「これはこれは黄将軍、お久しぶりですな。」
「おう!久しぶりだな、姫昌殿!」
「して、此度は如何用で?」
事情を知りながらも笑みを浮かべてしれっと用件を訊ねる父の姿に、伯邑考は苦笑いを堪える。
「姫昌殿、故郷に帰りたくないか?」
「もちろん帰りたいですとも。妻達や子供達にも会いたいですからな。」
「よし!それじゃ、俺と一緒に行こうぜ!」
姫昌は笑顔でそう言う黄飛虎から目を外して、黄飛虎の後ろに控える女性へと目を向ける。
「それは王妃様もご一緒にという事ですかな?」
姫昌の指摘に黄飛虎は頭を掻きながら苦笑いをする。
「実は殷にいられねぇ事情が出来ちまってな。話すと長いから聞きたいなら道々で話すぜ。」
「ふむ、ちょうど良かったと言うべきですかな?」
姫昌の言葉に黄飛虎が首を傾げると、姫昌は微笑みながら話し出す。
「実は私と息子の処刑の噂を聞いた私の手の者が、都の外に迎えを寄越しておりましてな。」
「確かに、それはちょうどいいな。正直な話、俺一人じゃあ聞仲が放つ追手を相手するのは厳しいかもしれねぇからな。」
「ホッホッホッ!正直なことですな!」
黄飛虎は姫昌と一緒に笑うと、姫昌と一緒に誰かが中にいる事に気付く。
「あん?…まさか、伯邑考殿か?」
「お久しぶりです、黄将軍。」
「ちょっと待て、確か、伯邑考殿は別の場所に幽閉されていた筈じゃねぇか?」
「それは…。」
まだ若く腹芸の出来ない伯邑考は答えに詰まる。
そんな伯邑考に姫昌が助け船を出す。
「事情はわかりませんが、今朝早くに伯邑考はつれてこられましたぞ。」
「つれてこられたぁ?」
「私はてっきり処刑の日取りが決まり、息子と別れをさせようとしたのだと思ったのですが…まぁ、それで私の手の者が都の外に迎えを寄越したのですがな。」
豪快が服を着て歩いている様な黄飛虎だが、あまりに都合がいい状況に頭を掻く。
(聞仲の謀か?…わかんねぇなぁ…。)
兵の先に立ち、敵に立ち向かう武人である黄飛虎は、あまり策を用いるのを得意としていない。
今の時代の戦は一人の英雄が兵の先に立って戦うのが普通であり、聞仲の様に後方から用兵をするのは珍しい部類なのだ。
(…まぁ、いいか。俺の勘じゃあ、悪い様にはなりそうにねぇからな。)
気持ちをきりかえる為にため息を吐いた黄飛虎はニッと笑う。
「姫昌殿、少し下がってくれ。俺が棍を一振りして柵を壊すからよ。」
「相変わらず豪快ですな、ホッホッホッ!」
朗らかに笑いながら姫昌が下がると、黄飛虎は片手に持っていた金属製の棍で柵を破壊する。
柵が破壊されたのを見た姫昌は外に出て陽の光を浴びると背伸びをする。
そんな父の姿を見た伯邑考は、黄飛虎に負けない豪胆さを持った父を改めて尊敬したのだった。
◆
「ご主人、僕達は待っているだけでいいんすか?」
「二郎真君様は迎えに行けとしか言っておらんかったからのう。」
殷の都の外で隠れる様にして待機する姜子牙一行は、目的の人物が中々出てこない事に焦れていた。
「噂をすればといったところだな。尚、それらしき人物が出てきたぞ。」
士郎の言葉で姜子牙と四不象は都の方に目を凝らすが、砂粒程度の人影しか見えず、目を細めた。
「よく見えるのう…。」
「士郎さんは目がいいっすね。どこまで見えるんすか?」
「地の果てに隠れるところまでだな。」
「まるで仙人の千里眼の様だのう…。」
魔術による強化を用いてではあるが、その士郎の驚異的な視力に姜子牙は呆れた様に苦笑いをする。
「さてと、それじゃ行くとするかのう。もし人違いだったら逃げるつもりでのう。」
当然の様に逃げるという姜子牙に哪吒は不満を隠さずにジト目を向ける。
そんな自身の視線を気にせずに動き出した姜子牙達の背を見た哪吒は、鼻を一つ鳴らしてから姜子牙達の後を追ったのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。