22話目です。
それでは、今回もよろしくお願い致します。
俺と四宮先輩の食戟対決が決まり、四宮先輩は部屋から去っていった。
「なんとか、首の皮が一枚繋がったな...良かったな。田所...」
「比企谷くんのバカぁ!!!」
「!?!?」(声がデカイ)
「何で、あんな無謀な勝負をしたの!私なんて放っておいてよかったのに...」
「んなわけにいくかよ。俺達、同じ寮生だろ。それに師匠のやり方は間違ってると思う。だから、この選択が正しいんだよ」
俺が日本にいる間に四宮先輩の何かが変わった。故にこのような事態になっているのだろう。俺がいない間のフランスで何かがあったのは間違いないだろう。喧嘩とか....あの人、従業員と揉めること多々あったし。
「それに、お前がここで落ちていい奴じゃないからな」
「比企谷の言う通りだぜ!四宮先輩のやり方は間違ってる。だから正さないといけない」
「だから、今日のノルマはちゃんとこなしてくれよ。田所」
という俺も残らないと話にならないがな。
食戟が行われる夜に向けて、俺は一層気を引き締める。
無事、今日の課題をクリアし四宮先輩の食戟対決が行われるであろう場所に田所と一緒に向かう。
別館地下1階、厨房。
「待っていたよ。この場所は今回の研修で使われないので、思う存分と食戟対決に臨んでもらいたい」
「そして、審査員は遠月学園の卒業生に務めてもらう」
「ええっ!!」
「八幡、また会ったね」
「はい」
何故、乾先輩は縄でグルグル巻にされてるんだろうな......
触れないでおこう....
「今から、2対1の非公式の食戟を行う」
「うっす」
「しかし、いくつか条件を付け加える」
「ん?」
「第一に今回の食戟での調理のメインは田所恵、彼女に行ってもらう。比企谷八幡には彼女のサポートとして回ってもらう」
「話が違うんですが.....」
「四宮から詳しく話を聞いた。食戟対決の主な理由、主旨として田所恵の審査に対して比企谷八幡が異議申し立てを行った。それに関しての再審査として今回は行う。比企谷八幡と四宮の直接対決は後日行うこととする。もし、今回君がメインで戦ったとしても彼女の為にはならない。ここで彼女の腕を再度試す。もちろんフェアな条件下の元で行うから心配は要らない」
「分かりました」
堂島さんの言い分には一理ある。ここで俺が勝ったとしてもその場凌ぎに過ぎない。そんなことをしても彼女の為にはならない。ここで勝って弾みをつけるのが先決か....
「第二として、今日の課題で余った野菜類を使って料理を一品作ってもらいたい。食材の鮮度は悪くないので安心したまえ。それでは食戟開戦だ」
そして、当初行われるはずだったの食戟を変更して....
田所恵・比企谷八幡対四宮小次郎の食戟対決が開始された。
「今日、ハチと食戟が出来なくて残念でならない」
「俺も同じ気持ちですよ。先輩」
「今日、この対決で負けて退学したらフランスに戻って来い。俺の元でみっちりとしごいてやる」
「それは勘弁っす」
そんなことになったらまたアイツが暴走するからな。
「田所」
「.............」
「おーい、田所さんー!」
「..............」
あ、コイツ....フリーズしてる。緊張しまくりじゃねーか。まぁ、無理もないか。あの四宮先輩と食戟対決だからな。
過度な緊張は料理のクオリティーを下げかねん。緊張を解さないとな。
四宮先輩は既に調理に入っている。
「おい!田所!」
俺は田所の正面に立ち、声を掛ける。
「はい!」
「緊張しすぎだ。そこまで不安がることないないだろ?」
「だって....負けたら比企谷くんまで退学になっちゃうし.....」
「始まる前から負けることを考えるな。それに俺の退学のことは気にすんな。まずはどんな料理を作るかを考えるのが先決だ」
「それはそうだけど.....」
「俺が手伝う以上、負けないし退学もない。安心しろ」
「比企谷くん.....」
「.....多分だけどな」
「最後の言葉で台無しだよ!」
「そんな軽口が叩けるなら大丈夫そうだな。震えも止まってるしな」
「あっ......」
「それでどんな料理を作るんだ?」
「それなんだけど....四宮先輩に勝てる料理を作れるか分からなくて....」
「勝つ料理を作る必要はない。現段階で俺達が四宮先輩を超える料理は作れない。プロの最前線で戦ってきた人に勝とうなんて100年早い」
「うん....」
「余計なことは考えず、田所の作りたい料理、お前らしい料理を作ればいい。俺はそれを全力サポートする」
「うん!」
田所は少しの間、どんな料理を作るか考えていた。
「ハチ、まだ調理に入ってないのか?」
「ええ、まぁ....」
「身支度する準備でもしたらどうだ?」
「そうはならないんで、大丈夫っす」
「彼女を随分と買ってるようだな?」
「やる時はやる奴なんで」
「それは楽しみだ」
「比企谷くん!」
「シェフに呼ばれたんで行ってきます」
「作る料理は決まったか?」
「うん。でも、下準備とか色々と大変なんだけど....」
「それなら心配ない。フランスでの修行でその手のことは慣れてる。んじゃ、遅くなったが作りますか。シェフ」
「うん。お願いします。比企谷くん」
そして、田所をメインでの調理を開始した。
俺はサポートなので田所シェフからの指示を受け、食材の下ごしらえと肩肉の切り出し、レバーの処理などスムーズに行い田所シェフのやりやすい料理作りに徹する。これはフランスでの修行で培ったもの。四宮先輩は無駄が嫌いな人だったからな。最初は苦労したものだ。
「さすがは八幡くんだ。無駄のない動き.....田所シェフもやりやすいだろう」
「さすがは四宮の弟子だけはある...田所恵の邪魔にならないように徹して動いている。高校生とは思えないな。八幡くんは」
「私の店に欲しいぐらい.....後でお願いしに行く」
「無理ですよ。彼は遠月学園の生徒ですから」
堂島さん、関守さん、水原さん、ドナードさんは食戟対決を見守りながらそう呟く。
(やっぱり比企谷くんはすごいなぁ.....スムーズに調理が出来てる....私も頑張らなきゃ.....)
