三蔵一行の内、三蔵、八戒、悟浄は緊張で身を固くしていた。
それもそのはず。
彼女達の目の前には、中華で名を知らぬ者はいないと謳われる武神がいるのだから。
「早く食べないと冷めるよ。」
「三蔵、早く食おうぜぇ。」
緊張で身を固くする三蔵一行の中で悟空だけは常と変わらぬ振る舞いをしている。
「ご、悟空!二郎真君様の御前で無礼ですよ!」
「そ、そうだぞ!二郎真君様だぞ!武神なんだぞ!」
悟浄と八戒の言葉に悟空は首を傾げた。
「なぁ、二郎真君。畏まった方がいいのか?」
「気にしないでいいよ。」
「だってさ。だから早く飯を食おうぜぇ。」
三蔵一行は冷や汗を流しながらも、二郎が作った汁を口にするのだった。
◆
「あぁ~…もう食えねぇ。」
「八戒、だらしないですよ。」
「悟浄だって姿勢を崩してるじゃねぇか。」
二郎が作った汁を食べ過ぎてぽっこりと腹が膨らんだ八戒は、腹を擦りながら地に仰向けで寝ている。
悟浄もぽっこりと膨らんだ腹をやや苦しそう擦りながら天を仰いでいる。
さて、三蔵はというと…。
「三蔵、なんで腹の前で腕を組んでるんだ?」
「な、なんでもありませんよ、悟空。」
乙女として羞恥を感じながらも、頑張って平静を装おうとしていた。
「ゼンさん…いえ、二郎真君様。」
「ゼンでも構わないよ、三蔵。」
「そ、そういうわけには…。」
修行を受けていた時と変わらない柔らかな雰囲気を見せる二郎に、三蔵は逆に戸惑ってしまう。
天帝の外甥である二郎は中華の神々の中でも上位に位置する存在である。
更に中華最強の武神でもあるので、三蔵が接し方に戸惑うのも仕方ないだろう。
「…コホン。ゼンさん、幾つかお伺いしたい事があるのですがよろしいですか?」
「なんだい?」
「先ずは一つ…私達は道教を信仰する者ではありません。それなのに、何故に私達に拳法を教えていただけたのですか?」
三蔵の質問が気になったのか、八戒と悟浄が姿勢を正して耳を立てる。
「そうだね…一言で言えば、なんとなくかな。」
「へっ?えっと…なんとなく…ですか?」
「そう、なんとなくだね。俺がそうしたかったからそうしただけだよ。」
二郎の答えにしばし呆然としてしまった三蔵だが、気を取り直して質問を続ける。
「では次にですが…あちらに金角と銀角がいるのですが…あの子達が私達に戦いを仕掛けてきたのは…?」
「それは俺が金角と銀角に頼んだからだね。」
「何故に金角と銀角に私達と戦う様にと頼んだのですか?」
二郎は三蔵達に事の経緯を話していく。
「天帝様が…いえ、天帝様の御配慮は大変ありがたいものです。ですが…私達は御仏の教えを学ぶ者達でして…。」
「三蔵達がシッダールタの教えを学んでいるのは俺も伯父上も知っているよ。でも、中華の民である事に変わりはないからね。だから伯父上は三蔵達に経験を積ませようとしたのさ。」
二郎の言葉を聞いた三蔵は、合掌をして天帝に感謝の念を捧げる。
すると、悟空達も合掌をして天帝に感謝の念を捧げた。
「ゼンさんにも改めて感謝を…。」
「気にしないでいいよ。面白そうだからやっただけだからね。」
それでも自分達は二郎のおかげで格段に成長出来た。
心からそう思う三蔵は二郎にも感謝の念を捧げる。
「他にも色々とお伺いしたい事があるのですが…その前に確認したい事が…。」
「なんだい?」
三蔵は覚悟を決める様に大きく息をする。
そして姿勢を正して二郎に問いを投げる。
「ゼンさんは、その…シッダールタと言われましたが…御仏を御存知なのですか?」
「あぁ、知ってるよ。シッダールタが『解脱』の境地に至った時や、『涅槃』に入った時にも立ち会っているね。」
二郎の答えを聞いた三蔵は乾いた笑い声を上げる。
そして三蔵は二郎がシッダールタと縁が深い放浪の神ゼンだと気付いて気を失ってしまったのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
風邪をひいてしまっていつもの執筆ペースを保てませんでした…。
また来週お会いしましょう。