二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第138話

周と殷の決戦は次の段階に進んだ。

 

前線の兵の合間を駆け抜け殷の本陣の前に士郎が辿り着く。

 

妲己の配下の道士達は、それぞれが持つ宝貝で殷の本陣の前に辿り着いた士郎に攻撃していくが、士郎はその尽くを防いでいく。

 

士郎の奮戦により殷の本陣の道士達が足止めされると、守りが薄くなった本陣に周の名だたる将達が押し寄せた。

 

しかし、紂王を守るべく聞仲が立ちはだかると、それを予め読んでいた太公望が戦力をわける。

 

「哪吒、雷震子、黄天化、胡喜媚、予定通りに聞仲の相手を任せる。」

 

周でも高名な三人に加えて胡喜媚の合わせて四人が聞仲と対峙するが、聞仲はただ一人で四人と互角以上に渡りあっていった。

 

その戦いを尻目に太公望達が更に殷の本陣深くに進んでいくと、今度は妲己が現れる。

 

「うふん、待っていたわよん、太公望ちゃん、王貴人ちゃん。」

 

妲己が現れると、太公望は目配せをして黄飛虎を先に行かせる。

 

黄飛虎が警戒をしながら先に進むが、妲己は黄飛虎に何も仕掛けなかった。

 

「よかったのかのう?」

「紂王ちゃんが負けるのならそこまでの事だものん。」

 

戦場に似つかわしくない笑みで答える妲己に太公望と王貴人が警戒する。

 

「妲己姉様…。」

「王貴人ちゃん、手心を加えようなんてことしたら…直ぐに倒しちゃうわよん。」

 

寒気を感じるほどの妖艶な笑みを浮かべた妲己が、太公望と王貴人の二人と戦いを始めた。

 

 

 

 

「…来たか。」

 

殷の本陣の最奥にいる紂王がそう呟くと、紂王の護衛を務める兵がにわかに殺気立つ。

 

「黄将軍だ!討ち取れ!紂王様の元に行かせるな!」

 

千に及ぶ兵が剣や槍を手に百人の兵を引き連れる黄飛虎に殺到していくが、黄飛虎は先頭に立って棍を振るって兵を薙ぎ倒していくと、紂王へと真っ直ぐに進んでいく。

 

やがて黄飛虎が紂王の前に辿り着くと、引き連れていた百人の兵が黄飛虎と紂王を取り囲む様に輪の陣形を取って、黄飛虎と紂王に一騎討ちの状況を作り出した。

 

「老けたな、黄将軍。」

「そいつはお互い様でしょうよ、紂王様。」

 

互いに棍を手に立つその姿は、まるで敵を前にしているとは思えない穏やかな雰囲気をしている。

 

「賈氏を口説いた一件だが謝らぬぞ。いい女を口説くのは男の義務だからな。」

「やれやれ、どうしてこう女好きになっちまったのかねぇ?」

「余は子を残すのが王の使命と教わったのでな、文句は聞仲に言うがよい。」

 

そう言って紂王が笑うと、黄飛虎はため息を吐く。

 

「昔と比べて随分と成長しているようですなぁ…惜しい、というのは不粋か。」

「若き日の余が愚かであったのは自覚しておる。今更言っても詮なき事よ。」

 

肩を竦める黄飛虎に紂王は不敵な笑みで応える。

 

「そんじゃ、始めるとしますかね。」

「うむ、次代を担う者を決めるに相応しい決戦としようか。」

 

二人は棍を一振りすると、同時に踏み込んで戦い始めるのだった。

 

 

 

 

「だ…妲己様…。」

 

士郎が妲己の配下達と戦いを始めてから二刻(四時間)後、十人の妲己の配下の最後の一人の魂が封神台へと飛んでいった。

 

死闘を終えた士郎は大きく息を吐く。

 

十人の道士を同時に相手取って勝ちを得た士郎だが無事に済んだわけではない。

 

片目と片腕を失い、全身に余すところなく傷を負っている姿は正に満身創痍だ。

 

しかし、士郎が鍵の宝貝を使って虚空から竹の水筒を取り出して中の神酒を一口飲むと、失った目と腕が再生し、全身の傷も瞬く間に癒えていった。

 

「王貴人、尚、無事でいてくれ。」

 

傷を癒した士郎は直ぐに妻と友の元に駆け出す。

 

周と殷の決戦はいよいよ終幕へと進もうとしていたのだった。




本日は5話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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