メソポタミアの天界にて、女神アルルは粘土を捏ねていた。
「うん、これでいいわ。後は軍神ニヌルタに頼んで力を与えて貰えば完成ね。」
創造の力を司る女神アルルはメソポタミアの最高神アヌの要請で、新たな命を創造していたのだ。
「天地開闢の力を手にしたギルガメッシュを危惧するのはわかるけど、本当にいいのかしら?」
女神アルルは、後は力を与えて命を吹き込むだけとなった粘土を見ながら首を傾げる。
「アヌ様もエンリル様も、もう少し『星』に目を向けて欲しいものなのだけど…。」
そう言うと女神アルルは、大きなため息を吐いたのだった。
◆
ギルガメッシュが原初の力を持つ宝貝を手に入れてから数ヵ月程経った頃、政務を終えてウルクを見回るギルガメッシュの前に、狩人をしている民が訴え出て来た。
「ギルガメッシュ様、どうかお聞き入れをお願い致します。」
両膝を地について頭を下げる民に、ギルガメッシュが頷く。
「して、何があったか?」
「野で狩りをしておりました所、人の形をした獣に獲物を奪われました。
このままでは狩りが出来ませぬ。」
狩人の訴えに、ギルガメッシュは面白そうに笑みを浮かべる。
「貴様の訴え、興をそそられたぞ。それに免じて我が歩みを止めた不敬を許そう。」
「はい!ありがとうございます!」
ギルガメッシュは伏して礼を言う狩人から俺に目を向けてくる。
「行くぞ、ゼン!我が庭に現れた人の形をした獣の見物にな!」
上機嫌に笑いながら歩き出すギルガメッシュの背に続いて、俺も歩き出すのだった。
◆
「あれか。」
俺とギルガメッシュが野に辿り着くと、1人の獣がいた。
「随分と神の気配が強い獣もいたもんだね、ギルガメッシュ。」
「フンッ!どれほどの力があろうとも、理性も知性も無い獣では役にたたぬわ。」
そう言うとギルガメッシュは、興味を無くした様に背を向ける。
「ゼンよ、シャムハトを呼べ。」
聖娼婦シャムハト。
まぁ一言で言えば、神に仕える今の時代の王の相手を専門でする娼婦だ。
だけど王の相手をするだけあって、それ相応の教養と容姿を持った女性である。
そして、生まれながらにして王であるギルガメッシュに仕えるシャムハトは、ウルクを取り巻く都市国家の中でも一番の才女であり、美を司る女神にも負けない美人なのだ。
「どうするつもりかな、ギルガメッシュ?」
「アレの野性を取り除かさせる。まぁ、それに伴いアレの力も弱くなるだろうが、少しは我を楽しませるであろう。」
そう言うとギルガメッシュはウルクへと戻っていった。
◆
シャムハトを獣の元に連れて行くと、シャムハトは獣と共に過ごして野性を抜いていった。
まぁ抜く方法がアレだったので、俺はシャムハトにそっと霊薬を渡しておいた。
シャムハトに野性を抜かれた獣は理性を得た事で、シャムハトから多くの知識を学んでいった。
そして僅か七日で獣は、神に作られたばかりとは思えない知性を得たのだった。
彼(彼女?)の名はエルキドゥと言うらしい
エルキドゥは女神アルルに創造された泥であり、性別がないそうだ。
そんなエルキドゥの見た目はもの凄い美少女なのだが、これは多くの事を教えてもらったシャムハトに敬意を表して、彼女の姿に似せているからだそうだ。
こうしてエルキドゥは理性と知性を得たのだが、代わりに野性と共に神に与えられた権能のほとんどを失った。
理性と知性を得たエルキドゥにギルガメッシュが会いに来たのだが、多くの権能を失ったと聞いたギルガメッシュは愉快そうに笑っていた。
そんな感じで対面したギルガメッシュとエルキドゥなのだが、その後のエルキドゥはギルガメッシュと行動を共にしている。
エルキドゥは俺やルガルバンダ殿の影響で神よりも人の事を考えた政をするギルガメッシュを、神の側に繋ぎ止める役割を与えられて地上に送られて来たと言っていた。
なのでその役割を果たす為にエルキドゥはギルガメッシュと一緒にいるのだが、俺の目にはギルガメッシュと一緒にいる事を楽しんでいる様に思える。
もちろんギルガメッシュも、エルキドゥと一緒に行動しているのを楽しんでいる。
これはそろそろギルガメッシュに名を名乗ってもよさそうだな。
そんな事を考えていた頃の事。
不意にエルキドゥがギルガメッシュに怒りを向けたのだった。
本日は5話投稿します
次の投稿は9:00の予定です