インフィニット・ストラトス《無限の空と電脳の空》   作:【ユーマ】

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物語が本格的に動き出すと中々書くのが難しい。早くIS編に入りたいので(と言うか、この小説原作一応ISですし・・・)ちょっと路線を変更して、ALO編はとりあえず飛ばします。需要があればIS編の合間の外伝として書いていきたいと思います。


第4話『支える者・支えられる者』

 翌日、迷宮区の攻略は急ピッチで進み、ディアベル達のPTがボス部屋の扉を発見。その夕方には本格的なボス戦への対策会議が開催された。キリトの話ではテスト時代のボス戦はトライ&エラー。兎に角挑んではやられてを繰り返し、ボスの行動パターンを把握し対策を立てる。との事だが、現状ではそんな事は出来ない。幸い、途中で部屋を出て撤退する事も出来るらしいので、暫くは偵察を目的とした途中撤退する事を前提とした戦闘を仕掛ける予定だったのだが。

 

「…攻め込んだな」

 

 キリトが配られたパンフレットの様なものに目を通しながら呟いた。それには第一層のボス《イルファング・ザ・コボルドロード》のデータが記載されていた。今回のパンフレットもガイドブックの出版者にして、情報を扱う商人プレイヤー、アルゴによって配布されたモノ。そして『このデータはβテスト時代のもので正式版では変更されてる可能性があります』の一文。これはアルゴが元テスターである事、もしくは元テスターとパイプがある事を明言しているようなものだ。ミストやエギル、ディアベルによってそこまで表面化しては居ないがキバオウの主張により元テスター達に対して他のプレイヤー達が確執とまでは行かなくとも思うところを感じているのは確かだ。この問題が表面化した時、真っ先に吊るし上げを喰らう危険性が高い。

 

(リスクを背負ってでも情報屋としての信頼を取りに掛かった、って所か……)

 

「みんな、今はこの情報に感謝しよう!」

 

 その時、皆と同じ様にパンフレットに目を通していたディアベルが顔を上げた。

 

「出処は兎も角、二日か三日は掛かる偵察戦を省略できるんだ。正直、すっげーありがたいって思ってる。だって、一番死人が出る可能性があるのは偵察戦だったからさ。これの情報が正しければボスの数値的なステータスはそこまでやばい感じじゃない。POTを沢山持ち込んで、きっちり戦術を練れば死人を出さず倒す事も不可能じゃない」

 

 幾ら命がけと言えどゲームである事に代わりは無い、ならば必ず攻略する事は出来る。ただ、ここで死んだらホントに死ぬ、と言う恐怖がこのゲームのハードルを高く感じさせているのだろう。やがて、ディアベルが「や、悪い、違うな」と発言を撤回し――

 

「絶対に死人は0にする。それは俺が騎士の誇りにかけて約束する!!」

 

 ディアベルは自分の事をナイトだと称した。ならばこの言葉は正に騎士の誓いと言う奴だろう。その言葉にこの場に居るすべてのプレイヤーが拍手と喝采を送る。

 

「よし、それじゃあまずは仲間や近くの人とパーティを組んでくれ」

 

 俺たち4人は昨日の段階で組んでいたので後二人……と思った頃には回りは既に6人ずつのPTを作っており、俺たち4人は図らずして余り者パーティと言う形になった。その後、ディアベルの指示の元にメンバーの細かい入れ替えやボス戦時における役割の振り分けが行われた。

 

「君達は取り巻きコボルドの潰し残しが出ない様にE隊のサポートをお願いしていいかな」

 

 そして、余り者と言う判断は向こうも同じだったのか俺らの役目はボスの取り巻きの排除……を担当する部隊の支援。つまりE隊がきちんと取り巻き処理を行えば、殆ど後方待機に近い。で、アスナとミストはそれが不満なのか、ディアベルに何か言おうとしていたが――

 

「了解。重要な役目だな、任せてくれ」

 

「ああ、頼んだよ」

 

 キリトが先に快諾の意を示し、ディアベルもそのまま次のPTへの指示に向かっていった。そして2人の不満の目が今度はキリトの方に向けられるのは当然だろう。

 

「どこが重要な役目よ。ボスに一度も攻撃できないまま終わっちゃうじゃない」

 

「そうよ。あれって事実上、フルパーティじゃないから後ろで待機しててってだけじゃない」

 

「し、仕方ないだろ。スイッチでPOTローテするにも、4人だけじゃ万一って事もあるし」

 

「スイッチ?」

 

「POTローテ?」

 

「……後で全部詳しく説明するよ。この場で立ち話じゃとても終わらないから」

 

 

 

 

 

