二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿5話目です。


第127話

修行を終えた哪吒が周に加わってから更に五年程の月日が経った。

 

初陣で見事に敵将を討った哪吒に続く様に、後に合流した雷震子と黄天化も手柄を上げ中華に武人としての名乗りを上げると、竜吉公主が自ら弟子を率いて周の地へとやって来た。

 

また常に戦場に立ち、太公望の策により勝ち続けた伯邑考は『常勝将軍』と呼ばれ、その名声は揺るがぬものになっていた。

 

周が建国されてから十年、殷の支配から中華の半分を手にした頃に、文王は王位を長子の伯邑考に譲り渡すのだった。

 

 

 

 

「皆、そのまま宴を続けなさい。これ以上の酒量は老人にはきついのでな、先に失礼するよ。」

 

そう言って先刻まで文王を名乗っていた姫昌は、長子である伯邑考の戴冠の宴を去る。

 

「あの伯邑考が『武王』か…時が過ぎるのは早いものだ。」

 

姫昌から王位を継いだ伯邑考は『武王』を名乗り、周の王としてこの先の中華の覇を争っていく。

 

これまでの日々を思い出しながらゆっくりと自室へと歩く姫昌の表情はとても穏やかなものだ。

 

やがて自室に辿り着いた姫昌は深くため息を吐く。

 

「王位は退いたものの、伯邑考がこれからも戦場に立ち続ける事を考えれば、まだまだ楽隠居は出来そうにないか…。」

「そうだね、楽隠居をして余生を楽しむにはまだ早いかな。」

「おや、来ていただけたのですな、二郎真君様。」

「妾も邪魔をするぞ、文王。」

「竜吉公主様もこられるとは、倅の宴よりも豪華ですな。」

 

不意に声を掛けられたのにもかかわらず、姫昌はにこやかに二郎と竜吉公主を歓迎する。

 

二郎は床に腰を下ろして竹の水筒を姫昌に差し出す。

 

姫昌は朗らかに微笑むと、自身も床に腰を下ろして竹の水筒を受け取った。

 

竹の水筒を掲げて神酒を一口飲んだ姫昌は舌鼓を打つ。

 

三人は多くを語らず、時の流れを楽しんだ。

 

その時の流れを、姫昌は戴冠の宴よりも心地好く感じている。

 

「…二郎真君様とお会いしてから、もう十数年の時が経ったのですなぁ。」

「王としての日々はどうだったかな?」

「民の笑顔、これに勝るやりがいはありませんでしたなぁ。」

「それを本心から言える王は多くない。文王よ、誇ってよいぞ。」

 

文王を名乗っていた頃の姫昌は周の地の政だけでなく、周の下につこうとしていた各地の有力者とのやり取りも自身で担当していた。

 

姫昌は少数の有力者を歓迎し、多くの有力者を滅ぼす様に太公望に命じた。

 

名君との呼び名が高い姫昌だが、決して清廉潔白ではない。

 

必要とあらば賄賂だって笑顔で受け取る。

 

しかしそこには民が飢えない程度という絶対に譲れない基準があった。

 

それを超えていた有力者を姫昌は許さなかった。

 

もしそういった有力者も受け入れていたら、既に中華の七割は周の統べる所となっていただろう。

 

これにより中華の統一が十年は遅れると太公望が姫昌に告げたが、姫昌は断固たる決意で民を虐げる有力者を滅ぼす覚悟を示した。

 

この姫昌の覚悟を太公望は笑顔で受け入れた。

 

太公望だけではない。黄飛虎や士郎を始めとした周の将兵全てが姫昌の言を胸を張って受け入れた。

 

その結果、中華の有力者の大半が殷についてしまったが、代わりに多くの民がその住処を周の地へと移した。

 

それにより統べる土地の広さは同じでも、将兵の数は殷の方が多く、民の数は周の方が多いという今の状況を作り上げているのだ。

 

「二郎真君様、私は後、どれだけ生きられますかな?」

「俺の見立てでは、姫昌の孫の戴冠の宴を楽しめるぐらいだね。」

「ほっほっほっ!まだまだ妻の尻を撫でて楽しめそうですなぁ。」

「人の身でそれだけ旺盛なのが、妾は不思議でならんのじゃ。」

 

 

 

 

『文王』

 

姓を姫、名を昌という人物で、封神演義及び殷周革命において周を建国した王である。

 

二十七人の妻を持ち、百人の子供(内一人は養子)に恵まれ、百歳を超えても為政者として、そして男としても現役であった彼は、現代では男性の理想像の一人として例えられる事が多い。

 

そんな姫昌の逸話で最も有名なのが武神である二郎真君と酒を酌み交わしたものだが、これは武功が少ない姫昌に箔をつけるために後の時代に創作されたのではという説が少なくない。

 

創作物のモデルとして用いられる事も多い姫昌は、現代において中華だけでなく、日本でも広く知られ愛されている大英雄なのであった。




これで本日の投稿は終わりです。

また来週お会いしましょう。
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