二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第110話

「士郎さん、哪吒くん、ご主人~。」

 

姜子牙達が聞仲との戦いを切り抜けた翌日、姜子牙達の元に四不象がやってきた。

 

「スープー、何故ここに?姫昌殿達の護衛はどうしたのかのう?」

「昨日の夜、二郎真君様が来て、僕にご主人達を迎えに行くようにって言われたんすよ。」

「二郎真君様が?」

「そうっス。今は二郎真君様が、姫昌さん達の護衛をしてくれているっすよ。」

 

四不象の言葉に姜子牙は驚くが、直ぐに頭を掻きながらため息を吐いた。

 

(おそらくは儂達の戦いを見ていたんだろうのう…。もしや、聞仲が手加減していた事と何か関係があるのかのう?)

 

確証は無いが、姜子牙はそれがなんとなく正解だと思った。

 

(それはとにかく、これで姫昌殿達に追い付けるのう。野宿はもう勘弁願いたいから、スープーに乗って先を急ぐとするかのう。)

 

四不象の背に姜子牙と士郎が乗ると、宝貝で空を飛ぶナタクと共に姫昌達の元へと向かったのだった。

 

 

 

 

姜子牙達が姫昌達の所に向かった頃、殷の都に戻っていた聞仲は紂王に謁見していた。

 

「ねぇん、紂王ちゃん♡姫昌ちゃんを逃がしちゃった聞仲ちゃんは罰するべきじゃなぁい?」

 

妲己が肩にしなだれかかりながらそう言うと、紂王は鼻の下を伸ばした。

 

だが、直ぐに表情を引き締めて妲己に言葉を返す。

 

「妲己の言うことはわかる。だが、聞仲に成せぬのなら、殷の誰にも成せぬであろう。」

 

片膝をついて頭を垂れる聞仲は、黙して二人の話を聞いている。

 

(…本当によい成長をした。かつて、女媧の神殿で粗相をしでかした頃と同一人物とは思えない程に…。)

 

中華の人々に紂王は酒と女に溺れる愚王と認識されているが、十年以上前の若き日の紂王は正にその通りだった。

 

だが、現在の紂王は中華の人々の間に深く浸透する人身御供の文化を少しずつ撤廃させていき、油断なく飢饉に備える名君へと変わりつつあった。

 

では、何故に中華の人々に酒池肉林の日々を送る愚王と噂されているのかというと、それは妲己の配下が噂を広めただけでなく、紂王自身が噂を広めているからである。

 

現在の紂王は女媧の神殿にて粗相をした事を反省しており、女媧への償いの一つとして自身が名声を得ぬ様に愚者としての噂を広めているのだ。

 

もっとも、それでも国産みの神を侮辱した罪は消えず、妲己達が殷を滅ぼす為に動いているのだが…。

 

「もぉん、妲己、ふま~ん。」

 

そう言って頬を膨らませた妲己は部屋を出ていった。

 

妲己が部屋を出ていくと、紂王はため息を吐いてから聞仲に話し掛けた。

 

「聞仲よ、面を上げよ。」

「…御意。」

 

聞仲が片膝をついたまま顔を上げると、紂王は聞仲に微笑んだ。

 

「聞仲よ、御苦労であった。して、姫昌はこの後どう動くと思う?」

「…おそらくは国を起こし、殷に弓を引くでしょう。」

「そうか…これも、余の不徳の致すところよな。」

 

紂王の言葉に聞仲が口を開こうとするが、紂王は片手を前にだして聞仲を制した。

 

「姫昌の事はもうよかろう。それで、女媧様の神殿への供物は受け取ってもらえたか?」

「いえ…。」

「そうか…十年に渡り受け取ってもらえぬとあらば、覚悟せねばならぬな。」

「紂王様!」

 

聞仲の言葉の続きを、紂王はまた片手を前に出して制する。

 

「聞仲よ、よいのだ。若き日の余の愚行が招いた事なのだからな。」

「若き日に酒量を誤り、失敗をするのは誰にでもある事です。それを咎めるなど狭量というしかありません!」

「そう言うな。あの失敗があればこそ、余は政を省みる程度の事は出来る様になったのだから。」

 

聞仲は拳を握り締める。

 

何故、これほどの王へと成長した紂王が治める殷が滅ぼされねばならぬのかと。

 

「紂王様、妲己をお遠ざけください。」

「聞仲よ、余は妲己が女媧様の御使いだと気付いている。いや、気付いたというべきだな。」

 

聞仲は紂王の言葉に驚いて目を見開く。

 

「ハッハッハッ!聞仲もその様な顔をするのだな?これは驚いた、ハッハッハッ!」

「紂王様…。」

 

腹を抱えて笑った紂王は涙を拭いながら話し出す。

 

「姫昌と一緒に黄貴妃も逃げたと知った時、余の頭の中にあった霞の様な何かが晴れたのだ。そうすると、今まで何とも思わなかった事に色々と気が付いてな。それで妲己の事にも気付いたのだ。」

「では、なおさら妲己をお遠ざけください。奴に気付いたと知られたのなら危険です。」

「もう既に気が付かれている。余が妲己の事に気付いた事をな。」

 

聞仲は眉間に皺を寄せると、禁鞭を手に立ち上がる。

 

「あえて問うが、何をしにいくつもりだ?」

「妲己を討ちます。」

「ならぬ。」

「ですが!」

 

紂王は聞仲に対して首を横に振ると玉座を立ち上がる。

 

「余も妲己も滅びを定められた者。無様に滅びるのはご免被るが、あれ程の美女と共に華麗に滅びるのならば悪くない、ハッハッハッ!」

 

聞仲は身を震わせると、血が滴り落ちる程に手を握り締めたのだった。




次の投稿は13:00の予定です。

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