殷の都から周に戻った士郎はその足で太公望の所に向かった。
太公望の執務室には太公望と四不象がいた。
「あ、士郎さん。お帰りっス。」
「む?士郎、ちょうどよいところに来たのう。」
「何かあったのか?」
「あると言えばあるが…先に士郎の話を聞こうかのう。」
「話が早くて助かる。」
一呼吸間を置いて真剣な表情を見せる士郎に、太公望と四不象は何事かと心構えをする。
「尚、次の戦で王貴人は私に任せてくれないか?」
「…理由を聞こうかのう。」
「私は、彼女を救いたい。」
太公望は士郎の言葉を聞いて頭を掻きながら思考を巡らせる。
(王貴人を救う?士郎が優しい心根の持ち主だとは知っておるが、どういった経緯でそう思う様になったのかのう?)
あれこれと可能性を考えるが、太公望は確信に至らなかった。
(仕方ない。直接聞くとするかのう。)
一つ咳払いをした太公望は士郎と目を合わせる。
「士郎よ、何故に王貴人を救いたいのかのう?」
太公望の問いに士郎は数秒程目を閉じた。
そして…。
「一言で言えば、彼女に惚れた。それが理由では駄目かね?」
士郎の言葉に太公望は驚いて口を大きく開いた。
そして数秒後、太公望は盛大に吹き出してしまった。
「ぷっ…くく、はーっはっはっは!士郎も色恋をするのだのう!」
「尚、君は私を何だと思っていたのだ?」
「はっはっはっ!いや、すまぬすまぬ。いかん、まだ笑いが…っ!」
「ご主人、笑い過ぎっス。」
士郎と四不象にジト目を向けられるが、太公望は腹を抱えて笑い転げた。
「四不象、私は尚との友人関係を考え直そうと思うのだが?」
「奇遇っすね。僕もご主人との主従関係を考え直そうと思ったところっス。」
「いや、ほんとにすまぬ。最近負けが続いて鬱憤が溜まっておったのでついな。」
涙を拭いながら太公望が笑みを向けると、士郎と四不象は顔を見合わせてから大きなため息を吐いた。
「それで、王貴人の事は任せてくれるのか?」
「任せるだけでなく、友として協力させてもらおうかのう。」
太公望が笑顔で手を差し出すと、士郎も笑みを浮かべて太公望の手を取る。
「士郎は王貴人との一騎討ちに勝ち、彼女を周に連れてくる事だけを考えればよい。笑った詫びとしてその他の雑事は儂が全て引き受けるからのう。」
「すまない、尚。」
「士郎よ、そこは礼を言うところだのう。」
太公望が人差し指を立てながら指摘をすると、その場に三人は揃って笑い声を上げるのだった。
◆
「ご主人、それで王貴人の事は大丈夫なんすか?」
執務室から士郎が去った後、ふと疑問に思った四不象は太公望に問いを投げ掛けた。
「周に少なくない被害を出しておるからのう。生半可な理由では、例え王貴人を一騎討ちで下しても処刑は避けられぬだろうのう。」
「それじゃどうするんすか?」
「主な方法は二つだのう。」
太公望は指を一本立てて説明していく。
「一つは、士郎のこれまでの武功を代償に王貴人の罪を免じて救う方法だのう。」
「でも、それだと折角叶った士郎さんの英雄になるって夢が駄目になるっス。」
「その通りだのう。だからもう一つの方法を使うのだ。」
「もう一つの方法っすか?」
首を傾げた四不象に太公望が耳打ちをする。
その方法を聞いた四不象は満面の笑みを浮かべた。
「いいっすね!ご主人、それでいくっすよ!」
「うむ、スープーにも手伝ってもらうからのう。」
「任せて欲しいっス!士郎さんの為にも頑張るっすよ!」
主従が揃っていい笑顔をしていると、練兵場で鍛練をしていた士郎がくしゃみをしたのだった。
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