば好き勝手に呼んでおいてふざけんなよ神様って感じだね。
周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
パニックになるのは現実を認識できている分マシなのかもしれない。下手にラノベを読んでいるせいで尚更現実だと認識できない。
イシュタルさんが蔑むような目線で見てくる。
いや、あんたと違ってぼくたち基本的に神様とか信じてないからな?
だが、そのパニックを抑える声が机を叩く音ともに上がった。
「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放って置くなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」
「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無碍にはしますまい」
「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
うわぁ、カリスマランクExを持つ人間はやっぱり違うなぁ。
周りの絶望していたクラスメイト、みんな希望を持ち始めているよ。
てか、そもそもおかしいよな。何せ異世界に干渉して勇者を呼ぶ力はあるくせに、神様自身は魔人族倒さないとか普通に考えるとありえない。
面倒ならそれこそ異世界召喚なぞしないはずだし。
やはり矛盾だらけというかなんというか。
そして光輝くんの言葉に龍太郎くんたちも賛成した。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「龍太郎……」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「雫……」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「香織……」
それでみんなが戦争に参加することになった。
だけどみんな気づいてないでしょ。ぼくたちは平和ボケした日本人。そんな人間が戦争に参加するってこと。いや、そもそも戦争に参加するって自覚がないのかもしれない。
魔
それはぼくを含めてだけど。
だけど、ここで彼の提案を断ったところでどうにもならない。この世界で生きる術がないからだ。断ったらもしかしたら奴隷の様にされるかもしれない。
あとイシュタルさんが光輝くんに目をつけていたようだ。
こうなるように上手い具合に誘導する技量はなかなかだ。注意しとかないと。
「ハジメ、どう思う?」
「あの人には注意しとかないとね」
「ぼくも同じ意見だ」
さて、ここからどうなることやら。