二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第155話

孫悟空捕獲の任を受けた二郎は花果山に向かう為に天帝の宮を後にしようとする。

 

だが…。

 

「待ってくれ、二郎真君!」

 

己を呼ぶ声に二郎は足を止めて目を向ける。

 

そこには梅山六兄弟の姿があった。

 

「俺達も孫悟空討伐…いや、捕獲に連れていってくれ!」

 

二郎は梅山六兄弟に返事をせずに、天帝へと振り返る。

 

「伯父上、彼等が孫悟空捕獲の任に参加しなければ問題があるのでしたら、参加した事にしておいてください。」

「うむ、細かい事は我の方でしておくゆえ、二郎は楽しんでくるがよい。」

 

天帝の言葉にニコリと笑みを浮かべた二郎は、梅山六兄弟には目もくれずに宮を去っていった。

 

しばし呆然とした梅山六兄弟はハッとして気を取り戻し、康が代表して天帝に物申す。

 

「天帝様!どうか我等に汚名を拭う機会をお与えください!」

「孫悟空に手も足も出ずに敗れて逃げたお主等に何が出来るのだ?」

「二郎真君と力を合わせれば、あの小僧など一捻りでございます!」

 

熱く語る康に対して、天帝は冷めた目で梅山六兄弟を見下す。

 

「酒色に溺れ拳法の修行を怠けていたお主等に、何故配慮せねばならぬのだ?」

「そ、それは…何かの見間違いにございます!」

「ほう?お主等が二郎の義兄弟を名乗り、方々で好き放題していたと聞いたのも我の聞き間違いか?三聖母からその様な訴えがきているのだぞ?」

 

梅山六兄弟は気まずそうに目を逸らす。

 

実は数百年前にシッダールタが『解脱』をした影響で、御立派な姿をした神が方々で張り切って人々の欲を刺激したのだ。

 

その結果、中華でも欲に溺れた者が少なくないのだが、二郎を始めとして王夫妻など影響ない者もいるので梅山六兄弟に言い訳は出来ないだろう。

 

「此度の孫悟空の一件、先ずお主等に任せたのは梅山の者達に配慮したが故だ。三聖母の訴えを無かった事にする為な。だが、お主等は失敗した。」

「何卒、何卒今一度の機会を!」

「今やまともに調息すら出来ておらぬお主等では、二郎の邪魔になるだけであろうよ。」

 

天帝の言葉に梅山六兄弟はぐうの音も出ない。

 

「お主等に先の孫悟空捕獲の任の失敗の罰を与える。向こう三百年は酒色を断って拳法の修行に励め。」

「そんな御無体な!?」

「嫌であれば二郎との義兄弟の関係を解消せよ。」

 

武神である二郎と義兄弟でなくなれば、これまでの様に好き放題には出来ない。

 

梅山六兄弟は罵詈雑言までは吐かぬものの、言葉を尽くして天帝に訴えた。

 

「お主等の武の才は二郎も認めたものだった。それ故に我もお主等が二郎と義兄弟となる事を認めたのだ。その才を腐らせているお主等に二郎の義兄弟たる資格など無いわ!」

 

天帝の一喝に、梅山六兄弟はただ項垂れる事しか出来なかった。

 

 

 

 

「へぇ、花果山は随分と猿が多いんだね、哮天犬。」

「ワンッ!」

 

哮天犬に乗って花果山へとやって来た二郎は、周囲の木々にいる猿達の姿に興味を持つ。

 

そんな猿達は二郎達を見つけると、威嚇の鳴き声を上げた。

 

しかし…。

 

「ワンッ!」

 

哮天犬が一哮えすると、恐れおののいた猿達は散り散りになって逃げ出した。

 

「花果山の猿達も伯父上の軍と戦ったって聞いたから、少し期待していたんだけどなぁ…。」

 

二郎はそう言うが、猿達が逃げ出したのも無理はないだろう。

 

何故なら、猿達と哮天犬では生物としての格が違うのだ。

 

花果山の猿達は孫悟空から鋼の様な肉体を得る不死の霊薬を与えられているが、それ以外は今の時代の猿とほとんど変わらない。

 

対して哮天犬は二千年以上前の神秘が色濃かった時代に二郎が造り出した神獣である。

 

しかも哮天犬はかつてのウルクで女神の腕を噛み千切った程の力を有しているのだ。

 

如何に不死の身体を持つ花果山の猿達でも、本能的に哮天犬に対して恐怖しても無理はないだろう。

 

そんな逃げ出した猿達だが、その内の一匹が山奥から一人の少年と共に戻ってくる。

 

「うわぁ、デカイ犬だなぁ。なぁ、この犬はあんたの犬か?」

「あぁ、そうだよ。」

「ほんとか!?なぁなぁ、触ってもいいか?!」

 

無垢さを感じさせる笑顔を見せる少年に、二郎はこの少年の名を察する。

 

「哮天犬が良ければ俺は構わないよ。」

「やった!なぁなぁ、哮天犬、触ってもいいか?」

「ワンッ!」

 

哮天犬が了承の意を込めて哮えると、少年は嬉しそうに触りだす。

 

「すっげぇ柔らかい!俺、犬を触ったのは初めてだ!」

 

二郎は心から喜びなから哮天犬を触る少年を、しばらくの間見守っていく。

 

しばらく経って満足したのか、少年は笑顔で二郎に振り向いた。

 

「ありがとな!あ、俺、まだあんたの名前知らなかった。」

「俺は二郎真君だよ。君は何て言うんだい?」

 

ニッと笑った少年は人差し指で鼻下を擦ると、胸を張って名を名乗る。

 

「俺は『悟空』!中華で一番偉い天帝から『斉天大聖』の名を貰った『孫悟空』だ!」




本日は5話投稿します。

拙作の悟空のイメージは最遊記似の美ショタです。

次の投稿は9:00の予定です。

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