姜子牙達の戦いを二郎達が見物をしていたが、この戦いを見物していたのは彼等だけではなかった。
「姜子牙は結構やるようになったね、申公豹。」
「そうですね、黒点虎。面白い事が起こりそうな予感がして見にきたかいがありました。」
二郎達の他に姜子牙達の戦いを見物していたのは申公豹と黒点虎である。
彼等は数日前に予感に従って隠形の術で姿を隠して殷の都を見張っていたのだが、こうして最後まで戦いを見物していたのだ。
「申公豹、姜子牙達の戦いはどうだったかな?」
「面白かったですよ。それはそれとして、隠形の術で姿を隠しているのですから、当たり前の様に話し掛けないでくれませんか、二郎真君。」
申公豹が声のした方に振り向くと、そこには空に立つ二郎の姿があった。
「ところで、聞仲は力を温存し続けていましたが、貴方が何かをしたのですか?」
「さて、どうかな?」
「過保護ですね。まぁ、その方が面白いのでいいですけど。」
今回の戦いで聞仲は姜子牙達の周囲を無数の禁鞭で覆ったのだが、その瞬間に姜子牙以外の者達がこの場にいる事に気が付いた。
それは、姜子牙達を覆った禁鞭の一つが虚空で弾かれたからだ。
気配も姿も感じ取らせずに禁鞭を弾いた者がいる。
それ故に聞仲は禁鞭を弾いた何者かを警戒して、姜子牙達に力を使わずに温存したのだ。
「さて、面白そうなことも終わったので私は行きますよ。」
そう言うと申公豹は黒点虎と共に去っていく。
申公豹を見送った二郎は地にへたりこんでいる姜子牙達を一瞥すると、姫昌達の所に向かうのだった。
◆
「私の禁鞭を弾いたのは何者だ?」
黒麒麟に空を駆けさせて殷の都に戻っている聞仲がそう呟く。
「可能性があるのは妲己…いや、申公豹か?」
聞仲は二郎が弾いた事に気がつかない。
何故なら二郎が動くのならば、既に殷の政を乱す妲己とその配下達を討っていると考えているからである。
だが、聞仲には数百年もの時を殷に仕えた事で忘れてしまった事がある。
それは、二郎は殷の為に動くのではなく、中華の為に動くのだという事だ。
聞仲にとって殷とは中華そのものである。
しかし、二郎や天帝等の中華の神々にとって殷とは中華の地にある国の一つである。
その認識の差が、聞仲の勘違いを引き起こしているのだ。
「ふんっ!何者であろうと、殷の為にならぬのなら滅ぼすだけだ。」
聞仲は黒麒麟の腹を軽く蹴ると、更なる速さで殷の都へと駆けさせる。
その聞仲の背中を、哮天犬に乗って隠形の術で姿を隠した妲己と王貴人が見送るのだった。
◆
「なんとか生き残れたのう…。」
「あぁ…。」
聞仲との戦いを終えた姜子牙と士郎は安堵の言葉を溢す。
「これ哪吒、こんなところで寝るでない。」
死闘と言える戦いを終えて気が抜けた哪吒は、地に身体を横たえて眠ってしまっている。
哪吒はまだ少年なので無理もないだろう。
「私が哪吒を背負う。休むにしても場所を変えなければな。」
「士郎、すまんのう。」
「なに、まだ私には幾何かの余力がある。なければ尚に押し付けていたさ。」
士郎はそう言うが、姜子牙はなんだかんだいって士郎が哪吒を背負ったと思っている。
そんな姜子牙の思いに気づいた士郎は照れ隠しに苦笑いをした。
「では、せめて儂が先導しようかのう。」
「あぁ、頼む。」
姜子牙と士郎が歩き出す中で、哪吒は士郎の背で穏やかな寝息を立てていたのだった。
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