姜子牙達と聞仲の戦い、最初に仕掛けたのは哪吒だった。
哪吒が乾坤圏を両手に持って聞仲に向かって踏み込む。
だが聞仲は手に持っていた鞭の宝貝を振るうと、空気が爆ぜる音と共に哪吒が吹き飛ばされた。
「士郎、儂の目には哪吒はまだあの鞭の間合いの外にいた様に見えたが?」
「あぁ、私にもそう見えた。」
冷静に状況を分析する姜子牙と士郎にも聞仲が振るう鞭が襲い掛かる。
だが、その鞭の先端は士郎が干将で弾いた。
「ほう?」
一撃を防いだ士郎を見て聞仲が更に鞭を振るう。
二度、三度と士郎は聞仲の攻撃を防いでいく。
「見覚えの無い者だが、何者だ?」
「私は士郎。道士の見習いと言ったところか。」
会話の最中も聞仲は鞭の宝貝を振るっていくが、士郎はその全てを防ぐ。
「なるほど、では、これはどうかな?」
聞仲が鞭の宝貝に魔力を注ぐと、その攻撃の手数が増えた。
士郎は莫耶も投影して双剣で対応していく。
十、二十と聞仲の攻撃を士郎が防ぐと、その攻防を見ていた姜子牙は首を傾げた。
「気のせいかのう?鞭の数が増えた様に見えるのだがのう?」
「その通りだ。」
士郎に対する攻撃を止めた聞仲は手に持つ宝貝を姜子牙に見せる様に持ち上げる。
「私の『禁鞭』は力に応じてその数を増やし、攻撃範囲を伸ばす。」
「なるほどのう。もっとも、士郎には通じぬ様だがのう。」
姜子牙が挑発する様に言うと、聞仲は不敵な笑みを浮かべて禁鞭を振るう。
すると、禁鞭の数が三本に増えた。
三本の鞭が士郎に襲い掛かる。
だが、士郎はこの攻撃も干将と莫耶を振るって防いでいく。
「やるのう、士郎。」
「これぐらいの攻撃に反応出来ねば、老師に何を言われるかわからんからな。」
「確かにそうだのう。」
戦いの最中でも常と変わらぬ様子の姜子牙と士郎の様子に聞仲は不快そうに眉を寄せる。
「しかし、士郎だけを相手していていいのかのう?」
姜子牙が意味深に聞仲に声を掛けると、聞仲の背後から哪吒が乾坤圏を投じた。
その乾坤圏を聞仲は禁鞭の数を増やして対処する。
「これで四本目だのう。」
聞仲の手の内を見ていく中で姜子牙は策を考えていく。
だが…。
「…ふんっ。」
聞仲が鼻を鳴らすと、姜子牙達の周囲を取り囲む様に無数の鞭が現れた。
「…これは想像以上だのう。」
冷や汗を流す姜子牙は、打神鞭を手に取って臨戦態勢に入るのだった。
◆
「今の所はいい勝負だね。もっとも、聞仲にはまだ余力があるみたいだけど。」
「ワンッ!」
隠形の術で姿を隠しながら姜子牙達の戦いを見物している二郎は笑みを浮かべている。
そんな二郎に問いを投げる者がいた。
「楊ゼン様、姜子牙ちゃん達は聞仲ちゃんに勝てるかしらん?」
そう問いを投げるのは妲己である。
妲己は聞仲が黒麒麟に乗って殷の都を飛び去った後、二郎と共に哮天犬に乗って姜子牙一行の旅を眺めていたのだ。
だが、そんな二人に頼み込んでついてきた者がいる。
「士郎、こんな所で負けるのは承知しないぞ。」
両手を握り締めてそう口にするのは王貴人だ。
王貴人は修行の途中に二郎と一緒に出掛けようとする妲己を見付けると、その行き先を聞いた。
何故その行き先を聞いたのかその時の王貴人には自身の行動を理解できなかったが、あえて言うのなら恋する乙女の勘であろう。
王貴人は妲己と二郎が聞仲と士郎達の戦いを見物すると聞くと、片膝を地についた包拳礼をして二人に自分も連れていって欲しいと頼み込んだ。
この王貴人の願いは快く受けいられて、こうしてこの場にいるのだ。
二郎は竹の水筒を妲己に差し出しながら妲己の問いに答える。
「今の姜子牙達では聞仲に勝つのは難しいだろうね。」
「そうねん。」
「二郎真君様、今の士郎ではどうやっても聞仲には勝てないのですか?」
心配そうな表情をしながらそう言う王貴人の姿に、二郎と妲己は笑みを浮かべる。
「ここで聞仲に勝つ必要は無いよ。士郎達の目的は姫昌達を西岐に連れていく事だからね。」
「そうねん。士郎ちゃん達はここで聞仲ちゃんに負けても、生き残れたら問題無いわん♡」
「ですが…。」
二郎と妲己の言葉に王貴人は納得がいかないとばかりに眉間に眉を寄せる。
そんな王貴人の姿を見て妲己はクスクスと笑う。
「そんなに士郎ちゃんが心配かしらん?」
「なっ!?…べ、別にいいじゃないですか。」
顔を赤くした王貴人が目を逸らすと、二郎と妲己は顔を見合わせて肩を竦めた。
「さて、姜子牙達は上手くやれるかな?」
「うふふ、楽しみだわん♡」
二郎達が見守る中で、姜子牙達と聞仲の戦いは続いていくのだった。
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