「思ったよりも遅かったわねん、士郎ちゃん。」
「聞仲がしぶとかったのでね。それで遅れてしまったのさ。」
自然体で話し掛けてくる妲己に対して、士郎は干将と莫耶を手に対峙する。
「天弓士郎が剣で戦うのかしらん?」
「可能ならば弓で戦いたいのだが、どうやらその傾世元禳との相性が良くないみたいなのでな。」
士郎の言葉に妲己は口を押さえてクスクスと笑う。
「私の傾世元禳は中華で楊ゼン様の水鏡の守護結界に次ぐ防御を誇るのよん。士郎ちゃんは超える事が出来るかしらん?」
「貴女を倒すのに必要とあらば超えてみせよう。しかし、それ程の宝貝をどうやって手に入れたのか気になるのだが?」
「ふふふ、楊ゼン様にいただいたのよぉん♡」
妲己が傾世元禳を抱き締めると、士郎は眉間を揉む。
「殷に入り込む前に楊ゼン様にお別れを言いに行ったのだけどん、その時にこれをいただいたのん。」
「なんであの人はそれ程の宝貝を当然の様に渡しているんだ…。」
ため息を堪えた士郎は気を取り直して妲己と対峙する。
「士郎、妲己の布槍には気をつけよ。」
「布槍?…なるほど、妲己は女仙としてだけでなく、武人としても一流なのか。」
「妲己が言うには二郎真君様に教えてもらったらしいのだがのう。」
「…自由過ぎる我が師には頭が痛くなるな。」
士郎が今度こそため息を吐いてしまうと、それを見た妲己がクスクスと笑う。
「そこが楊ゼン様の素敵なところの一つよん♡」
「否定はしないし憧れもある。だが、今に限っては困りものだな!」
そう言いながら士郎は瞬動で妲己の横に踏み込むが、妲己が傾世元禳を振るうと士郎は受けに回る。
「中々やるわねぇん、士郎ちゃん。」
「老師に散々鍛えられたのでね。この程度ならば身体が勝手に反応してくれる。」
「それじゃ、もっと強くするわよぉん♡」
妲己が傾世元禳を布槍として使い、叩き、払い、突いてくるのを、士郎は干将と莫耶を駆使して凌いでいく。
「太公望ちゃんと王貴人ちゃんの回復を待っているといったところかしらん?」
「察しが良すぎる女性は老師に嫌われるのではないか?」
「楊ゼン様は私の全てを受け入れてくださるわん♡そしてこの身も心も、私の全てを捧げるに足る素晴らしい殿方なのよぉん♡」
挑発のつもりが逆に惚気られた士郎は内心で舌打ちをする。
「ならば殷を滅ぼす為に尽力せずに、老師と共に添い遂げる道もあったのではないか?」
「確かにその道もあったわん。でもね…私は夢を追うことを選んだの。」
雰囲気が変わった妲己に士郎は警戒する。
「その夢とは?」
「楊ゼン様の様に、千年先にも名を残す事よ。」
「それが悪名だとしてもか?」
「えぇ、そうよ。」
妲己は一際強く傾世元禳を振るうと、士郎を王貴人達の元に弾き飛ばす。
「私は一人の女として楊ゼン様を愛しているけれど、それと同時に数多の武勇伝を残す英雄としての楊ゼン様に憧れてもいるの。」
そう言って妲己は虚空を見詰める。
「英雄としての楊ゼン様に憧れた私は、身に付けた力を存分に振るいたい、人々に語り継がれる様に名を残したいと思うようになったの…そんな時に私は女媧様から殷を滅ぼす様にと命じられたわ。」
「そして、その命を受けたと?」
「そうよ、太公望ちゃん。」
神酒を飲み回復した太公望と王貴人が士郎の隣に立つ。
「妲己姉様…後悔していないのですか?」
「後悔していないわ、王貴人ちゃん。私は傾国の美女と呼ばれる様になった今の私を誇りに思っているから。」
命のやり取りをしている相手に向けるとは思えない程に、妲己は優しく微笑む。
「だから同情なんてせずに全力で私と戦いなさい。もし手を抜いたら…逆に滅ぼしちゃうわよん♡」
妲己が茶目っ気を込めて片目を瞑ると、妲己の話で戦意を失っていた王貴人の目に覚悟が宿った。
「士郎、私に剣を。」
「…わかった。」
士郎は新たに投影した干将と莫耶を王貴人に渡す。
「それじゃ再開しましょうか。私達が千年先でも英雄として語り継がれる為にねん♡」
次の投稿は13:00の予定です。