「韓信、張良、皆、すまなかった!」
桃源郷にてかつての仲間達と再会した劉邦は、地に額を擦り付けて謝罪をしている。
そんな劉邦の姿を見た悟空は首を傾げていた。
「なぁ、お師匠様、なんであいつはあんなに謝っているんだ?」
「彼の事情はわかりませんが、生前に悔やむ事があったのでしょう。」
「ふ~ん、あんなに後悔するならもっと早く謝ればよかったのにな。」
頭の後ろで両手を組みながらそう言う悟空の姿に、弟子の成長を感じたシッダールタが微笑む。
「悟空、人は生きていく上で色々なしがらみが生まれます。それによって素直に己を表す事が出来なくなる事もあるのですよ。」
「しがらみ?」
「えぇ、例えば王となった者は、外聞を気にして軽々に頭を下げられなくなるといった感じですね。」
「へ~。」
悟空とシッダールタの会話の間も、劉邦達のやり取りは続いていく。
「劉邦様、どうか顔をお上げください。」
「すまねぇ、韓信!」
「…劉邦様が私を怖れている事には気付いていました。大志の為に股を潜った私ですが、中華の覇権を掴んだ後はその功に傲り、己を曲げる事が出来なくなっていました。主の為に動けなくなってしまった私に、劉邦様の臣下たる資格はありません。」
地に額を擦り付けていた劉邦は、韓信の言葉に目を見開く。
そして勢いよく顔を上げた劉邦は、何度も首を横に振って韓信の言葉を否定しようとした。
「そんなことねぇ!韓信は一つも悪くねぇ!仲間を信じられなかったおいらが全部悪いんだ!」
劉邦の言葉に韓信は困った様に苦笑いをした。
劉邦と韓信のやり取りを見ていた殷周時代の英雄達がそれぞれ会話をしていく。
「次代に国を継いだあの者は王としては余よりもマシな王であるのだろうが、あの様に死後まで後悔を残さなかった余は、幸福な終わりかたを迎えられたのであろうな。」
「紂王様…。」
「よいのだ、聞仲。余は満足している。武人として二郎真君様に認められる様な武功を残せたのだからな。」
「御意。」
「道半ばでも後悔なく逝けた者と、大望を果たしたが後悔の中で逝った者…どちらが幸福なのじゃろうな?」
「本人次第だと思うわよん。もっとも、私は道半ばでも後悔なく逝ける方を選ぶけどねぇん♡」
「父上、父上はあの者をどう思いますか?」
「身の丈に合わぬ身分を手にしたのは私も同じ。ならば、あの者の境遇は他人事ではすまぬ事であろう。」
色々な会話を耳にした悟空は腕を組み首を傾げながら悩む。
「悟空、どうしましたか?」
「俺、難しい事はわからないけど、あの二人はどっちも悪くないと思うんだ。」
「そうですね。ですが人というのは善悪をはっきりとしたがるものです。それが、人が持つ欲の一つですから。」
己は正しいと声高に叫ぶ為に人は善である事を求め、時には悪である行いを覆して善に変える。
これは人の歴史で繰り返されてきた事だ。
そう語るシッダールタの言葉に、悟空は難しい顔をする。
「う~ん…やっぱり難しい事はわかんないや…でも!」
悟空はシッダールタに笑顔を向ける。
「俺、悪い事をしたらちゃんと謝れる様になるよ、お師匠様!」
悟空に微笑み返したシッダールタは、悟空の頭を優しく撫でたのだった。
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