姜子牙一行は順調に旅を続けていたが、黄一族の子供達に疲れが見え始めた。
「ふむ、そろそろ一休みといこうかのう。」
この姜子牙の提案に黄一族の子供達は喜びの声を上げる。
だが…。
「尚、どうやら一休みは出来なさそうだ。」
そう言いながら士郎は殷の都の方角の空を睨む。
そんな士郎の姿につられる様に一行は空へと目を向ける。
そして数秒程空を見ていると、黒い影の様なものが見えてきた。
その黒い影を見た黄飛虎は驚いて目を見開く。
「嘘だろ?なんであいつが直接来るんだ?」
冷や汗を流している黄飛虎を見た姜子牙が問いを投げる。
「黄将軍、あやつは何者なのかのう?」
「…あいつは聞仲。殷の大師(軍師)だ。」
「それは大物だのう…。」
黄飛虎から目を外して空に目を向けると、豆粒の様だった黒い影が姜子牙にも見えるくらいに近付いて来ていた。
(あれは霊獣?霊獣を持つのは仙人か師に認められた道士なのだが…どちらかのう?)
前者後者問わずに今の自分達では荷が重い相手だと認識して、姜子牙は思考を巡らせていく。
(儂達の目的は姫昌殿の護送…無理にあやつに勝つ必要は無い。さて、どう切り抜けようかのう?)
顎に手を当て聞仲を観察する姜子牙の頭には、幾つもの策が浮かび上がっていくのだった。
◆
「聞仲、なんでお前が直接追ってきた?」
黒麒麟に跨がって空から下りてきた聞仲を、黄飛虎は冷や汗を流しながら睨む。
「罪人を確実に処刑する為だ。」
「罪人だと?家族を守ろうとするのが罪だってのか!?」
「…それに関しては私も口添えをするつもりだ。」
「はっ!お前が何度口酸っぱく言おうが、紂王が改めた事なんざねぇだろうが!」
黄飛虎が紂王に敬称をつけなかった事に一瞬眉を寄せた聞仲だが、それを流して黄飛虎に問い掛ける。
「その事は置いておこう。だが、幽閉していた姫昌を連れ出したのは間違いなく罪だ。」
「ほう?姫昌殿は何の罪を犯して幽閉されてたんだ?」
「飛虎がそれを知る必要は無い。」
「罪なんざねぇんだろ?お前にとって姫昌殿が邪魔だから幽閉してたんじゃねぇのか?」
直ぐに言葉を返さない聞仲に黄飛虎は苛立つ。
「答えろ、聞仲!」
「…その者の存在は殷の為にならない。」
「殷の為だぁ?姫昌殿は十分に民を安んじてるだろうが!」
「それが殷にとって邪魔なのだよ、飛虎。」
「ふざけんなぁ!」
戦場で万の兵に声を届ける為に鍛えられた黄飛虎の声が、怒気を伴ってこの場に響き渡る。
しかし、聞仲は微塵も怯まない。
「飛虎、姫昌の首を差し出し、殷に戻るのなら命は助けよう。」
「聞仲よぅ、曲がりなりにも、てめぇとは友だと思ってた。」
「私もそうだ。」
「ならよぅ、俺の答えもわかんだろう?」
そう言うと黄飛虎は肩に背負っていた金属製の棍を一振りする。
「残念だよ、飛虎。」
聞仲は黒麒麟から下りると、懐から鞭の様な宝貝を取り出す。
「天化!皆を連れて西岐まで出来るだけ走れ!」
「父上!俺も戦います!」
「毛も生えてねぇ子供はすっこんでろ!早く行け!」
黄一族と姫親子がこの場を離れようとすると、逃さぬとばかりに聞仲が鞭の宝貝を構える。
すると…。
「勝手に話を進めないでくれるかのう?」
緊迫した場に似つかわしく無い少々間の抜けた声が通る。
その声の主は姜子牙だった。
「儂は道士の姜子牙という者だが…聞仲よ、お主も道士であろう?」
「…それがどうした?貴様の名は聞いた事もない。そんな若僧は下がっていろ。」
「思考が凝り固まった老人よりはいいと思うがのう。」
黄飛虎との会話で気が昂っているのか、聞仲は姜子牙の挑発で眉間に皺を寄せる。
その聞仲の反応を見て、姜子牙は内心で笑みを浮かべた。
「さて、黄将軍も姫昌殿達と一緒に行くがよい。」
「姜子牙殿、聞仲は生半可な強さじゃねぇぞ。」
「仕方ないのう。だが、それが儂達の仕事だからのう。スープー、皆を頼むぞ。」
「了解っス!ご主人も頑張るっすよ!」
姜子牙が笑みを浮かべると黄飛虎は少々戸惑いながらも四不象と共に姫昌達の元に向かう。
「さて、そういうわけでお主は儂達三人で相手をする。卑怯等と言うでないぞ?」
姜子牙が聞仲を挑発する様に笑うと、姜子牙の後ろから呆れた様な表情で士郎と哪吒が姿を見せる。
三人を一瞥した黄飛虎が姫親子と黄一族を連れて去っていくと、姜子牙達と聞仲の戦いが始まったのだった。
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