「残り時間はあと少し!仕上げにかかれ!」
「比企谷くん、盛り付けをお願いします」
「おう」
そして、料理は完成し。審査に入る。
まずは、四宮先輩からの審査。
「どうぞ」
「おおっ!」
「あれ?私の分は?」
「ヒナコの分はない。水原から分けてもらえ」
「これはシュー・ファルシですか.....」
「フランスの家庭でよく作られる定番料理ですね」
「少し意外なメニューですね」
「拍子抜けですね。四宮先輩はいつも気取った料理ばかり作るのに...」
「余計なお世話だ」
ゴッと音を立て乾先輩にチョップを食らわす。
そして、実食に入る。
「......っ!!」
「美味い!!」
「さすがと言ったところですね」
卒業生の方々のおはだけが炸裂した。
まぁ、四宮先輩はレギュムの魔術師と呼ばれているぐらいだから当然だろうが.....
「四宮先輩にしては珍しいですね」
「何がだ?ハチ」
「フランスでの店で出してたスペシャリテが出てくると踏んでたんですが」
「俺がそんな大人気ないことすると思ったか?」
「はい。四宮先輩は容赦なかったですし」
「んだと!...まぁ、せいぜい足掻いてくれ」
「そのつもりです。驚くこと間違いないですからお楽しみにして頂ければ」
「それは楽しみだ」
「それでは、田所くん、八幡くん。サーブを」
「はい」
「ん?田所、大丈夫か?」
「うん....」
「お前なら十分、戦える。胸を張れ」
「うん!」
「どうぞ召し上がってください」
先輩方の前に料理を給仕(サーブ)する。
「お、これは!!」
「テリーヌですか....」
「これは四宮先輩が恵ちゃんを不合格にしたあの課題のメニューですね!」
「7種類の野菜で作った虹のテリーヌです」
「なるほど....面白い。俺のルセットにケチをつけようってか?」
「わわっ!!そんなつもりは!!私なりのルセットをですね....見て欲しくて」
「とりあえず、実食しよう」
卒業生の方々は田所の作った虹のテリーヌを口に運ぶ。
「っ!」
キュッと目を瞑って卒業生の食べた感想を待っていた。
「これは美味い!!」
「これは中々......」
「!!」
「さっぱりしたソースがまたいいね。2種類ほど使っているのかな?」
「はい。甘酸っぱいすだちのジュレと紫蘇と数種類のハーブをペイスト状にしたグリーンハーブソースを使っています」
「すだちとトマトも相性が良くて美味しい」
「本当ですね。やっぱり恵ちゃんの料理は美味しいです」
水原先輩と乾先輩からお褒めの言葉をもらう。
「見た目も鮮やかでいいね」
「ワクワクが止まらないね!」
「恵ちゃんの優しさが溢れ出ている料理ですね」
ドナードさん、関守さんからも前向きな評価を得る。
「良かったな、田所。好評かつ高評価だな」
「うんっ!本当に嬉しい!」
後は結果を待つだけだが.......
相手は師匠の四宮先輩。かなりの苦戦を強いられるだろうな。
「それでは判定に入ろう。コインを票代わりとし、1人1枚渡す。より美味しかった方の皿にコインを置いてくれ」
パチン
パチン
1枚、また1枚とコインが皿に置かれ.....
パチン
最後のコインが置かれ、俺と田所はコインを置かれた皿を見る。
「あっ.......」
「ふぅ.......」
四宮先輩の皿に3枚。俺達の皿に0枚。
完敗だった。
さすがに師匠を倒すのは無理だったか.......
