時は封神計画が始まる千年以上前にまで遡る。
『星』に英雄と認められたギルガメッシュとエルキドゥは、メソポタミアの冥界を離れて『星の守護者』として『座』へと招かれていた。
「ここが『座』か。」
「綺麗な場所だね、ギル。」
「常春の楽園か…『世界』の外だからこそ存在出来ている場所よな。」
「自然の摂理に反しているからね。『星』に英雄と認められた者へのご褒美ってところかな?」
ギルガメッシュとエルキドゥは『座』の中をしばし散歩をすると、久し振りに夫婦で二郎が造った神酒を口にした。
「やっぱり、二郎が造った神酒が一番美味しいね。」
「当然の事よ。我等の友が我等の為に献じた酒が、我等の口に合わぬ筈がない。」
ギルガメッシュは『蔵』から二郎が作って献じた料理を取り出して肴にする。
二人は楽園での日々を楽しんだ。
しかしある日に、ギルガメッシュは不意に不機嫌になったのだった。
◆
「ギル、どうしたの?」
花を愛でていたエルキドゥは、不意に不機嫌な雰囲気を纏ったギルガメッシュに声を掛ける。
「…これを見よ。」
そう言ってギルガメッシュは『蔵』から水晶の宝貝を取り出し、とある光景を映し出す。
「ギル、これは?」
「並行世界のウルクよ。」
水晶の宝貝には、かつて住んでいたウルクに近いがどこか違うウルクが映し出されている。
その映し出されているウルクの様子にエルキドゥは首を傾げた。
「民の顔が暗いね。並行世界のウルクでは何があったの?」
エルキドゥの問いにギルガメッシュは顔を逸らす。
そんなギルガメッシュの様子を不思議に思いながらも、エルキドゥは水晶の宝貝を操作して並行世界のウルクの民の顔が暗い原因を探していく。
すると、そこにはエルキドゥが目を見開く光景があった。
「これ…並行世界のギルだよね?」
荒れている並行世界のギルガメッシュを見たエルキドゥの言葉に、ギルガメッシュは不満そうに鼻を鳴らす。
「暴君となった我だ。」
「暴君?ねぇ、ギル。本当に並行世界のウルクでは何があったの?」
ギルガメッシュは水晶の宝貝に触れると、エルキドゥが求める答えがある場面を映し出した。
「僕がエンリルに命を奪われたところだね。あれ、二郎がいない?」
エルキドゥは水晶の宝貝を操作して色々な場面を映し出す。
しかし、並行世界のウルクにはどこにも二郎の姿が無かった。
「戯れに『世界』には我等がどのように『記録』されているのか『観た』。だが、そこには正視に耐えぬ『記録』しか残されていなかったのだ。」
そう言うとギルガメッシュは平時の服から黄金の鎧姿へと変わった。
「当てはあるの、ギル?」
「『原典』を含む全ての並行世界の我を消滅させればいい。」
人類最古の王であるギルガメッシュの存在が消滅すれば後の歴史に矛盾が生じて『人理』が崩壊する。
本来なら『世界』が修正を図るのだが、『世界』の外にある『星の守護者』の『座』であるが故に手を出せないのだ。
そしてそれを繰り返し『原典』を含む全ての並行世界が崩壊すれば、必然的に残ったこの『世界』が『原典』となるのだ。
乖離剣エアを抜き放ったギルガメッシュに、エルキドゥがクスクスと笑う。
「久し振りの冒険だね。」
「楽しそうだな、エルキドゥ。」
「並行世界とはいえ、愛する夫の違う一面が見れたからね。もっとも、あのギルだったら僕は惚れなかっただろうけど。」
ギルガメッシュが天地開闢の力を解き放って『世界』に穴を開ける。
エルキドゥは阿吽の呼吸で天の鎖を用いて、その穴が塞がらぬ様に縛った。
「行くぞ、エルキドゥ!」
「うん。僕達と二郎が友宜を結んだこの『世界』を『原典』にする為にね。」
ギルガメッシュとエルキドゥは並んで『世界』の穴に入り、並行世界の『座』へと乗り込んだ。
◆
「ほう?我が友を連れてくるとは殊勝な心掛けよ。我の『座』に土足で入り込んだ不敬は許すゆえ、エルキドゥを置いて疾くと去るがよい。」
エルキドゥを見た並行世界のギルガメッシュは上機嫌に笑う。
そんな並行世界の己を、ギルガメッシュは鼻で笑った。
「貴様ぁ!」
並行世界のギルガメッシュは『蔵』を開いて数多の宝貝をギルガメッシュに飛ばす。
「戯けが。」
ギルガメッシュは飛来する数多の宝貝を、手にしている乖離剣エアで弾きながら魔力を込めていく。
そして数多の宝貝を放ち続ける並行世界の己を、天地開闢の力で数多の宝貝ごと消滅させた。
「二郎と出会わなかった我があれほど愚かだとはな…。」
そう言って頭を抱えるギルガメッシュにエルキドゥが寄り添う。
大きなため息を吐いたギルガメッシュは顔を上げると、並行世界の己を消滅させた余波で空いた『世界』の穴に向かって歩き出す。
「ギル、次は僕がやるね。」
「ほう?並行世界の存在とはいえ、我に勝てるか?」
「並行世界のギルは戦士の基礎も出来てないみたいだからね。負けるわけがないよ。」
「フハハハハ!」
その後、ギルガメッシュとエルキドゥは数多存在する全ての並行世界のギルガメッシュを消滅させていく。
そして数百年掛けて『原典』を含む全ての並行世界のギルガメッシュを消滅させて自分達の『世界』を『原典』とすると、ギルガメッシュとエルキドゥは意気揚々と『座』へと凱旋し、二人で祝杯をあげたのだった。
これで今回の投稿は終わりです。
10月にまたお会いしましょう。