   *

 

 

 

 

「で、説明って何処でするの?」

 

「まぁ普通に考えて宿屋の部屋じゃないかしら?」

 

「けどよ。あの部屋に4人はちょっと狭くねぇか?」

 

 俺とミストが泊まっている宿屋(もちろん部屋は別々)は一部屋6畳の広さにベッドとテーブルがあるだけだ。まぁ、何処の宿屋も似たり寄ったりだからある意味、選択肢は無いのだが。

 

「私もいや、誰かに見られたくないし……」

 

 例えそういう関係でなくても女性からこうした拒否を受けると傷つくのは男の性、アスナのこの一言にダメージを受けたのは自分だけでは無いだろう。そんな俺らの心情などお構い無しにアスナは宿屋の看板をにらみつける。 

 

「だいたい、この世界の宿屋の個室って部屋とは呼べないようなものばかりじゃない。食事とかはどうでもいいけど睡眠だけは本物なんだから、もう少しいい部屋で寝たいわ」

 

「そうか? 探せばもっと良いところだってあるだろう?」

 

「いや、俺とミストも一応、3つの宿屋全部見て回ったが、何処も似たようなモンだったぜ」

 

 その一言にキリトは「ああ、そっか……」と一人納得したような声を出して

 

「この世界の低階層における『INN』ってのはとりあえず寝泊りできるだけの店って意味で、コルを払えば寝泊りできる場所は他にもあるんだよ」

 

「な……そ、それ早く言いなさいよ」

 

「俺が借りてるのは農家の2階だけど一晩80コルだけど、二部屋あってミルク飲み放題のおまけつき。景色もよくてベッドもでかいし、その上風呂までついて――」

 

 キリトの言葉はそこで途切れた。一瞬の速さで女性二人がキリトに詰め寄りアスナはコートの襟首を掴んでいる。

 

「……なんですって?」

 

「ねぇ、キリト君。今、お風呂って言わなかった?」

 

 

 

 

 

 

     *

 

 

 

 

 ミストが、いや、恐らくは大部分の女性がこの世界で過ごすに辺り抱いた不満、それはお風呂の問題。 先ほど話したとおりこのアインクラッドの宿屋は寝泊りするだけの部屋で当然お風呂なんてついてなかった。まぁ、数日お風呂に入らない事により体が臭ったりする事は無いのだが、それでも女性からしたら何日もお風呂に入れないと言う事実自体が受け入れられないモノ。故にミストは速攻で、そしてアスナもしばしの葛藤の後、キリトの泊まってる部屋で話を聞く事ととなった。

 

「な、何これ、広っ!?」

 

「30コル上乗せしただけでこれかよ……」

 

「これで80コルなら十分割安よ。今度からはキチンと民家も調べないとダメね」

 

 と、俺が部屋を見渡してる中、アスナの視線がある場所に釘付けになりそれに気づいたミストの視線も同じ所を向いている。

 

「えーっと、風呂場はそこだから、ご自由にどうぞ」

 

「……ありがと」

 

「それじゃ、遠慮なく使わせ貰うわね。あ、そうだ二人とも――」

 

 そう言ってアスナが浴室へ入っていき、ミストもその後に続いたが、出入り口前でこちらを振り返り――

 

「判ってると思うけど、覗いちゃダメよ」

 

 と、ウィンクと共にそう言い残して彼女も部屋の向こうへ消えた。

 

「なぁ、ハル」

 

「なんだ?」

 

「ミストって何者なんだ? こんな状況なのに心に余裕がある様に見えるし、仮に演技だとしても虚勢をはれるだけでも凄い精神力だと思うんだが」

 

「さぁ?」

 

 その問いに俺は肩を竦める形で返した。まだ出会って一ヶ月ちょい。お互いの事なんて全然判らないし、俺自身周りを気にする余裕とて無いのだ。ただ――

 

(あの明るさに支えられているのも確かなんだよな……)

 

 正直、まだモンスターと命のやり取りをする事に恐怖がある。初見のモンスターと出会った時はそれが顕著だ。そんな時は何時もミストに励まされていたし、そういう時、何時も先陣を切ってたのは彼女の方だった.

 

「……なさけねぇの」

 

 こんなんじゃ、女尊男卑の世の中に文句を言う資格も無い。何せ、現状では俺とミストでは明らかに彼女の方が上なのは確かなのだ。

 

「何か言ったか?」

 

「なんでもねぇ……」

 

 俺が守る、なんて大層な事は言わない。けれど、せめて肩を並べられるように……。そんな事も思いながら俺は再びパンフレットを取り出し、その中身を頭の中に叩き込み始めたのだった。

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