二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿3話目です。


第145話

「そうですか…竜吉公主様が逝かれましたか…。」

 

姫昌は竜吉公主の為に献杯をする。

 

竜吉公主を看取った二郎は現在、周の都にある宮殿の一室にて姫昌と杯を酌み交わしていた。

 

「次は私の番ですかな?」

「俺の見立てでは伯邑考の方が先かな。」

「やれやれ、伯邑考は自慢の息子ですが、最後の最後に親不孝ですか。」

「こればかりは仕方ないだろうね。」

 

既に老人となって久しい姫昌だが、その心身は健康そのものだ。

 

しばし静かに酒を飲んでいた二人だが、不意に姫昌が二郎に話を振る。

 

「二郎真君様、お話に聞いていた封神計画はどんな状況ですかな?」

「後は黄飛虎、伯邑考、そして姫昌の魂を封神したら、中華の要所を『世界』の外に移して終わりだね。」

「道士や仙人の方々の多くが地上からいなくなるのですか…中華の民も寂しく感じるでしょうなぁ。」

 

周と殷との決戦で封神計画に必要な魂の量は十分以上に集まっているのだが、中華の神々は邪仙などに反魂の術で利用されたりしないように竜吉公主や姫昌達の魂を封神する事にしたのだ。

 

「ところで、私達は封神された後はどうなるのですかな?」

「中華の要所を『世界』の外に移す為に魂が持つ力を使われるからね。道士や仙人達でも多くは記憶や力を失って、悠久の時の果てに天然自然の転生を待つ事になるかな。」

「その限りではない者もいると?」

「その答えは封神されたらわかるよ。」

 

そう言ってほほ笑む二郎に姫昌は首を傾げた。

 

首を傾げる姫昌に二郎が杯を掲げると、姫昌は杯を打ち合わせて酒を飲み干したのだった。

 

 

 

 

時は流れ周を中華の覇者へと押し上げた功労者の一人である黄飛虎が亡くなった。

 

更に翌年には周の第二代王である武王こと伯邑考も亡くなった。

 

中華の民は英雄達の死を惜しみ、国を上げて彼等の冥福を祈った。

 

そして百歳を超えてなお衰えを知らなかった姫昌も、ついにその生涯に幕を閉じようとしていたのであった。

 

 

 

 

「ようやく、私の番のようですなぁ…。」

 

太公望を始め士郎や王貴人といった古い馴染みや、姫一族の子孫達に囲まれた姫昌が幸せそうに微笑む。

 

「姫昌殿、お疲れ様だったのう。」

「太公望殿も長年、周を見守っていただき、ありがとう。」

 

太公望の子供達も成人し周に仕えて根を張った今、太公望が周に残る理由はなかった。

 

だが太公望は姫昌を見送るまではと決め、こうして周に残っていたのだ。

 

「士郎殿と王貴人殿も、周を見守っていただきありがとう。」

「姫昌殿、貴方と共に在れた日々は私の誇りだ。」

「元は敵であった私を受け入れてくれた事を改めて感謝する。」

 

姫昌は雷震子を始め、姫一族の一人一人と別れの挨拶をしていく。

 

誰もが涙を流し別れを惜しむ。

 

人々の暖かさに包まれた姫昌は嬉しそうに微笑んだ。

 

「あぁ、私は果報者だ…そうは思いませんか、二郎真君様?」

 

姫昌の問い掛けに応じる様に、虚空から二郎が姿を現す。

 

姫昌の自慢話でしか聞いた事がなかった姫一族の子孫達は、二郎が現れた事に目を見開く。

 

「姫昌、よい旅を。」

「…その一言が、何よりの餞別です。」

 

多くの人々に見守られながら姫昌がゆっくりと目を閉じると姫昌の身体が光り、その魂が封神台へと飛んでいった。

 

彼の魂が飛んでいく光景を見た周の都の人々は、老若男女を問わずに誰もが涙を流したのだった。

 

 

 

 

不意に感じる暖かな風に少しずつ意識が目覚めていく。

 

