「…大きいっすね、ご主人。」
「…大きいのう。」
崑崙山に戻った姜子牙が蛟退治を願い出ると、二郎は直ぐに天帝に話を通し、姜子牙達が蛟退治をすることが決まった。
そして三日後、蛟退治に向かった姜子牙達は初めて見る蛟の大きさに呆然としたのだ。
「怖じ気付いたのならお前はそこで見ていろ。」
そう言うと哪吒は火尖槍を手に一人で蛟へと向かう。
「尚、私は今回、君と哪吒の援護に回れとの事だ。」
「士郎は蛟退治の経験があるのかのう?」
「あぁ。といっても、死にかけたがね。」
苦笑いをしながらそう言う士郎の姿に姜子牙はため息を吐く。
「はぁ…やるしかないのう。」
姜子牙が打神鞭を手に取ると、士郎は弓を投影した。
「士郎さん、弓を扱えるんすか?」
「少なくとも、四不象達に誤射をしない程度には扱えると自負している。」
姜子牙は自己評価の低い士郎がそう言うのを驚いた。
(士郎がそう言うという事はかなりの腕前なのだろうのう。それならば、何故に今まで使わなかったのかのう?)
姜子牙は二郎に使用を禁じられていたのかと想像したが、それは勘違いである。
これは士郎の戦い方の問題だ。
それを知らない姜子牙は、士郎が弓を使わなかった事情が二郎にあると思い込んだ。
完全に濡れ衣である。
「それでは、士郎に背中を任せるとするかのう。」
「あぁ、任された。」
姜子牙が打神鞭を手に四不象と共に蛟に向かうと、士郎は投影した剣を矢の形に変えて弓につがえたのだった。
◆
「士郎が弓を使うのは久しぶりに見たね。世界の守護者をしていた時以来かな?」
「ワンッ!」
隠形の術で姿を隠しながら姜子牙の蛟退治を見物している二郎は、弓を手にした士郎を面白そうに見ている。
「うん、やっぱり士郎の弓は見事だね。矢を魔力が続く限り造り続ける事が出来る分だけ俺よりも上かな?」
「ク~ン?」
士郎の戦い方は守勢が主である。
これは前世の士郎が身に付けた戦い方だが、その前提は戦う者としての才能が無かった事に起因している。
だが、今生の士郎の身体は二郎お手製であり、神の血を持たない人間としては最高峰の才能を与えられて造られていた。
その才能はかつてあった別の世界においてかの騎士王に最高の騎士と認められた男に比肩する程のものであるのだが、士郎の自身への認識が一流の領域への成長を阻んでいた。
「士郎に戦う者としての殻を破らせるのはちょっと手間がかかりそうだけど、弟子を育てるというのも面白いものだね、哮天犬。」
「ワンッ!」
何か嫌な予感を感じたのか士郎はその身を震わせたが弓の冴えには影響はなく、見事に姜子牙達を援護していった。
そして半日後、姜子牙達は見事に蛟退治を成し遂げ、修行により成長した事を実感したのだった。
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