「二郎よ、ちょうどよいところに戻ったな。」
ケルトから中華へと帰ってきた二郎は、その足で天帝に帰還の報告をしに宮へとやって来ていた。
「伯父上、どうかしたのですか?」
「うむ。玄奘三蔵達の旅先で少々面倒な事が起きてな。」
二郎が首を傾げると天帝は事の詳細を説明していく。
「玄奘三蔵一行の旅先で牛魔王と名乗る者が中華の民に悪戯をしているのだが、その者の配下に金角と銀角という道士がおるのだ。」
「金角と銀角とは、俺の老師である太上老君様の神獣を世話していた道士ですよね?」
「うむ。その二人が牛の精霊の力を持つ牛魔王の配下になっている…怪しいと思わぬか?」
事の経緯を察した二郎は頭を掻く。
「老師にあまり構ってもらえずに拗ねた結果、ちょっと変化をして中華の民に悪戯をしている…ってところですか。」
「大方、そんなところであろうな。」
悠久の時を生きる道士や仙人は総じて時の経過を気にしない者が多い。
それこそ太公望の様に百年単位で寝暮らす者もいるくらいだ。
「それで伯父上、俺はどうしたらいいのですか?」
「ふむ…二郎よ、悟空達で牛魔王達に勝てるか?」
「牛魔王が老師の神獣である『板角青牛』なら今の悟空達では無理ですね。『板角青牛』はかつてウルクで暴れた天の牡牛と同等以上の力を持っていますから。金角と銀角は俺が少しだけ拳法を教えていますから、仙術封印していない状態の悟空でも辛うじて退けるのが精一杯でしょう。」
二郎の評を聞いて天帝はしばし考え込む。
「少しは玄奘三蔵一行に困難を経験させねばならぬか…順調過ぎる旅路故にな。」
考えを纏めた天帝は二郎に命を下す。
「二郎よ、金角達に中華の民への悪戯を止めさせ、悟空達と戦う様に仕向けよ。それをあやつらが犯した悪戯の罰とする。」
「わかりました。」
「うむ。それと適当なところで金角達を止めて連れ帰ってくれ。あやつらがいないせいか、太上老君が好き放題にぐうたらと寝暮らしておるのでな。」
包拳礼をした二郎は、早速とばかりかに哮天犬に乗って金角達の元に向かったのだった。
◆
「ねぇ、金角。」
「なに、銀角?」
「僕達、こんなことをしていていいのかな?」
「仕方ないよ、板角青牛様が拗ねちゃったんだから。少しは憂さ晴らしをして気を晴らしてもらわないと、僕達が板角青牛様の雷を受ける事になるんだもん。」
金髪と銀髪の見目麗しい双子の美少年がひそひそと会話をしている。
この二人が金角と銀角である。
金角と銀角は二郎の弟弟子となる道士なのだが、道士の修行の一環として太上老君の神獣である板角青牛の世話をしているのだ。
「でも、中華の人々に悪戯をしているのが二郎真君様に知られたら…。」
「もう知ってるよ。」
「「うわぁぁぁあああああ!!」
突如虚空から現れた二郎が背後から声を掛けると、金角と銀角は驚きながら飛び上がった。
「「じ、二郎真君様…。」」
「二人共、悪戯はもう終わりだよ。」
「「はい…」」
縮こまった弟弟子達の姿に、二郎は困った様に苦笑いをする。
「そう怖れずとも大丈夫だよ。大した罰は受けないから。」
「「本当ですか?」」
「うん、とある旅の一行と少し戦ってもらうだけだよ。」
二郎の言葉に金角と銀角は揃って首を傾げると銀角が疑問を口にする。
「二郎真君様、その旅の一行とは?」
「玄奘三蔵を知っているかい?」
「『覚者』ガウタマ・シッダールタの教えを信仰している僧だったと思います。」
「うん、その玄奘三蔵一行を成長させる為に、二人と板角青牛には殺さない程度に玄奘三蔵一行と戦ってもらうよ。それを悪戯をした罰にするからね。」
金角と銀角は顔を見合わせた後、金角が疑問を口にする。
「二郎真君様、成長させる為と言われましたが玄奘三蔵達は道教の者ではありません。よろしいのですか?」
「中華の者だからね。伯父上は教えの違いなど気にしないさ。」
信仰の違いが戦争にまで発展する事が当たり前の今の時代において、天帝の考えは異端と言えるだろう。
近年では儒教や仏教が中華に少しずつ広まり始めているが、それでも二郎や王夫妻の活動のおかげで道教の信仰者の数には遥か遠く及ばないのだ。
「それじゃ、俺は板角青牛の所に行ってくるから、二人は先に玄奘三蔵一行と戦いに行ってね。」
二郎が牛魔王の所に向かうと、金角と銀角は顔を見合わせてため息を吐いたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
ちなみに作者の金角、銀角の容姿イメージはナイ〇&マジックのエルくん似の美ショタです。
また来週お会いしましょう。