双子の美少年と戦い始めた玄奘三蔵一行は、天竺への旅を始めてから初めての苦戦を経験していた。
「八戒!大丈夫ですか!?」
「くっ!こいつら、強ぇ…」
双子の美少年が振るった棍に吹き飛ばされた八戒に悟浄が駆け寄る。
その光景を目にしていた三蔵は驚いて目を見開いていた。
(あの少年達…何者なの?)
驚きのあまり心の中で口調が砕けてしまっているが、三蔵がそうなるのも無理はないだろう。
何故なら八戒や悟浄だけでなく、悟空まで双子の美少年達に軽くあしらわれているのだから。
「おい、悟空!なにやってんだよ!腰がひけてるぞ!」
「だって…こいつらの動きが似てるんだよぉ。」
「似てるって誰にだよ!」
「二郎真君にだよぉ。」
悟空の言葉に三蔵達は驚いて身体を強張らせた。
「ご、悟空…二郎真君とは、あの二郎真君様ですか?」
「どの二郎真君かわからないけど、武神の二郎真君だよぉ。」
二郎真君。
中華の民なら赤子すら知ると言われる武神だ。
なぜ悟空が二郎真君の動きを知っているのかという疑問を三蔵は抱くが、それとは別に双子の美少年達の強さには納得がいった。
「へぇ、拳法は未熟だけど目はいいんだね。」
「うん、僕も驚いたよ。」
双子の美少年は左右対称の形で棍を地につくと、悟空を興味深そうに見ていた。
「もし、貴方達は二郎真君様とお関わりがあるのですか?」
三蔵の問い掛けに双子の美少年は顔を見合わせる。
そしてどちらともなく口を開こうとすると…。
「そこまでです。金角、銀角。」
突如虚空から額に見事な一本角を生やした壮年の男が姿を現し、双子の美少年の言葉を遮った。
「「牛魔王様!?」」
「金角、銀角、貴方達の目的を忘れてはいけませんよ。」
牛魔王と呼ばれた壮年の男の言葉に、双子の美少年達が俯く。
「そこの御方、その二人は名を上げる為に悟空達との手合わせを望んだと言っておりましたが…違うのですか?」
「さて、どうでしょうかね?」
壮年の男が惚けた様子を見せると、八戒が大声を出す。
「テメェ!ちゃんと答えやがれ!」
「答える義理はありません。さぁ、金角、銀角、今日のところは帰りますよ。」
「…今日のところは?」
三蔵の言葉に牛魔王は不敵な笑みを浮かべる。
「えぇ、今日のところはです。後日また来てお嬢さん達の旅路の足止めをさせていただきます。」
「足止め?僕達の旅を何故邪魔するのですか?」
悟浄が疑問の声を出すと、牛魔王は呆れた様にため息を吐く。
「貴方達は多くの村々を救ってきましたが、それで一つも恨みを買っていないと思っているのですか?」
「俺達はいい事をしてきたじゃねぇか!」
「そのいい事というのは何を基準にしているのですか?貴方達の価値観ですよね?」
牛魔王の言葉に八戒は意味がわからないと頭を掻きむしり、悟空と悟浄は首を傾げる。
「まぁ、未熟者に何を言っても無駄ですね。さぁ、金角、銀角、帰りますよ。」
牛魔王が金角と銀角の肩に手を乗せると、三人の姿が虚空に消える。
虚空に向かって八戒が叫ぶが、三蔵は牛魔王から受けた言葉を考え続けていたのだった。
◆
「あのような形でよろしかったですか、二郎真君様?」
牛魔王として中華で悪戯をしていた時の根城に戻ると、板角青牛は二郎に問い掛ける。
「うん、問題ないよ。」
「金角と銀角の不始末は私の責任です。」
「俺の言葉が足らなかったのもあるからね。手合わせの形にしてしまったのも仕方ないよ。」
板角青牛達を玄奘三蔵一行と戦わせる目的は困難を経験させて成長させるためにある。
これは中華の外で他宗教の信仰者との争いになっても、玄奘三蔵一行が生き残れる様にと天帝が配慮したからだ。
「それじゃ、後は適当によろしくね。」
「お任せを。玄奘三蔵一行が中華の外に出ても生き残れる様に鍛えて差し上げます。」
二郎は板角青牛の言葉に微笑むと、虚空に姿を消したのだった。
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