「黄将軍、どう思いましたかな?」
「…姜子牙殿は智者だな。」
二郎と話をして休暇を貰った姜子牙は、黄天化と雷震子の二人と一緒に西岐の地を訪れていた。
そして西岐を訪れた姜子牙が姫昌と黄飛虎の二人に会って中華の状況を尋ねると、そこで興味を持った姫昌が姜子牙に、これから先の中華がどう動いていくかを尋ねた。
そして一通りの話を終えた姜子牙は二人の元を去り、その場に残った姫昌と黄飛虎が話を続けているのだ。
「聞仲の奴が動かねぇのは俺も不思議に思ってた。けど、姫昌殿が国を興すのを待っている節があるってのは考えなかったぜ。」
「流石は大国たる殷…我々の動きを待つ余裕があるのですなぁ。」
そう言って姫昌が笑うと、黄飛虎は苦笑いをしながら頭を掻いた。
「さて、黄将軍。私は少し散歩にいってきますぞ。」
「口説けるか?」
「これでも多くの妻を持っておりますでな、ほっほっほっ!」
そう言って朗らかに笑うと、姫昌は黄飛虎を残して屋敷を出ていくのだった。
◆
「平和っすねぇ、ご主人。」
「そうだのう…修行の日々が嘘だったようにのう。」
西岐に程近い川に四不象と共にやって来た姜子牙は釣糸を垂れていた。
「ところでご主人、ご主人は生臭を食べないのに釣りをするんすか?」
「針には餌も返しもついておらぬよ。ただこうして川に糸を垂らして時が過ぎていくのを楽しんでおるだけだ。」
そこで話が終わると四不象は昼寝をし、姜子牙はゆったりと過ぎる時を楽しんでいった。
そんな二人の元に一人の男が訪れる。
「釣れますかな?」
姜子牙が声の方に振り向くと、そこには微笑みを浮かべた姫昌の姿があった。
「うむ、大物が釣れたようだのう。」
「ほっほっほっ!それはようございました。」
姫昌はゆっくりと歩いて姜子牙の隣に腰を下ろす。
そのまましばらくの間、二人はゆったりと流れる時に身を任せた。
「勝てますかな?」
不意に、しかし不快にならぬ様に姫昌が問うと、姜子牙は川を見詰めたまま答える。
「さてのう…やってみねばわからぬ。」
「勝てるとも、負けぬとも言わぬのですな。」
「相手は数百年以上を生きた経験を持つ傑物だからのう。」
姜子牙がそう答えると二人の間に言葉はなくなり、またゆったりと時が流れる。
「私は国を興します。」
「うむ。」
「姜子牙殿、手伝ってくれませんかな?」
姜子牙は頭を掻くと、釣糸を引き上げて竹竿を横に置いた。
「随分と買い被られたものだのう。」
「姜子牙殿の蛟退治の噂は西岐にも聞こえて来ておりますからな、ほっほっほっ!」
朗らかに笑った姫昌が立ち上がって姜子牙に手を差し出すと、姜子牙は姫昌の手を取って立ち上がる。
「姜子牙殿とは殷を逃げた時からの付き合いですが、これからも長くなりそうですな。」
「うむ、長くせねばならぬのう。」
二人は強く握手を交わすと、爽やかに微笑んだのだった。
◆
封神演義の一節には次の様に綴られている。
『釣りをしていた姜子牙の元に姫昌が訪れると、姫昌が釣れますかと問い掛けた。』
後に文王となる姫昌が姜子牙の元を訪れたこの一節は、勇士や名士の元に自ら足を運んで臣下へと招く故事となっている。
そしてこの一件が『太公に望まれた』として、周の軍師として名を上げた後に姜子牙は自らの名を『太公望』と改めるのだった。
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