二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第135話

「話はわかった。武王の名の元に、その者達の保護を引き受けることを約束しよう。」

 

胡喜媚達が西岐にやって来てから三日後、謁見の間で胡喜媚の話を聞いた武王が、殷の後宮にいた女性達や紂王の子供達の保護を約束した。

 

これはなにも善意だけで引き受けたわけではない。

 

政治的な判断もあったからだ。

 

もしここで一行を放逐すると、殷が滅んだ後の治世において御輿として担ぎ上げられる可能性が高い。

 

そうであるのならば多少の危険性を飲み込んででも、件の者達を手の届く所に置いた方がよいと決めたのだ。

 

「ありがとね、武王ちゃん☆」

 

物怖じも遠慮もしない胡喜媚の態度に、数人の者達が顔をしかめる。

 

「それで胡喜媚よ、お前はこの後どうするつもりだ?」

「う~ん…まだ決めてないけど、とりあえず妲己姉様の最後は見届けたいな☆」

「決戦に参加したいと?」

 

武王の問い掛けに胡喜媚が頷くと、そんな胡喜媚に声を上げる者がいた。

 

「子供が戦場にくるな。」

 

声を上げた者に皆の視線が集まる。

 

その声を上げた者は…哪吒だった。

 

「胡喜媚は子供じゃないもん!君の方こそ子供じゃん!」

「俺は戦場を経験している。お前と違って大人だ。」

「胡喜媚だって、いっぱい戦った経験あるもん!」

 

胡喜媚と哪吒のやり取りで場に弛緩した空気が流れると、周の主だった者達のほとんどが顔を見合わせて苦笑いをする。

 

太公望はニヤニヤと笑って二人のやり取りを眺めており、武王と黄飛虎は大笑いをしている為、二人のやり取りを止めようとする者は一人もいなかった。

 

「王貴人。」

「なんだ、士郎?」

「胡喜媚が恋を知るのは、意外に早いかもしれないな。」

「…あぁ、そうだな。」

 

胡喜媚と哪吒のやり取りは、四半刻後に拗ねた胡喜媚が謁見の間を退出するまで続いたのだった。

 

 

 

 

『胡喜媚』

 

封神演義及び殷周革命に登場する女性道士である。

 

妲己三姉妹の次女だが、その幼い顔立ちから当時の中華では王貴人との姉妹関係を逆に見られる事が少なくなかったと記述されている。

 

道士として彼女が得意とするのは変化の術で、宝貝を用いればその変化の術は武神である二郎真君の変化の術に匹敵すると妲己が評した。

 

そんな胡喜媚は封神演義及び殷周革命の終盤に、紂王の妾や子供達と共に西岐へと亡命している。

 

この行動の理由は封神演義では妲己による命とされ、殷周革命では殷の滅びに巻き込まれない様に亡命の手土産にしたと記述され、彼女が亡命した理由はハッキリとはしていない。

 

また亡命をした時に胡喜媚は哪吒と知己を得るのだが、その当時は犬猿の仲と称される程に顔を合わせる度に言い争いが絶えなかったようである。

 

そんな二人は封神演義及び殷周革命が終わった後の時代には恋人となるのだが、お互いに素直になれなかった結果、その恋が実るには百年以上の月日を必要としたのだった




次の投稿は13:00の予定です。

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