玄奘三蔵一行は立ち寄る村々の人々を救済しながら順調に中華を西へと旅を続けていた。
そんな玄奘三蔵一行の前に二人の美少年が姿を現す。
そして…。
「ちょっと待ってください!」
「僕達と戦ってください!」
二人の美少年の言葉に玄奘三蔵一行は首を傾げる。
シッダールタの教えの元に修行をしながら旅を続けている玄奘三蔵一行だが、立ち寄った村の民を救う為に賊と戦う事もあった。
だが、目の前の美少年二人はどう見ても賊には見えない。
それ故に三蔵は二人に問いを投げた。
「貴方達が私達と戦いたい理由はなんですか?」
三蔵の問いに二人の美少年は顔を見合わせる。
そして顔を寄せるとヒソヒソと相談を始めた。
「銀角、どうしようか?二郎真君様は何も言ってなかったよね?」
「うん。でも、僕達は罰として戦わなきゃいけないし…。」
腕を組んで悩む二人の美少年の姿に、玄奘三蔵一行は首を傾げる。
「なぁ、三蔵。あの二人はどうしたんだ?」
「悟空、私にもわかりません。ですが、何かしらの事情はあるようですね。」
話が纏まったのか、二人の美少年は玄奘三蔵一行に向き直った。
「僕達は最近名を上げて来ている貴方達と戦って腕試しをしたいんだ!」
「貴方達は一杯賊を倒していると聞いてますから!」
現在の中華は頭に黄色の頭巾を被った者達が『黄巾党』を名乗り、中華全土で打倒漢王朝の為に動き始めている。
その黄巾党の動きに乗じて中華の民に乱暴狼藉を働く賊が増えているのだが、その賊を討つことで武を示し、名を上げようとしている者も増えているのだ。
そういった中華の事情もあるので二人の美少年の言も一応は納得出来るのだが、その前の状況を考えた三蔵はいまいち納得がいっていなかった。
だが、二人の美少年の言葉を聞いた悟空、八戒、悟浄は戦う気満々になってしまった。
「面白そうじゃん!早くやろうぜ!」
「へっ、俺達も名が売れてきたか。」
「悟空、八戒、お師匠様の教えの素晴らしさを示す為にも負けられませんよ。」
悟空達の様子に困ってしまった三蔵だが、手合わせ程度ならばと静観を決めた。
決して美少年達を愛でるためではない。
…ためではない!
三蔵は合掌をして精神統一をする。
そして…。
(これも未熟な私に与えられた御仏の試練なのですね…。)
盛大に勘違いをしている三蔵を差し置き、悟空達と二人の美少年は戦いを始めたのだった。
◆
「お久し振りですね、二郎真君様。」
短く整えられた青い髪と顎髭を持ち、額に見事な一本角を生やしたこの大柄な壮年の男が人に変じている板角青牛である。
「久し振りだね、板角青牛。牛魔王を名乗って悪戯をする日々は楽しかったかい?」
「腐敗した漢王朝の下では、民も中々笑福とはいきませんでしたね。」
そう言う板角青牛が行ってきた悪戯は邪仙に比べれば些細なものだ。
例えば、とある村の飲み水を仙桃で酒に変える。
例えば、とある男性二人に幻術を掛けてお互いを美女に見える様にして恋愛をさせる…といった具合だ。
前の悪戯は逆に感謝された事が多く、後の悪戯は…まぁ、新たな道に目覚めた者もいるので悪い事ばかりではないのだろう。
「それで、私は何をすればよろしいのですか、二郎真君様?」
「先に金角と銀角を行かせているんだけど、板角青牛達には玄奘三蔵一行と戦ってもらいたいんだ。」
「玄奘三蔵というと、近年流行りだした信仰に身を置くものだったと記憶していますが?」
板角青牛の言葉を二郎は首を縦に振って肯定する。
「うん、その玄奘三蔵だね。」
「何故にその者達と戦えと?」
「彼女達は天竺に向かって旅をしているんだけど、中華の外に出たら何かと手を出す輩が現れるかもしれないからね。少しは困難を経験して成長させようというのが伯父上の考えなんだ。」
「なるほど、信仰が違えども中華の民にかわりないと考えるとは、流石天帝様ですね。」
天帝の意図を理解した板角青牛はニコリと微笑む。
「太上老君様も、もう少し真面目になってくれたらよいのですが…。」
「道士や仙人は悠久の時を生きるからね。数百年ばかり怠けたって仕方ないさ。」
二郎がそう言って肩を竦めると、板角青牛はため息を吐いた。
「ところで二郎真君様。私達はどの程度、玄奘三蔵一行と戦えばよろしいので?」
「殺さない程度に加減をして何度か戦ってくれるかい。適当なところで俺が止めるからさ。」
「畏まりました。では、神獣の力の一端を若い者達にお見せするとしましょう。」
ニコリと微笑んだ板角青牛は二郎に包拳礼をしてから虚空へと姿を消したのだった。
本日は〇話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。