「ご主人、士郎さん、哪吒くん、姫昌さん達が見えてきたっすよ。」
四不象に乗って姫昌達の元に急いだ姜子牙達は、休んでいる姫昌達を見て唖然とした。
何故なら、西岐まで逃げている道中の筈なのに女子供まで酔っ払っていたからだ。
「おう!姜子牙殿!無事でなによりだぜ!」
杯を片手に酔って顔を赤くした黄飛虎が姜子牙達の無事を喜ぶが、姜子牙と士郎は頭を抱えながらため息を吐いた。
「黄将軍、これはどういった状況なのかのう?」
「あん?姫昌殿の知り合いだっていう楊ゼン殿が酒を馳走してくれてな。しかもそれが明日には腹の中で水になるからガキでも飲めるっていうじゃねぇか。だからこうして皆で飲んでるのさ!」
赤い顔で満面の笑みになった黄飛虎は、手にしていた杯の酒を一息で飲み干した。
「プハァー!うめぇ!こんなうめぇ酒は初めてだぜ!」
「…そうだろうのう。」
姜子牙が項垂れて肩を落とすと、それを慰める様に士郎が姜子牙の肩に手を置く。
乾いた笑いをしながら姜子牙が顔を巡らせると、姫昌と膝をつきあわせて酒を飲んでいる二郎の姿を見つけた。
姜子牙は身体の力が抜ける思いを感じながら二郎の元に行く。
「お疲れ様、姜子牙。」
「これはどういうことかのう…じ…。」
姜子牙が二郎真君と呼ぼうとしたのを二郎が人差し指を口に当てて制する。
「黄一族には楊ゼンと名乗っているからね。俺の仙人としての名は控えてくれるかな。」
「控えても気付かれると思うがのう…。」
「それがそうでもないんだ。楊ゼンを名乗る中華の者は結構いるらしくってね。黄飛虎は俺もその一人だと思ったみたいだよ。」
二郎の言う通りに楊の姓を持つ男は字をゼンとする者が多い。
これは武神である二郎に肖ろうとしての事だ。
その為、黄飛虎を始めとした黄一族は二郎の事を武神である二郎真君とは思わなかったのだ。
「黄将軍が気付かぬのは無理もないでしょう。なにせ中華の者なら皆が知り、男なら一度は憧れる存在なのですからな。お会いできる等とは夢にも思わぬでしょう。」
「二百年ぐらい前から龍神が川や湖を管理する様になったからね。そのおかげで最近は治水もしてないし、蛟退治や邪仙討伐も他の者がやる機会が増えてきて、中華の民と会う機会が減っているのも関係しているかな?」
「私個人としては残念な事ですな。もっとも、こうして貴方様と飲める機会があるだけで十分ですが、ホッホッホッ!」
姫昌と二郎の会話に姜子牙と士郎はため息を吐く。
「そんな所に立ってないで、姜子牙達も一杯どうだい?」
二郎の誘いに諦めた様にもう一度ため息を吐いた姜子牙と士郎は、黄飛虎に負けぬ程の飲みっぷりで杯を干していくのだった。
◆
「父上!」
「うむ、ようやく見えてきたな。」
二郎が姫昌達に酒を振る舞ってから一ヶ月、二郎が去った後に旅を再開した姫昌達は無事に西岐の地に辿り着いた。
殷の都に負けぬ程の賑わいを見せる西岐の地に、黄一族の子供達が驚きの声を上げる。
「伯邑考、先に行って宴の準備をしなさい。私は黄家の皆さんを案内しよう。」
「はい!」
姫昌の指示に従って伯邑考が走り出すと、姫昌はにこやかに微笑みながら黄一族と姜子牙達の方に振り返る。
「皆さん、ようこそ西岐へ。領主として歓迎しますぞ。」
姫昌の言葉に旅の終わりを実感した黄一族は歓声を上げる。
そして護送の任を終えた姜子牙達は安堵の息を溢したのだった。
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