「ハチ、今すぐ荷物を纏めろ。合宿終了後にフランスへ発つからな」
「すまん、田所。勝たせること出来んかった.....」
俺は田所に深々と頭を下げる。
「頭を上げてよ....比企谷くんのせいじゃないんだから....」(私の力不足で......比企谷くんまで退学に......)
「このことが吉野達にバレたら、めっちゃ怒られるかもしれんな....その時は2人で怒られるか...」
「うん....」
「実力の差は歴然。経験の差があるから、この結果は当然と言えば当然かもしれないが.......」
パチン
「俺は田所くん、八幡くんペアに1票を投じさせてもらう」
「何の真似ですか?堂島さん。アンタには権利はないはずだが?」
「まぁ、田所くん達が作った料理を食べてみれば分かるさ。そうすれば、今現在....停滞している四宮の助け、停滞から抜け出す糸口が見つかるかもしれんぞ」
カチャ
「......」パクッ
堂島さんからコインを受け取り、俺達が作った7種のテリーヌを食す。
「火入れが甘い、盛り付け、パテのつなぎもまだまだだ....」
(だが、なんか懐かしい味......)
(ふっ.....昔、良く食べてた母さんの味に似てるな....)
何かを思い出したのかどこか遠い目を四宮先輩はしていた。
そして、初めて四宮先輩が涙を流す姿を見た。
その後、四宮先輩は田所に色々と質問し....その質問に田所は真摯に答える。
「はいっ!私もこちらに1票を投じます。優しさを感じたもの凄くいい料理でした。これで同票。引き分けです!この勝負は私が預からせていただきますよ!」
「ということは田所くんの処遇は食戟対決前ということになるな?」
「とんだ茶番だな。まぁ、いい.....おい!鈍間!」
「は、はい!」
「せいぜい、退学しないように頑張るんだな。お前の料理、荒さは目立ったが......美味かった」
「!あ、ありがとうございます!」
「ハチ、お前との食戟対決はお預けだ。いいな」
「うっす」
「という訳で、田所くんと八幡くんの退学は取り消しとなる。田所くんの食べる者を温かくもてなそうとする気概....心遣い。それが君の料理であり魅力である。その精神を忘れることなく後の課題をこなしたまえ。そして、田所くんと八幡くんの皿に置かれたあのコイン.....あれは未来の投資だ。この学園で君達の武器をより一層磨きたまえ」
「何か、良く分からんが.....俺達....助かったみたいだな」
俺がそう言ったのち、田所は嬉しさのあまり泣き出していた。
俺は彼女が落ち着くまで宥めた。
田所が落ち着いたところで、部屋に戻ることにした。
「夜も更けてきたな.....あいつら心配してるかもしれんな。田所はメールとか来てないのか?」
「あっ!たくさん来てる......」
「それはやばいな。早く行ったらどうだ?心配性な奴らばっかりだからな」
「うん!」
「比企谷くん!」
「何だ?」
「今日は本当にありがとう。この恩は一生、忘れません」
「何、言ってんだ.......俺は田所のサポートしただけだ。田所の実力で引き分けまで持ってたんだ。もっと自分に自信を持ったらいい。堂島さんも言ってたろ?【食べる者を温かくもてなそうとする気概....心遣い。それが君の料理であり魅力である】その精神が今日の結果に繋がったんだ」
「それでも、比企谷くんの力がなかったら引き分けにはならなかったと思うから」
「そうか......今日はもう遅いから.....また明日な」
「うん!」
「ふぅ......四宮先輩に勝てると思ったんだがな.....」
「そのようだと負けたようね。八幡くん」
「なんで、ここにえりながいるんだよ」
「八幡くんの部屋に行ったけどいなかったから....近くにいた幸平くんに詳しく聞いたのよ。しょうがなく......ね」
「なるほどな。まぁ、色々あって四宮先輩との食戟対決は負けから引き分けに変わったけどな」
「そう.....もし、負けたらどうなっていたのかしら?」
「退学だな」
「そう....もし負けていたら私をまた置いてどこかに行ってしまうのね」
「負けたらな....退学になってたら、また四宮先輩とフランスで一緒に仕事するだけだ」
「といっても、負けたらの話だ。とりあえず負けてないからお前を置いて何処かに行くこともないわけだ。今日はもう遅いから帰るわ。えりなも気をつけて戻れよ」
「ええ....」
えりなと別れ、俺は部屋に戻るのだが....幸平からメールで丸井の部屋に来いとのことだったので丸井の部屋をノックして入るのだが....
「失礼しま.....「バチッ」いってぇ....」
入ろうとしたがいきなり頬を叩かれた。その主は吉野でやはりあの食戟対決に関してこっ酷く怒られた。途中で、榊さんのフォローもあってかすぐに解放された。
その後、幸平主催の元、花札大会に強制参加することになり......夜遅くまで付き合わされたのだった。
.....続く
ここまで読んでくれた方々、ありがとうございます。
次回は研修3日目のお話となります。
更新は遅くなるとは思いますが、気長にお待ち頂けると幸いです。
それでは、次回もよろしくお願い致します。