プロローグ
紀元前2800年代。
中華の地が、黄帝により統一されるより前の時代。
道教の最高神である天帝の妹が、楊という男に嫁いで1人の男子を産んだ。
その男子は天帝により、長男でありながら『二郎』と名付けられた。
そして、二郎がこの中華の地に生を受けて、7年の月日が流れたのだった…。
◆
俺は姓を楊(よう)、名を二郎(じろう)、字(あざな)をゼンという。
今年7歳の男だ。
いきなり何を言うんだと思うかもしれないが、俺は所謂転生者だ。
前世ではどこにでもいる普通の日本人だった。
西暦2010年代までは間違いなく、日本で生きていた。
そんな俺が、何故か中華と呼ばれる地に転生してしまっている。
中国じゃないの?
俺の記憶が確かなら、転生前に神様に会った覚えはない。
もっとも、転生後には神様に何度も会っているけどな。
なんでかって?
俺の母上と伯父上が神様なんだよ!
「二郎、母が参りましたよ。」
「母上、よくぞお越しくださいました。」
灌江口という地にある、俺の廓にやってきた母上に、俺は頭を下げる。
「二郎、親子なのですから、その様な礼などいりませんよ。」
「うん、ありがとう母上。」
口元を抑えてクスクスと笑う母上に、俺は笑顔でそう言う。
「それで、今日はどうしたの、母上?」
「兄上…天帝が二郎をお呼びです。急いで支度をしなさい。」
「うん、ちょっと待ってて!」
伯父上が呼んでいるのか…急いで支度をしなくちゃ!
俺は母上が見ている前で、ドタバタと着替えを始めるのだった。
◆
我が子、二郎が慌ただしく着替えている姿が、とても愛しい。
二郎は産まれた時から、大変な運気に振り回されてきました。
まるで、『世界』が二郎を否定する様に病を背負った小鬼達が、
夜毎に二郎の寝所にやって来て、二郎を病にさせようとしてきました。
その為、私は二郎と一緒に住むことが出来ずに、こうして二郎を
専用の廓に住ませないといけない…。
そんな二郎を守る為に廓の入口には、常に鍾馗を立たせています。
鍾馗は小鬼を食べるので、二郎を守るのに最適な護衛です。
しかし、二郎が3つの頃、小鬼を食らう鍾馗を見た二郎が泣き出してしまいました。
あの時は兄上に頼んで宝具(パオペイ)を借りようとしましたが、その時に道教の神々が
大慌てになりましたね。
あれも我が子を愛するが故の行動。
元始天尊も太上老君も騒ぎ過ぎというものです。
…コホン。
そんな二郎も健やかに育ち、7歳を迎え、いよいよ道士になる時が来ました。
二郎がこれから小鬼の存在に煩わされずに、生きていくには必要な事ですが、母としてはもう少し側にいてあげたかったですね…。
母としてはもう少し側にいてあげたかったですね…。
「着替え終わったよ、母上!」
そう言いながら、小さな身体で胸を張る我が子の姿に、思わず鼻から愛が漏れそうになってしまいます。
道教の最高神である天帝が兄上、そしてその妹である私の血と、人である夫の血を引く我が子は、人の成長力と神の才を併せ持つ稀有な存在です。
この愛らしさも当然の事ですね。
「では、二郎。参りましょうか。」
「うん!」
元気良く返事をする二郎を抱き上げて、兄上の元に向かうために神獣に乗って空を飛ぶと、
二郎がとても楽しそうに大きな声をあげました。
「おぉ!?凄い!この犬、何で飛べるの!?」
はしゃぐ二郎の姿に、私の鼻の奥が熱くなりますがグッと堪えます。
…しばらくは二郎に楽しんでもらうのも、悪くありませんね。
私や兄上は神仙ですので、時間は幾らでもあります。
少しぐらい兄上を待たせても問題無いでしょう。
私の心を察したのか、神獣が飛ぶ速度を遅くしました。
素晴らしい…後でこの神獣には名を付けてあげましょう。
その後、二郎と私はゆっくりと兄上の所に向かいました。
その間に二郎は疲れてしまったのか、私の腕の中で眠ってしまったのでした。
二郎…母はあなたの寝姿だけで、後1000年は戦えます!
本日は4話投稿します
次の投稿は9:00の予定です