「ご主人、竜吉公主様の屋敷が見えてきたっすよ。」
元始天尊の呼び出しで崑崙山に戻った姜子牙は、元始天尊の指示で竜吉公主の屋敷に向かっていた。
「さて、竜吉公主様は儂達の仲間になってくれるかのう?」
「話は通したけど御本人次第って言ってたっすからね。」
妲己や聞仲との戦いを経験して姜子牙は、以前よりも仲間の必要性を強く感じていた。
(殷との戦では妲己や聞仲の配下の道士とも戦う事になるだろうのう…。その際に、儂や士郎達だけでは手が足りぬ。竜吉公主様には是非とも仲間になってもらいたいのう…。)
前方に見える竜吉公主の屋敷を見ながらそう考える姜子牙は、どの様に仲間に引き込むかを思案していくのだった。
◆
姜子牙が竜吉公主の屋敷に向かった一方で、士郎と哪吒は崑崙山に残っていた。
その理由は…。
「さぁ、どの宝貝でも好きなのを選んでいいよ。」
蔵の中に所狭しと転がる宝貝に士郎と哪吒が目を見開く。
士郎と哪吒は姫昌の護送の報酬として、二郎から宝貝を貰う話になっていたのだ。
「老師、これは全て老師が集めたものなのかね?」
「そうだよ。まぁ、他にも蔵はあるからこれでも一部だけどね。」
士郎は鍵の宝貝の先に繋がっている蔵の中の物の量にも驚いたが、それを遥かに上回る量の宝貝を目の前にして驚きを隠せない。
(この蔵の中を見るだけでも私には十分な価値がある。だが、実際にこの手に持ちたいと思うのは男の性なのだろうな。)
胸の高鳴りを誤魔化す様に士郎が苦笑いをしていると、哪吒が目を輝かせながら一歩前に進む。
(素直に感情を出せるのは若さの特権だな。さて、私も少しは見習うとするか。)
哪吒に続いて蔵の中に進んだ士郎は宝貝を一つ一つ手に取って解析の魔術を掛けていく。
(これだけの量を詳細に解析するには一日では足りんな。)
宝貝を手にした士郎が微笑みながら解析をしていると、哪吒が二郎に声を掛けた。
「二郎真君様、俺に宝貝を選んでくれませんか?」
「いいよ。何か希望の種類はあるかい?」
「乾坤圏よりも長い武器がいいです。」
哪吒の要望を受けて二郎が宝貝を物色していく。
(武神による選定か…。老師は何を選ぶのだ?)
興味を引かれた士郎は解析の魔術を掛けながらも横目で二郎を見ていく。
「うん、これがいいかな。」
三分程経つと、二郎はそう言いながら一つの槍を手に取った。
「二郎真君様、それは?」
「たしか『火尖槍』っていう槍の宝貝だね。」
士郎は二郎が手に持つ槍に解析の魔術を掛ける。
(魔力を注ぐと穂先に高熱の炎の刃を纏う槍か…。攻防の最中に間合いを変えられるのが利点だが、その反面として使い手を選ぶ槍だな。)
士郎の前世の世界では哪吒の師である太乙真人により授けられる筈だったものだが、この世界では二郎が蛟退治等で中華を旅していく中で火尖槍を手に入れて蔵に入れていた。
その事を士郎は知っているのだが、今生は過去の世界とは違うと既に割り切っており、参考程度にとどめてあまり気にしない事にしているのだ。
ふと自身の固有結界に火尖槍が登録されたのを感じ取った士郎は、火尖槍を右手に投影した。
「おや?士郎はこれを問題なく投影出来る様になったんだね。」
「以前の私なら、解析の魔術を掛けただけで頭痛に悩んだだろうがね。」
肩を竦めながらそう言う士郎だが、成長を実感したからなのか自然に笑顔になっていた。
「うん、丁度いいね。士郎にはその投影をした火尖槍を使って哪吒と手合わせをしてもらおうかな。」
「それは構わないが、老師が哪吒に槍を教えるのではないのかね?」
「槍の使い方の基本は教えるよ。士郎にもね。」
「私にも?」
士郎が驚いて目を見開くと、二郎は微笑みながら話を続けた。
「聞仲との戦いを見ていたけど、士郎も一度、武器の扱い方の基本をやり直した方がいいと思ってね。」
「たしか以前に、私の戦い方には手を加えないと言ったと思うが?」
「あの時の士郎には必要ない事だったからね。でも、今の士郎は『戦う者』としての殻を破る段階に来ているから必要なのさ。」
二郎の言葉の意味を理解した士郎はまたしても驚いて目を見開く。
そして、手にしていた火尖槍に目を落とした。
(殻を破る…私も、あの者達の領域にいけるのか?)
士郎の脳裏に前世で見た英雄達の戦いが甦る。
才の無い己では決して届かず、それでも諦めずにあの場所に手を伸ばし続けた…。
それが、あの場所に辿り着く事が出来るという二郎の言葉に、士郎は身を震わせた。
「さて、それじゃあ蔵の外に出て手合わせを始めようか。聞仲と一人で戦っても生き残れる程度には、二人を鍛えてあげないとね。」
そう言って二郎が微笑むと、士郎は違う意味で身を振るわせたのだった。
本日は5話投稿します。
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