今のところ魔力操作等はできません。
戦争に参加すると決めた以上、戦う準備をしなきゃいけない。
でも、ぼくたちは平和ボケした日本人の学生だ。
いくら剣道の有段者である人間がいても、ぼくたちが潜在的にとてつもない能力を持っていたとしても訓練しなければ使えない。
だけどトータスの人たちはそんなことは予想していたようだ。
この聖教教会本山がある【神山】の麓の【ハイリヒ王国】にて受け入れ態勢が整っているらしい。
ハイリヒ王国は聖教教会と密接な関係にあり、聖教教会の崇める神――創世神エヒトの眷属であるシャルム・バーンという人物が建国した最も伝統ある国ということだとか。
関係ないけどファーストネームからルを抜くと有名ユーチューバーになるよね。
ぼくたちはイシュタルさんたちに案内されて聖教教会の正面門にやってきた。
神山から降りてハイリヒ王国に向かうためだ。
聖教教会は神山の頂上にあるらしく、とても豪華な正面門を潜ると、そこには雲海が広がっていた。
すごく綺麗だ。
けれど、高山特有の息苦しさを感じない。少なくともここの気圧は日本とそう大差ないようだ。
けれどこのまま下山したら酸素濃度とか大丈夫なのか?
でもイシュタルさんはどこか自慢げで涼しい顔をしているのでおそらく大丈夫だろう。
まあ、大事な駒を減らすわけがないか。何しろ彼らにとってぼくたちは超戦力と人格を持つ兵器に等しいのだから。
粗末に扱うわけがない。
イシュタルさんに促されて進むと柵に囲まれた円形の大きな白い台座が見えてきた。大聖堂で見たのと同じ素材で出来た美しい回廊を進みながら促されるままその台座に乗る。
台座には巨大な魔法陣が刻まれていた。柵の向こう側は雲海なので大多数の生徒が中央に身を寄せる。それでも興味が湧くのは止められないようでキョロキョロと周りを見渡していると、イシュタルさんが何やら唱えだした。
「彼の者へと至る道、信仰と共に開かれん、“天道”」
すると足場が輝き始めた。正確には足下の魔法陣が。
そして台座が動き始める。
なるほど、さっきのがおそらく詠唱。それがキーワードとなって台座の魔法陣が起動したのか。
これはまさしく魔法なんだろう。
生徒たちがキャッキャと騒ぎ出す。
そして台座は雲海の中に入っていき、しばらくすると大きな街、いや国が見え始めた。
すごいや、ここまでできる魔法って中々のもんだね。
……でも、よく考えてみるとこれは信者向けなのかもしれないな。だってこれを王国の人が見てたら天より降りてくる神の使徒として見えるわけだし。
そんなことを考えていると王宮に着いた。
***
王宮の中に入って最初に行った場所は玉座の間だ。
その間に通路を通るのだが、使用人さんと思われる人たちはぼくたちをみて期待に満ちているような、あるいは怯えているような視線を向けてくる。
おそらくもう通達されているんだろうな、これ。
そして玉座の間に着いた。
玉座の前に王様らしき人が
その隣には王妃と思われる女性、その更に隣には十歳前後の金髪碧眼の美少年、十四、五歳の同じく金髪碧眼の美少女が控えていた。更に、赤い絨毯の左側に甲冑や軍服らしき衣装を纏った者達が、右側には文官らしき者達がざっと三十人以上並んで佇んでいる。
玉座の手前に着くと、イシュタルさんはぼくたちを留め置き、自分は国王の隣へと進んだ。
そこで、おもむろに手を差し出すと王様らしき人は恭しくその手を取り、軽く触れない程度のキスをした。どうやら、教皇の方が立場は上のようだ。
これで、国を動かすのが“神”とか“宗教”であることが確定だな。
その後はただの自己紹介だった。
国王の名をエリヒド・S・B・ハイリヒといい、王妃をルルアリアというらしい。金髪美少年はランデル王子、王女はリリアーナだ。
後は、騎士団長や宰相等、高い地位にいる者の紹介がされた。
その後は晩餐会が開かれ異世界料理を堪能した。見た目は地球の洋食とほとんど変わらなかった。たまにピンク色のソースや虹色に輝く飲み物が出てきたりしたけれど非常に美味しかった。
あとランデル殿下が白崎さんにたくさん話しかけていてクラスの男子がやきもきしながら見ているという面白いこともあった。
その後王宮では、ぼくたちの衣食住が保障されている旨と訓練における教官達の紹介もされた。教官達は現役の騎士団や宮廷魔法師から選ばれたようだ。いずれ来る戦争に備え親睦を深めておけってことだろう。
晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。天蓋付きベッドに愕然としたのはぼくだけではないはずだ。
本当に今日は疲れた。
明日から頑張って生き残るために鍛えないとだな。
***
翌日から早速訓練と座学が始まった。
まず、集められたと思ったらに十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議に思って配られたプレートを見ていると騎士団長メルド・ロギンスさんが直々に説明を始めた。
騎士団長が訓練に付きっきりなのはどうかと思うけど、ぼくたちはこの世界のVIP的な存在なのを思い出した。半端な者には預けられないんだろう。
メルドさん本人は「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていた。もっとも、副長さんは大丈夫ではないかもしれないけど……
