気を取り戻した三蔵は悟空からシッダールタの話を聞き出そうとする。
そんな三蔵に悟空は笑顔でシッダールタの事を語っていった。
「それでな、お師匠様が言うには『解脱』っていうのをしても欲を感じなくなるわけじゃないんだってさ。」
「では、何故に御仏は『解脱』をなさったのでしょうか?」
「お師匠様も死ぬのが怖かったって言ってたぞ。それで『解脱』をしようと思ったんだってさ。」
頭の後ろで両手を組みながら話す悟空の姿に八戒と悟浄、そして三蔵は引き込まれていく。
三蔵達は悟空からシッダールタの話を聞き続けていく。
シッダールタの教えを学ぶ三蔵達にとって、シッダールタの直弟子である悟空から聞く話はとても貴重なものなのだ。
悟空の話を聞き続けていると、気が付けば日が暮れ始めていた。
話を中断して夜営の準備を始めると、不意に八戒が悟空に問い掛けた。
「悟空、そういえばお前、金角と銀角の動きが二郎真君様に似てるっていってたけど…なんで知ってんだ?」
気になったのか、三蔵と悟浄も悟空に目を向ける。
すると…。
「あぁ、俺、二郎真君と戦ったことがあるんだ。」
この日、何度目になるかわからない驚きに目を見開くと、三蔵はまた気が遠退くのを感じたのだった。
◆
悟空が二郎の事を語り始めた頃、話題の当人である二郎は『涅槃』に訪れていた。
「初めまして、僕はイエスっていいます。ゼンさんの事は父さんからよく聞いていますよ。」
「初めましてだね、イエス。知っているみたいだけど、俺はゼンだよ。」
『涅槃』にて神の子と出会った二郎は、一つの信仰を造り出した男とは思えない気さくな態度に興味を持った。
「ところでシッダールタ、イエスとはどういった経緯で縁を持ったんだい?」
二郎の問い掛けにシッダールタは『涅槃』の一角に目を向ける。
そこには神の子を守護する天使達と戦う御立派な神の姿があった。
「グワッハッハッハッ!その程度ではモノ足りぬわ!」
御立派な身体をブルンブルンと振るわせて天使達を弾き飛ばすその光景に、シッダールタは頭を抱える。
「一応、『あれ』のおかげでイエスと知己を得ました。」
「いやぁ、まさかシッダールタも誘惑の悪魔の試練を越えていたとは思いませんでしたよ。」
二人がそう話している間にも天使達は御立派な神の身体に弾き飛ばされたり、御立派な神から"たたり生唾"をかけられたりしている。
「怯むな!神の子を御守りするのだ!」
「なんで私にばかり、たたり生唾を使ってくるんですか!?」
「くっ!モノが違う…!」
彼等の戦いは混沌とした様相となってきたが、シッダールタは見なかった事にする。
「それでシッダールタ、俺に用というのはイエスと会わせたかったのかい?」
「それもあるのですが、私の教えを学ぶ者達にまでお心配りいただいた事に感謝の一言を述べたかったのです。ゼン様、ありがとうございます。」
「その言葉は伯父上に言ってほしいな。俺は伯父上の命に従っただけだから。」
「それでも私は、ゼン様にも感謝を述べたかったのです。」
合掌をして頭を下げるシッダールタの姿に、二郎は肩を竦めた。
「ところでイエス、一ついいかな?」
「なんですか、ゼンさん?」
「君の守護天使達はあのまま放っておいていいのかい?」
二郎の言葉でイエスとシッダールタがそちらに目を向ける。
そこには御立派な身体をそそり立たせて勝鬨を上げる御立派な神と、心折れかけている守護天使達の姿があったのだった。
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