二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です


第9話

都市国家ウルクを千年もの時を越えて統治して来た偉大な王『ルガルバンダ』。

 

そのルガルバンダの前に1人の男がやって来ていた。

 

「初めまして、ルガルバンダ殿。俺は姓を楊、字をゼンと言います。中華の地の風習で

 名を名乗らぬ不敬を、どうかご容赦願いたい。」

 

ルガルバンダは見慣れぬ包拳礼をする二郎の姿に掲揚に頷く。

 

「遠き中華の地より、よくぞ参られたゼン殿。このルガルバンダが歓迎しよう。」

 

二郎はウルク訪問に際して、蛟退治や邪仙討伐で得た多くの財と、

自身の権能で作った神酒をルガルバンダに献上していた。

 

その事もありルガルバンダは、二郎に労いの言葉で応えたのだ。

 

二郎が包拳礼から顔を上げると、玉座に座るルガルバンダは千年の時を越えて衰えぬ、

覇者としての威容を身に纏っていた。

 

そんなルガルバンダの振るまいに、二郎は伯父に通ずるものを感じ取り、

ルガルバンダに敬意を持った。

 

「して、ゼン殿。我がウルクに何用があって参られたのだ?」

「風の噂で、このウルクの地に人の王となる者が生まれたと聞きました。」

 

二郎の言葉にルガルバンダは内心で警戒するが、そんな様子を見せずに話していく。

 

「確かに、我が子ギルガメッシュは人の王となる者だ。その我が子に何用かな?」

 

ルガルバンダとて、神々が世界を支配してから初めての事例となるのは認識している。

 

そして、その事で他の国の神々が何らかの行動を起こすであろう事も予測していた。

 

ルガルバンダは直ぐに行動に移れる様に、玉座から僅かに腰を浮かせて二郎の言葉を待つ。

 

そして…。

 

「俺はギルガメッシュの友になりに来ました。」

 

二郎の言葉に、ルガルバンダの思考は止まってしまった。

 

数秒の後に思考が戻ったルガルバンダは、二郎に再度問い質す。

 

「ゼン殿、今なんと言ったのかな?」

「ルガルバンダ殿。俺は貴方の子と友になりに来ました。」

 

再度同じ事を言われたルガルバンダは、驚きに目を見開いた。

 

ルガルバンダは二郎の紅い目を見て、二郎が神の血を引く者と認識していた。

 

ルガルバンダにとって神とは、救いと多くの加護を与えてくれた敬愛すべき存在だが、

気紛れで災害や災厄を引き起こす厄介な存在でもあると認識していた。

 

そんな神の血を引く者が、ギルガメッシュと友になりに来た?

 

ルガルバンダは何か裏があるのではと勘繰ってしまう。

 

そんなルガルバンダの様子に気付いた二郎は、苦笑いをしながら話し出す。

 

「俺は政なんかの駆け引きが苦手だから正直に話しますが、俺は中華の地の道教の

 最高神である天帝から指示を受けてウルクにやって来ました。その指示にはギルガメッシュが

 どの様な存在となるのかを、見極めてくるというのもあります。」

 

あまりに正直に話す二郎に、ルガルバンダは呆然としてしまう。

 

「それでその天帝というのが俺の伯父でして、俺はその外甥という立場なんですよ。」

 

頭を掻きながら話を続ける二郎に、ルガルバンダは警戒心が薄れていくのを感じていた。

 

「そんな立場なものですから俺は生まれてから百年程の間、友という者がいなかったのです。

 それで、伯父上が俺に友を作ってこいと言ってきたんですよねぇ…。」

 

そう恥ずかしそうに言う二郎の様子に、ルガルバンダは笑いを堪える。

 

「というわけでして、ギルガメッシュと友になりに来たのですが…、

 お許しいただけるでしょうか?」

 

最後に困ったような表情でそう言う二郎に、ルガルバンダは遂に吹き出してしまった。

 

「ハッハッハッ!随分と素直な物言いだな、ゼン殿!」

 

ルガルバンダはしばしの間、笑い続けた。

 

そして、素直に話した二郎に好感を持ったルガルバンダは、二郎を受け入れる事を決めた。

 

「我が子ギルガメッシュはまだ幼いが、それでも聡明と自慢できる息子だ。

 ゼン殿、ぜひとも会っていってくれるかな?」

「はい、喜んで。」

 

気を良くしたルガルバンダは玉座を立ち上がると、自ら二郎を案内したのだった。

 

 

 

 

ギルガメッシュ叙事詩の一節にはこう綴られている。

 

 

『先王ルガルバンダの時代。』

 

『治水の神ゼンが、幼き日のギルガメッシュを祝福しに現れた。』

 

『治水の神ゼンは、祝福の証として金銀の財宝と神酒をルガルバンダに贈った。』

 

『その贈り物に気を良くしたルガルバンダは、自らの手で治水の神ゼンを

 ギルガメッシュの元に案内したと…。』

 

 

古代オリエント界最大の英雄ギルガメッシュ。

 

その栄光の生涯を共に歩く事になる友との出会いが、間もなく訪れるのだった。




本日は5話投稿します

次の投稿は9:00の予定です

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