「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」
非常に気楽な喋り方をするメルドさん。彼は豪放磊落な性格で、「これから戦友になろうってのに何時までも他人行儀に話せるか!」と、他の騎士団員達にも普通に接するように忠告しているようだった。
ぼくたちもその方が気が楽だった。
大の大人にぺこぺこされても困るし、ちょうど良い。やはり歳上さんには頼りになってもらえる方がずっと良い。
「プレートの一面に魔法陣が刻まれているだろう。そこに、一緒に渡した針で指に傷を作って魔法陣に血を一滴垂らしてくれ。それで所持者が登録される。 “ステータスオープン”と言えば表に自分のステータスが表示されるはずだ。ああ、原理とか聞くなよ? そんなもん知らないからな。神代のアーティファクトの類だ」
「アーティファクト?」
アーティファクトという単語が聞き慣れなかったのか光輝くんが質問した。
ぼくみたいなオタクだとアーティファクトってゲームとかラノベなんかじゃよく見かけるから大体想像できるけど。
「アーティファクトって言うのはな、現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことだ。まだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている。そのステータスプレートもその一つでな、複製するアーティファクトと一緒に、昔からこの世界に普及しているものとしては唯一のアーティファクトだ。普通は、アーティファクトと言えば国宝になるもんなんだが、これは一般市民にも流通している。身分証に便利だからな」
やはりそうか、と思いながら指に針を刺して血を垂らす。
そうするとプレートに文字が表示された。
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武田正義 17歳 男 レベル:1
天職:神子
筋力:50
体力:60
耐性:80
敏捷:100
魔力:130
魔耐:50
技能:全属性適正・恩恵享受・高速魔力回復・複合魔法・想像構成・高速行動術・金剛・錬成・言語理解
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それらを見ていると、メルドさんからステータスの説明がされた。
「全員見れたか? 説明するぞ? まず、最初に“レベル”があるだろう? それは各ステータスの上昇と共に上がる。上限は100でそれがその人間の限界を示す。つまりレベルは、その人間が到達できる領域の現在値を示していると思ってくれ。レベル100ということは、人間としての潜在能力を全て発揮した極地ということだからな。そんな奴はそうそういない」
どうやらゲームのようにレベルが上がるからステータスが上がる訳ではないみたいだ。
「ステータスは日々の鍛錬で当然上昇するし、魔法や魔法具で上昇させることもできる。また、魔力の高い者は自然と他のステータスも高くなる。詳しいことはわかっていないが、魔力が身体のスペックを無意識に補助しているのではないかと考えられている。それと、後で、お前等用に装備を選んでもらうから楽しみにしておけ。何せ救国の勇者御一行だからな。国の宝物庫大解放だぞ!」
なるほど、戦いの初心者だからってレベルの低い武器は渡されないようだ。
「次に“天職”ってのがあるだろう? それは言うなれば“才能”だ。末尾にある“技能”と連動していて、その天職の領分においては無類の才能を発揮する。天職持ちは少ない。戦闘系天職と非戦系天職に分類されるんだが、戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合だ。非戦系も少ないと言えば少ないが……百人に一人はいるな。十人に一人という珍しくないものも結構ある。生産職は持っている奴が多いな」
じゃあ何? 神子ってなんだよ⁉︎
なんで高速で相手を翻弄すんの? なにそれ、魔法じゃないじゃん。錬成って[鋼の錬金術師]の錬成を想像すれば良いの? なんで神子さんにそんなのついてんの? あと想像構成とか恩恵享受ってなんだよ。なにから恩恵受けるんだよ。
……恩恵享受が運命からとか神から言われたら最悪だ。何しろぼくはかなり運が良い。けれどその代わりに周りの運が悪くなっている様な気がしていた。ある時からずっとそうだった。もし神さまだったら一発殴りたい感じがすごくある。
高速行動術あたりはなんとなくというかかなり強引だけどわかる。ぼくはテニス部で補欠だったから。上手くはなかったけど、いつも相手より速く反応できていたから補欠には入ることができていた。
多分それだ。
これで強くなれるのだろうか。
「後は……各ステータスは見たままだ。大体レベル1の平均は10くらいだな。まぁ、お前達ならその数倍から数十倍は高いだろうがな! 全く羨ましい限りだ! あ、ステータスプレートの内容は報告してくれ。訓練内容の参考にしなきゃならんからな」
この世界の平均よりは強い。けれどそれで確実に生き残れるかと言ったら否だ。
昨日皆が戦争に参加することになった時点で逃げることもできない。
だから、強くならないと。決して死なないように。
