二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第119話

雷震子が姜子牙達の修行に合流してから一年程の月日が流れた頃、崑崙山で修行をする姜子牙達の元に、二郎がまた少年を一人つれてきた。

 

「黄天化です!よろしくお願いします!」

 

黄天化は歳の近い哪吒と雷震子の二人と直ぐに打ち解けた。

 

そんな三人の少年を二郎が指導していく。

 

「哪吒、天化、槍は突くだけじゃなくて叩く、払うといった攻撃もあるんだよ。雷震子は剣で斬ることに拘り過ぎだね。三人共、もっと工夫をしないと士郎の守りを突破出来ないよ。」

 

三人の少年を同時に相手にしている士郎だが、その表情にはまだ余裕が伺えた。

 

「老師、私にも助言が欲しいのだが?」

「士郎は双剣以外を使ってみたらどうかな?」

「ふむ、では槍を使ってみよう。」

 

両手に持つ飾り気の無い武骨な双剣を消した士郎は、三尖刀を模した一本の槍を投影する。

 

突く、叩く、払うといった槍の基本を哪吒達に見せる様に士郎は槍を振るっていく。

 

「おらぁ!」

「ふっ!」

 

哪吒と天化の二人と正面から打ち合っているのを隙と見た雷震子が士郎の背後から仕掛け、剣を上段から降り下ろそうとしたが、士郎は槍の石突で雷震子の腹を突く。

 

息が詰まって地に倒れた雷震子を助けようと天化が果敢に士郎に仕掛けていく。

 

だが…。

 

「それは悪手だね。」

 

二郎の一言を肯定する様に、士郎は天化が持つ槍を巻き取る様にして弾き飛ばした。

 

石突で天化の肩を突いた士郎は、火尖槍を構える哪吒と対峙する。

 

「哪吒、火尖槍にばかり拘らずに乾坤圏も使っていこうか。」

「はい。」

 

二郎の指導に素直に従った哪吒を見て士郎は苦笑いをする。

 

「老師、一番弟子を蔑ろにしているのではないかな?」

「漸く過去の幻想の自分から逸脱出来たのだから、もう少しの間は自由に楽しませようかと思ってね。」

 

二郎の返答に士郎はため息を吐く。

 

修行の際に最強の自分を想像し、そこに至ろうと励んでいたのが以前の士郎だった。

 

だが、士郎が幻想していたのは前世の己を基準としたものであり、今生の自分ではなかったのだ。

 

そのため一時は伸び悩んでいたのだが、王貴人との出会いや二郎との修行でその認識を改め、士郎はぶつかっていた壁を越える事ができたのだ。

 

「士郎、彼女には感謝しないとね。」

「…あぁ。」

 

姜子牙達には王貴人と士郎の関係は伏せてある。

 

二郎がその方が面白いと思ったからだ。

 

士郎が苦笑いをしていると哪吒が乾坤圏を投じると同時に火尖槍を手に士郎へと仕掛けていく。

 

士郎は手にしていた槍を哪吒に投げると、続いて投影した双剣を乾坤圏へと向けて投げた。

 

哪吒が士郎が投げた槍を弾くと同時に、士郎は咸卦法の修行の過程で体得した瞬動を使って哪吒の側面に踏み込む。

 

「勝負ありだな、哪吒。」

 

士郎が左手に投影した剣を哪吒の首に添えると、哪吒は不満気に顔を逸らしたのだった。

 

 

 

 

「くっそー!また勝てなかった!」

「う~ん、もう少しはいけると思ったんだけどなぁ…。」

 

悔しげに天を仰ぐ雷震子に続く様に、黄天化も天を仰ぐ。

 

そんな二人を見て何かあるのかと哪吒が空を見上げると、士郎と三人の手合わせを見学していた四不象が微笑んだ。

 

「哪吒くんに友達が出来てよかったっすね、ご主人。」

「それは李靖が言うべき言葉だと思うがのう。」

 

姜子牙はそう言うが李靖は現在、元始天尊から仙術の指導を受けているためここにはいない。

 

今頃は師弟の心暖まる言葉の応酬が繰り広げられていることだろう。

 

その事を思い浮かべた姜子牙は苦笑いをした後に深くため息を吐いた。

 

「どうしたんすか、ご主人?」

「姫昌殿がまだ動かぬのはわかるのだが、殷が…聞仲がまだ動かない理由がわからなくてのう。」

「姫昌さんが殷から逃げてもう五年は経ったっすからね。」

 

四不象の言葉に頷いた姜子牙は頭を掻きながら思考する。

 

(妲己が都で暗躍しておるにしても、あの聞仲が西岐に一軍も出さぬのはおかしい…。都で何が起きているのかのう?)

 

姜子牙は紂王の王たる者への目覚めを知らない。

 

さらには聞仲がかつての己の志を取り戻した事も知らない為、姜子牙はここ数年の殷の動きを読む事が出来なかった。

 

(まるで姫昌殿が国を興すのを待っているかのようだのう。不穏分子を一斉に排除する為と考えればわからないでもないのだが…。)

 

為政者としては優秀な姫昌だが、その姫昌の武名は低い。

 

それ故に多くの属国は日和見を決め込むだろうと姜子牙は考える。

 

(最初は負けて不穏分子を燻し出すつもりか?消耗を考えぬならば悪い手では無いがのう。)

 

姜子牙は思考を打ち切る様に息を吐く。

 

(やはり崑崙山にいては得られる情報が少な過ぎる。二郎真君様に許可を貰って、西岐に行ってみるとするかのう。)

 

そう考えた姜子牙は立ち上がって埃を払うと、手合わせをしていた士郎を崩拳の一撃で吹き飛ばした二郎の元に向かったのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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