意識が目覚めるにつれて身体の感覚が戻ると、姫昌は目を覚ました。

 

「はて、ここは?」

 

春の様な暖かな風が吹く草原で寝ていた事に気付いた姫昌が身体を起こして辺りを見回す。

 

すると、姫昌の目の前に淡い色合いをした一片の花弁が舞い降りてきた。

 

「これは…桃の花?」

 

桃の花の花弁は一片だけでなく次々と舞い降りてくる。

 

姫昌が見上げると、そこには桃の花の花吹雪が舞い散る鮮やかな光景が広がっていた。

 

「おぉ…なんと見事な。」

 

桃の花の花吹雪に姫昌は目を奪われた。

 

しばしの間、姫昌はここがどこかという疑問を忘れて桃の花の花吹雪を堪能していた。

 

すると…。

 

「あらん?皆、姫昌ちゃんが起きたわよん♡」

 

背後から聞こえたその声に驚きながら姫昌が振り返る。

 

「…これは夢なのだろうか?」

 

姫昌がそう言うのも無理はないだろう。

 

何故なら、姫昌が振り返った先には妲己を始めとして竜吉公主、伯邑考、黄飛虎、聞仲に紂王といった同じ時代を生きた英雄達の姿があったからだ。

 

「父上、またお会い出来て嬉しく思います!」

「は、伯邑考…これはいったい…。」

「全部、二郎真君のおかげなのじゃ。」

 

息子の挨拶に戸惑いながら問い掛ける姫昌に、竜吉公主が答える。

 

「竜吉公主様…二郎真君様のおかげとは?」

「封神計画の事は知っておるか?」

 

逆に問い返された姫昌だが、自身に起きている不思議に二郎が関わっていると知って落ち着くと、竜吉公主の問いに頷いて肯定する。

 

「贄となった魂は力を失って転生するのじゃが、そうすると英雄と呼ばれる者でも『星の守護者』とやらになれないそうでのう。そこで二郎真君が妾達の為に一計を案じてくれたのじゃ。」

 

竜吉公主の言葉に姫昌が首を傾げると、今度は妲己が姫昌の疑問に答える。

 

「私達と伯邑考ちゃん達の決戦は派手だったでしょう?そのせいで封神計画に必要以上の力が集まっちゃったみたいなのん。そこで楊ゼン様が余った力を使って常春の理想郷をお造りになったのよん♡」

「常春の理想郷…。」

「楊ゼン様はここを『桃源郷』と名付けられたわん♡」

 

舞い散る桃の花の花吹雪に姫昌が目を向ける。

 

そこには桃源郷の名に相応しい見事な光景が広がっていた。

 

「まぁ、簡単に言うと、ここは二郎真君が妾達の死後の安寧の為に『世界』の外に用意してくれた場所という事じゃな。」

 

竜吉公主のこの言葉に、姫昌から乾いた笑いが溢れる。

 

「姫昌よ、細かい事は抜きにして余達と飲もうぞ。聞仲の奴が姫昌が目覚めるまで二郎真君様が用意してくださった酒を飲んではならぬと言うて、余達に一滴も飲ませてくれなかったのでな。」

 

紂王が横目で聞仲を見ながらそう言うと、聞仲が咳払いをして誤魔化す。

 

そんな聞仲の姿を見た紂王や妲己達は笑い声を上げた。

 

(二郎真君様、貴方様は最初から最後まで私を驚かせてばかりですなぁ…。)

 

破顔した姫昌は皆につられる様に、大きな笑い声を上げたのだった。




これで本日の投稿は終わりです。

そして封神演義編これにて完結でございます。

来週に登場人物のまとめを投稿する予定ですが、それをもって9月一杯まで拙作をお休みさせていただきたく思います。

理由は封神演義編を書くのが楽し過ぎて次章の事を欠片も考えてなかったからですね…。

なので次章に書く神話や伝説の物色、及び妄想をするのでしばらくお待ちください。

それでは、また10月にお会いしましょう。
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