「伯父上が君に名を与えていたとは知らなかったなぁ。」
「伯父上?ってことは、えっと…二郎真君は天帝の甥っ子なのか?」
「うん、そうだよ。」
直ぐに言葉が出てこなかった悟空に、二郎は微笑みながら言葉を返す。
「へ~、そうなんだ。あ、ところで二郎真君は俺の山に何をしに来たんだ?」
花果山を己のものと言って憚らない悟空を、二郎は面白そうに見る。
「伯父上の命でね、君を捕獲に来たんだ。」
「うえっ!?ほんとか?俺、何も悪いことしてないぞ!あれ?でも、二郎真君は俺を捕まえにきた奴等となんか違うな。」
二郎の言葉で後ずさる悟空だが、自然体の二郎に直ぐに警戒を解く。
「伯父上にも聞いていたんだけど、君と話して確信したよ。孫悟空、君は悪いことをしていないと思っているのかもしれないけど、他の人にとって良くない事をしていたんだよ。」
「…ほんとか?」
「うん、本当だよ。」
自身が悪いことをしていたと告げられた悟空は、肩を落として不安そうに二郎に真偽を問う。
そんな悟空の姿に、二郎は悟空がまだ本当に子供なのだと感じた。
「やってしまった事は仕方ないけど、これからも悪いことを続けるのはダメだよ。」
「でも、俺、何が悪いことなのかわかんない…。」
「知らなければ学べばいいよ。」
「うえっ!?学ぶ!?」
明らかに嫌がった様子で後ずさる悟空の姿に、二郎は苦笑いをする。
「俺、勉強は嫌だ!」
「でも知らなかったら、これからも悪いことをしてしまうんじゃないかい?」
「うぅ…そうだけどさぁ…。」
心底勉強は嫌だと言わんばかりに、悟空は肩を落としながら項垂れる。
「それならこういうのはどうだい?俺と手合わせをして悟空が勝ったら、悟空に何か好きな物を上げるよ。そして俺が勝ったら、悟空は悪いことを知る為に学ぶ。」
「好きな物って、何でもいいのか?」
「あぁ、いいよ。」
「それなら俺、哮天犬が欲しい!」
目を輝かせながら悟空がそう言うと、二郎は少し驚いた。
「なんで哮天犬が欲しいんだい?」
「俺、『金斗雲』って乗り物を持ってるんだけど、あれって足下がフワフワして落ち着かないんだ。だから乗っても安心出来そうな哮天犬が欲しい!」
悟空は『如意金箍棒』以外にも中華の各所で宝貝を盗んでいる。
その内の一つが『金斗雲』である。
これは人が乗る事が出来る雲で、中華の宝貝の中でも非常に価値が高いものだ。
それを乗り心地が悪いからと別の物を求める悟空に、二郎は悟空を大物と考えるべきか無知な子供と考えるべきか少し判断に迷った。
「哮天犬、この条件で孫悟空と手合わせをしてもいいかい?」
「ワンッ!」
哮天犬は微塵の迷いもなく返事をした。
己の主は誰にも負けないと信じているからだ。
「孫悟空、哮天犬も了承したから手合わせを始めようか。」
「よっしゃあ!あ、二郎真君。俺の事は悟空って呼んでいいぜ。」
悟空は耳の穴に仕舞っていた如意金箍棒を取りだしながらそう言うと、一振りして如意金箍棒を適度な大きさへと変える。
既に如意金箍棒の能力を扱えている悟空の姿を見た二郎は、嬉しそうに微笑んだ。
「それじゃあ行くぞ、二郎真君!」
悟空が全力で飛び掛かってくると、二郎は無手のまま応じるのだった。
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