「竜吉公主様、天弓士郎殿と奥方の王貴人殿が訪ねてまいりました。」
「うむ、通すがよい。」
家僕に命じた竜吉公主が杯を口にする。
「士郎と王貴人は何用で妾の屋敷を訪ねてきたのかのう、二郎真君?」
「さてね?」
「まぁ、おそらくは妾を訪ねてきたのではなく、二郎真君を探してきたのだろうがな。」
殷が滅んで封神計画に必要な魂が集まると、二郎は監視の任を終えて竜吉公主の屋敷で過ごす様になっていた。
これは寿命が残り少ない竜吉公主が二郎と過ごす事を望んだからである。
「竜吉公主様、王夫妻をご案内しました。」
「うむ、ご苦労なのじゃ。」
竜吉公主が家僕を下がらせると、部屋に士郎と王貴人が入ってくる。
「二人は何用で妾の屋敷を訪ねてきたのじゃ?」
「二郎真君様に少しお話をしたい事がありまして。」
「やはりそうか。妾の事は気にせずに二郎真君と話すがよい。」
「ありがとうございます、竜吉公主様。」
王貴人が頭を下げるのに合わせて士郎も頭を下げる。
「それで、俺に何の用だい?」
「私達の今後の事についてです。」
二郎は目線で王貴人に続きを促す。
「私は生前の妲己姉様から封神計画の真の目的を聞いています。崑崙山を始めとした中華の要所を『世界』の外に移すそうですが…道士である私達は地上に残っていいのでしょうか?」
二郎は神酒を一口飲んでから王貴人と士郎に目を向ける。
「二人はどうしたいんだい?」
「老師、私達の意思で決めてもいいのか?」
「伯父上が地上に道士や仙人を残さないと決めても、中には勝手に地上に残ったりして好き勝手する者もいるだろうね。それなら、そういった者達を退治する役目を担う者がいても不思議じゃないだろう?」
二郎の言葉を聞いた士郎と王貴人は顔を見合わせて頷く。
「老師、私と王貴人は地上に残りたい。」
「あぁ、いいよ。でも、少し条件があるけどね。」
「二郎真君様、その条件とは何でしょうか?」
二郎は神酒を一口飲んでから話し出す。
「二人に出す条件は二つ。一つは基本的に同じ所に居続けない事。せいぜい百年ぐらいが限度かな?」
「老師、それは何故だ?」
「聞仲の一件があるからといえば、察しがつくかい?」
三百年以上に渡って一つの国に仕え続けた聞仲は、中華の天界よりも国を優先した。
これは中華の神々にとって反乱に等しい行為だ。
それ故に、中華の神々は同じ事が起きない様に、地上に残る道士や仙人に一所に留まり続ける事を、もしくは俗世に関わり続ける事を禁じる事にしたのだ。
もっとも、二郎に限ってはその限りではない。
二郎は千年以上に渡って世界中を回り人々の歴史に関わり続けてきたが、それでも二郎が中華の天界を蔑ろにした事は一度もなく、そんな二郎を中華の神々が信頼しているからだ。
…というのは建前で、二郎を抑えられる力を持つ者がいないのが本当のところだ。
天帝ならば二郎に命じる事も出来るのだが、その天帝は二郎が自由に生きる事を望んでいるのだから中華の神々にとっては頭の痛いことである。
「その条件はわかりました。それで、もう一つの条件は何でしょうか?」
「もう一つの条件は、二人が『世界』の外と内を自由に行き来する事が出来る様になる事だね。」
二郎の言葉に王貴人は首を傾げ、士郎は頭を抱えた。
「老師…貴方は私達に『第二魔法』の真似事を出来る様になれというのか?」
「その第二魔法というのが何かは知らないけど、俺の弟子とその妻ならそれぐらい出来る様になって貰わないとね。例えば宝貝を盗んだ道士が地上に逃げた時に地上に残った士郎達が盗まれた宝貝を取り返しても、『世界』の外と内を自由に行き来出来なかったら宝貝を天界に届ける事が出来ないだろう?」
そう言って二郎が肩を竦めると王貴人は納得した様に頷き、士郎はため息を吐いた。
「とは言っても簡単な事じゃないからね。だから代案を用意してあるんだ。出ておいで。」
二郎の言葉に従って虚空から一匹の霊獣が現れる。
「…黒麒麟?」
「うん、聞仲の霊獣だった黒麒麟だね。」
士郎の言葉に二郎が頷く。
「黒麒麟なら『世界』の外に移った中華の天界と『世界』の内の地上を自由に行き来が出来る。だから、二人のどちらかが黒麒麟の主人として認められればいい。」
顔を見合わせる士郎と王貴人に、二郎は茶目っ気を見せるように片目を瞑って話を続ける。
「もっとも、黒麒麟の前の主人である聞仲と同等かそれ以上の力を身に付けなければ、黒麒麟が二人を主人として認めないだろうけどね。」
この二郎の言葉に、士郎と王貴人は不敵な笑みを浮かべた。
「望むところです、二郎真君様。」
「あぁ、必ず身に付けてみせるさ。」
弟子とその妻の言葉に、二郎は笑みを浮かべる。
そんな三人のやり取りを、竜吉公主は楽しそうに聞いていたのであった。
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