あとそこはかとなく漂う未亡人感
指揮官さまが死んだ。
なんのことはない。街に出て、車に跳ねられてあっさりと死んだと。
遺体は酷く損傷していて誰が誰だかわからなかった。
唯一、指輪がはめられている左手だけは無傷だった。
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「不知火、君のことが好きなんだ。」
真面目な顔で少し震えた声で指輪を差し出す目の前の男に妾はどんな顔をしていたのだろうか。
日頃大うつけだのなんだのと馬鹿にしていた妾だったけど、その時はきっと嬉しくて嬉しくて泣いていたに違いない。
「みんなを幸せにしたい。そのために隣で君に支えて欲しいんだ。」
みんなを幸せにしたいと真面目な顔で妾に告げたその男に妾はどんな言葉をかけたのだろうか。
きっとやれやれと、放ってはおけないと、そんなことをいいながらその男から指輪を受け取ったのだろう。
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「本当に...大うつけでございますね...みんなを幸せにする、と...そのために妾に隣で支えて欲しいと...そう言ったではありませんか...幸せにするどころか...みんなを悲しませて...妾の隣で支えるべき人もいなくなって...」
そっと彼の左手を握る。
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「不知火は体温が低いから夏はずっと不知火のそばにいれば涼しいんだろうなぁ!」
「なにを馬鹿なことを...暑苦しいから離れてください...」
不満そうな顔をして離れたあなたに少し名残惜しいだなんて思った妾。すでに彼に似てきたかもしれない、と自嘲気味に笑うと彼は不思議そう顔をしていた。
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「...妾よりも、冷たくなってしまって...夏は指揮官さまのそばにいれば涼しいのでしょうね...」
硬く冷たくなってしまった手をぎゅっと握る。もしかしたら温めてあげればコロッと生き返るかもしれないと。そんなありえないことを考えて強く強く握る。だけど彼を温めるどころか彼の冷たさで妾の方が体温が下がっていく。
「あんなにも...あんなにも暑苦しかった指揮官さまはどこに行ったのですか...?」
問うても返事など当然返ってなどこない。
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「不知火~もうちょっと前髪上げたら?不知火美人なんだから絶対前髪あげた方が可愛いよ。」
「妾は今のままで充分でございます...それとも指揮官さまは今の妾が気に入らないとでも?」
「いやいや!そんなことないよ!でもせっかくの美人さんなんだし...」
「ぶつぶつ言ってないでさっさと仕事を終わらせてください。」
「はい...」
項垂れるように仕事をする彼に背を向け火照った顔を冷ます。
...今度前髪でも上げてみようか。いやいや、それではなんだか彼に負けた気がする。...一応候補には入れておく程度にしておこう。
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「...1度だけでも、指揮官さまに前髪をあげた姿でも見せて差し上げれば良かったですね...」
後から悔いるから後悔。後悔先に立たず。あの時ああ言ってあげれば、あの時ああしてあげれば。今になって彼にしてあげれなかったことやしてあげたかったことがどんどん出てくる。
「...どうして...どうして!妾を置いて!...妾を、置いて...うぅっ...」
せき止めていたものが溢れ出る。何故、どうして彼が死ななければならなかったのか。まだまだ彼に言ってあげたかったことがある。してあげたかったことがある。彼と一緒にしたかったことがある。
辛い時にそっと頭を撫でてくれた彼はもういない。
その事実が妾を更に更に苦しませる。
「あぁ、あぁ...指揮官さまはやはり大うつけでございます...それでも...それでも、愛しております。」
こんな気持ちを抱くなら。心なんていらなかった。感情なんて知りたくなかった。愛なんて、欲しくなかった。
それでも、あなたを愛しています。指揮官さま。
不知火「なぜ妾だけこんなへびぃな話に...」
陽炎「ぬいは幸薄そうだからな!」
不知火「...姉ぇには当分お菓子はあげません。」
陽炎「なぬ!?ゆ、許してくれ~ぬい~!」
不知火「あとで指揮官さまにも少しお話しなければいけませんね...」
陽炎(ひぇ~ぬいがこんなに怒ってるのは初めて見るのはよっぽどだぞ~指揮官、ぐっどらっく!)