メルド団長の呼び掛けに、早速、光輝くんがステータスの報告をしに前へ出た。そのステータスは……
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天之河光輝 17歳 男 レベル:1
天職:勇者
筋力:100
体力:100
耐性:100
敏捷:100
魔力:100
魔耐:100
技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解
===============================
魔力だけは勝っていて、敏捷は同じだ。その他は全部劣っている。流石は勇者ってところかな。
「ほお~、流石勇者様だな。レベル1で既に三桁か……技能も普通は二つ三つなんだがな……規格外な奴め! 頼もしい限りだ!」
「いや~、あはは……」
光輝くんは照れくさそうに笑っていた。
ちなみに、技能=才能である以上、先天的なものなので増えたりはしないらしい。唯一の例外が“派生技能”。
これは一つの技能を長年磨き続けた末に、いわゆる“壁を越える”に至った者が取得する後天的技能だ。簡単に言えば今まで出来なかったことが、ある日突然、コツを掴んで猛烈な勢いで熟練度を増すということ。
この派生技能とやらを沢山習得できるまで努力すれば死ぬ確率も減るだろう。
さて、ぼくもメルドさんにプレートを見せるとしよう、
「お願いしまーす」
「おお。……なるほど。【神子】か。確かかなりの魔法適性があり、神に愛された人間が得るという……かなりステータスも高く、技能の数と質、しかも滅んだ種族が持っていたとされる技能まで持っているなんて……流石は勇者の御一行の一人というだけあるな。羨ましいぞ!」
めちゃくちゃメルドさん喜んでるな。
「あの……【恩恵享受】とか【想像構成】っていうのはどういうのでしょうかね?」
「【恩恵享受】というのは昔滅んだとされる種族が持っていたとされる技能だ。詳細は不明だが、自然や世界に愛されるらしい。想像構成はイメージだけで魔法陣を構成できる技能だな。普通は魔法陣と詠唱が必要だが、詠唱だけで魔法を放てるんだ」
確かにチートだな。
ただ、【恩恵享受】は想像通りかよ。マジで世界が、いや自分が嫌になる。
まあ、いいか。
これだけでも十分わかるし、強くはなれる。
あれ? ハジメの目が死にかけているぞ。
何があったんだろうか。
「どうしたの、ハジメ」
「あはは……皆チートなんだね……」
ダメだ、壊れかけてるぞこれ。
「えっと、ステータスプレートを見せて?」
無言でプレートを渡された。
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南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1
天職:錬成師
筋力:10
体力:10
耐性:10
敏捷:10
魔力:10
魔耐:10
技能:錬成・言語理解
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お、おう。実に平均的じゃないか……
かける言葉が見つからない。下手な慰めはむしろ傷つける。しかしだからと言って黙っていても傷つける。
どうしよう。
そう思いながらハジメにプレートを返す。
そうして悩んでいるとメルドさんがやってきた。
あ、あの……そんなホクホク顔で近づかないであげて!
ハジメはまたプレートをを無言で渡した。
メルドさんの表情が「うん?」と笑顔のまま固まり、ついで「見間違いか?」というようにプレートをコツコツ叩いたり、光にかざしたりする。そして、ジッと凝視した後、もの凄く微妙そうな表情でプレートをハジメに返した。
「ああ、その、何だ。錬成師というのは、まぁ、言ってみれば鍛治職のことだ。鍛冶するときに便利だとか……」
歯切れ悪くハジメの天職を説明するメルド団長。
やめて! ハジメのライフはもうゼロよ!
その様子にハジメを目の敵にしている男子達が食いつかないはずがない。鍛治職ということは明らかに非戦系天職だ。クラスメイト達全員が戦闘系天職を持ち、これから戦いが待っている状況では役立たずの可能性が大きい。
バカの集まりの中心である檜山大介くんが、ニヤニヤとしながら声を張り上げる。
「おいおい、南雲。もしかしてお前、非戦系か? 鍛治職でどうやって戦うんだよ? メルドさん、その錬成師って珍しいんっすか?」
「……いや、鍛治職の十人に一人は持っている。国お抱えの職人は全員持っているな」
「おいおい、南雲~。お前、そんなんで戦えるわけ?」
檜山くんが、めちゃくちゃウザイ感じでハジメと肩を組む。見渡せば、周りの男子はニヤニヤと嗤っている。
「さぁ、やってみないと分からないかな」
「じゃあさ、ちょっとステータス見せてみろよ。天職がショボイ分ステータスは高いんだよなぁ~?」
人のこと言えないけど、こいつマジで性格悪い。
殴ろうかとも思ったが、ハジメはそもそも暴力が嫌いだ。自分から振るうことなどなく、相手から暴力を振るわれても耐えていたことがある。
だからこそ手は出せない。
だが、誰が口を出さないと言った?
「檜山くん、そんなんだからダメなんだよ。なんなら
「……! チッ」
檜山くんに小声で他人に聞こえないように話すと舌打ちされた。
まあ、これで良し。
あとはなんとでもなるだろ。