姜子牙達の修行に雷震子が合流してから三年程の月日が流れた。
この三年程の月日の修行で哪吒と雷震子は二郎に戦いの基礎を文字通りに叩き込まれていった。
その結果、三月に一度故郷に戻って十日は家族と過ごす雷震子と手合わせをした黄飛虎が、驚いて目を見開く程の成長を遂げていた。
そんな黄飛虎は『姫昌殿に頼んで天化の奴も崑崙山に行かせっかなぁ。』と言っていた。
この三年程の月日で成長をしたのは哪吒と雷震子だけではない。
士郎と姜子牙も成長をしていた。
士郎は咸卦法を体得し、蛟を相手に無傷で勝利出来る程に成長していた。
姜子牙の方は三年前に比べて遥かに魔力が増え、一刻の間なら全力で打神鞭を使い続けられるようになっていた。
だがそんな士郎や姜子牙でも二郎との手合わせでは、二郎に傷一つ付ける事が出来なかった。
そのせいなのか、姜子牙はいまいち自身の成長を実感出来なかったのだった。
◆
「はぁ…。」
「どうしたんすか、ご主人?」
「スープー、儂は強くなっているのかのう…?」
「大丈夫っすよ。ご主人、元気を出すっス!」
四不象がそう言って励ますが、士郎、哪吒、雷震子の三人が二郎と手合わせをしているのを見ながら姜子牙は肩を落としていた。
「僕と出会った頃よりも、打神鞭を一杯使える様になったじゃないっすか。」
「確かに以前に比べれば儂の魔力は増えておるがのう…。」
そう言って姜子牙がため息を吐くと、姜子牙の視界に影が入り込む。
その影の主を確かめる為に姜子牙が顔を上げると、そこには元始天尊の姿があった。
「ホッホッホッ、姜子牙は随分と殊勝な悩みを持つようになったのう。」
「元始天尊様、今日はどうしたんすか?」
「なに、二郎真君ばかりに任せずに、たまには儂も弟子の修行を見ねばと思ってな。」
腹の辺りにまで伸びた見事な白髭を撫で付けながら元始天尊がそう言うが、姜子牙は士郎達の手合わせから目を離さなかった。
「姜子牙よ、お主の相手は二郎真君か?」
「…何を言いたいのですかのう?」
「相手を間違えるなと言っておるのだ。姜子牙が勝たねばならぬ相手は妲己や聞仲であろう?」
姜子牙は士郎達の手合わせから目を外すと、元始天尊と目を合わせた。
「相手を知り、己をも知らねば勝てる戦いも勝てぬ。相手を間違えるでないぞ。」
妲己や聞仲を相手に生き残る事しか考えられない程の差を感じ、その妲己や聞仲に勝つための仲間集めも上手くいっていない姜子牙は後ろ向きな思考に陥っていた。
そんな弟子の様子を遠見の宝貝で見て気付いた元始天尊は、姜子牙に発破をかけに来たのだ。
「相手を知り、己を知る…策の基本だのう。」
そう呟いた姜子牙は両手で己の頬を張った。
「スープー、心配をかけたのう。」
「ご主人が元気になってよかったっス!」
四不象と顔を見合せると姜子牙に笑みが戻った。
姜子牙は立ち上がって埃を払うと、打神鞭を手に取って元始天尊と向き合った。
「それでは、一つ手合わせをお願いしますかのう。」
「ホッホッホッ!二郎真君程ではないが、儂もまだまだ弟子には負けぬよ。」
そう言いながら元始天尊が懐から宝貝を取り出すと、姜子牙と元始天尊の手合わせが始まったのだった。
◆
「おや?元始天尊様が手合わせをするのは久しぶりに見たなぁ。」
仙人の中で最も多くの弟子を持つ元始天尊だが、その弟子の育成方法は基本的に弟子の自主性に任せるといったものだった。
基本的に弟子の自主性に任せる元始天尊はめったに弟子と手合わせをする事がなく、そんな元始天尊が手合わせをした弟子は仙人に至る…といった噂が道士や仙人の間で広がっていた。
「たしか数百年ぐらい前に一度見たと思ったけど、あの時の道士は仙人になれたのかな?」
二郎が昔に遠目でチラリと見た元始天尊と手合わせをしていた弟子というのは、実は申公豹である。
その時の手合わせで申公豹の才を認めた元始天尊が申公豹に雷公鞭を与えたのだが、二郎が見た時には申公豹は雷公鞭を持っていなかったので、あの時の弟子が申公豹だと二郎は気付いていない。
「元始天尊様の手合わせを邪魔するわけにはいかないから、士郎達の動きを誘導していこうか。」
そう言って二郎は横目で姜子牙と元始天尊の手合わせを見ながら士郎達との手合わせを続けていく。
そんな二郎に士郎が咸卦法を用いて全力で仕掛けていったのだが、士郎は崩拳の一撃で吹き飛ばされてしまい、流れていく景色をどこか遠くを見詰める様な目で見ていたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。