姫昌が姜子牙を西岐に招いてから五年程の月日が流れると、姫昌は中華の各地に書状を出した。
その書状の内容は建国宣言だった。
『昨今、殷の横暴に苦しめられる中華の民の為に、西岐は殷から独立して【周】と名乗る事を宣言する。我等と同じ様に殷の横暴に立ち向かう志を持つ者は周に来たれ。』
各地に書状だけでなく、姫昌の手の者が立札を出していった事で周の事は中華全域に知られていく。
姫昌が建国宣言をしてから三ヶ月後、殷は西岐に…いや、周に軍を出すのだった。
◆
「姫昌様、大変です!」
慌てた様子の兵が西岐に造られた宮殿の王の間に駆け込んでくる。
「これ、慌てるでない。報告は正確に、簡潔にするのだぞ。」
「はっ!」
姫昌に招かれてからの五年程で軍師と認められた姜子牙が兵をたしなめると、兵は片膝を床について包拳礼をしながら報告を始める。
「殷が軍を出したと報告が来ました!」
兵の報告に王の間にいた姜子牙、姫昌、黄飛虎が顔を見合わせて頷く。
「いよいよだな。」
「そうだのう。」
「二人共、頼りにしてますぞ。」
三人は簡潔に会話を終えると、姜子牙が一歩前に進み出て兵に指示を出す。
「各将軍を集めよ!戦の準備だ!」
「はっ!」
こうして中華の歴史に残る殷周革命が始まるのだった。
◆
姜子牙が周の将軍を集め出した頃、崑崙山では出立の準備を整えた士郎と李靖の姿があった。
「いよいよだね、士郎。今の気持ちはどうかな?」
「端的に言えば、高揚している。」
「そうかい。それじゃ、楽しんでくるといいよ。」
「はぁ…不安だ。」
包拳礼をして深々と二郎に頭を下げた士郎と李靖は、哮天犬に乗って崑崙山を旅立った。
そんな士郎の後ろ姿を見て、雷震子と黄天化が愚痴を溢す。
「俺も早く父上の役に立ちてぇなぁ。」
「うん、俺も早く父上と一緒に戦場を駆けたい。」
雷震子と黄天化の愚痴を聞いた二郎は笑い声を上げてから話をする。
「二人はまだ未熟だからね。一騎打ちならともかく、戦場では不覚を取るだろうね。もちろん、哪吒もね。」
二郎の言葉に雷震子と黄天化、そして哪吒が項垂れる。
「でも二郎真君様、それじゃ殷との戦が終わっちまうんじゃ…?」
「周と殷の戦は二十年はかかるよ。その間に一人前になればいいさ。」
戦を知らない三人は驚いて二十年と呟く。
「ただ殷に勝つだけなら十年で十分だろうね。でも、周が掲げる大義が足枷になるから二十年必要なのさ。」
「「「大義?」」」
揃って疑問の声を上げる三人に、二郎は人差し指を立てて話をしていく。
「殷の横暴に立ち向かう。これが周の大義というのはわかるかい?」
二郎の言葉に三人が頷くと、二郎は話を続けていく。
「この大義を体現しようとすると、周の戦はある程度制限される事になるんだ。」
「えっと…例えばどんな事があるんですか?」
「そうだね。わかりやすいところだと、飢えている民を見捨てないってところかな。」
雷震子の疑問に二郎が答えると、雷震子と黄天化と哪吒の三人は揃って首を傾げた。
「軍を動かすには多くの食糧が必要なのはわかるだろう?腹が減っては思う存分に力を出せないからね。じゃあ、周の軍が行軍をしている時に飢えた民を見付けたらどうすると思う?」
二郎の問い掛けに、雷震子と黄天化と哪吒の三人が顔を見合わせる。
「えっと、民に食糧を分け与えます。」
「うん、そうだね。じゃあ、ある周の軍の食糧が少なくなった時に、その周の軍に殷の軍が戦を仕掛けてきたらどうかな?」
黄天化の答えに二郎が更に問い掛けると三人は驚いて目を見開き、雷震子が大声を上げた。
「卑怯だ!」
「負けたら滅びるんだ。勝たなければ意味が無いよ。」
まだ戦を知らず若い三人は納得が出来ず、不満そうな表情をする。
「戦で武功を上げる、名を上げる。それは大いに結構な事だけど、戦は相手が嫌がる事をするのが基本だ。それが嫌なら、それをしなくても勝てるだけ強くならなきゃね。」
不満そうな表情をしていた三人は表情を改めて力強く頷く。
そんな三人に二郎が微笑む。
「それじゃ、修行を再開しようか。哪吒は五年、雷震子と天化は七年ってところかな?三人が殷との戦で生き残れる様にしっかりと鍛えてあげるよ。」
そう言って二郎が歩き出すと、三人は大きな声で返事をして二郎についていくのだった。
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