目を覚ました三蔵の質問に答えた後、二郎は板角青牛達と共に三蔵一行の元を去っていった。
旅を再開した三蔵一行は中華を出て、一路天竺へ向かう。
その道中、三蔵一行は幾つもの困難に出会うが、二郎に鍛えられた三蔵一行はそれらの困難を越えていった。
そして中華を出ておよそ一年、三蔵一行はついに天竺へと辿り着いたのだった。
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「よっしゃあ!ようやく辿り着いたぜ!」
拳を突き上げて喜ぶ八戒につられ、悟空と悟浄も喜びの声を上げる。
「ここが天竺…。」
感慨深く呟くと、三蔵は合掌をしてこれまでの事に祈りを捧げた。
(悟空、八戒、悟浄…ゼンさん。そして多くの人々との出会いが私を天竺まで導いてくれた。これまでの全てに感謝を…。)
祈りを捧げる三蔵に倣い、悟空達も合掌をして祈りを捧げる。
「さぁ、行くわよ。経典を中華に持って帰らないとね。」
満面の笑顔を浮かべる三蔵に、悟空達も笑顔でついていくのだった。
◆
「ほう、見事に天竺まで辿り着きおったな。」
「去れ、マーラよ!」
当たり前の様に涅槃に居座っている御立派な神に、シッダールタは青筋を浮かべる。
「それはそうとシッダールタよ、宗派の争いに興味を示さずあれ程熱心に修行に励む者はダイバダッタ以来ではないか?」
「…えぇ、そうですね。残念な事ではありますが、人々の心が荒れているので仕方ない事でしょう。」
涅槃から見守るシッダールタの目には、経典を手にして皆と喜ぶ三蔵の姿が映っている。
「あやつは『解脱』の境地に至れるかのう?」
「例え至れずとも、彼女ならば多くの人々の心を救いますよ。」
そう言って微笑んだシッダールタは、三蔵に向けて合掌をしたのだった。
◆
三蔵一行が経典を中華に持ち帰った頃、二郎はケルトの影の国に足を運んでいた。
「おぉ!ゼンよ、よくきた!」
「スカサハ、君の使いが顔を真っ青にしていたけど、何かあったのかい?」
二郎を歓迎したスカサハは笑みを浮かべているが、その心は殺意に満たされている。
「セタンタをオイフェに奪われたのだ。」
怒髪天を衝くと言わんばかりに濃密な殺意を振り撒くスカサハに、二郎は話の続きを促す。
スカサハは二郎が差し出した神酒を口にしながら事の経緯を語る。
数年前に二郎がケルトを去った後、セタンタは影の国にやってきた。
そこで影の国の女王であるスカサハと出会ったセタンタは、彼女に強くなる事を望む。
セタンタの才などを認めたスカサハは彼を弟子にした。
そして数年、スカサハに鍛えられたセタンタは多芸に秀でた優秀なケルトの戦士へと成長をしたのだが、そんな折に長年の好敵手であるオイフェが暇潰しにスカサハに仕合を挑んできた。
その時にセタンタが『師と戦いたきゃ俺を倒してからにしな。』と謳い、オイフェと戦い彼女から勝利を納めた。
そこまでは弟子の成長を喜ぶだけで済む話なのだが、そこから話が変わる。
なんとセタンタに敗れたオイフェは、彼に求婚したのだ。
今の時代、ケルトにおいて強い戦士である事こそが最高の男の条件である。
そういう意味で言えば、影の国の女王と互角の実力を持つオイフェに勝利したセタンタは、ケルトで最高の男の一人と言えるだろう。
更に多芸に秀でて野性味を持った美青年でありながら未婚のセタンタは、ケルト最高の優良物件なのだ。
オイフェが求婚をするのも仕方ないだろう。
当然、スカサハもセタンタがケルトで最高の優良物件である事には気付いていた。
適当なところでセタンタとの手合わせに負けて嫁に取らせようと考えた事もある。
だが、師としてそう簡単に弟子に負けるわけにもいかない。
そうこうしている内に、手塩にかけて育てたセタンタを好敵手にして姉妹であるオイフェにかっさらわれたというわけだ。
「セタンタを一人前のケルトの戦士に育てるまでどれだけ苦労をしたと思っとる!」
憤慨するスカサハは神酒を水の様に飲み干していく。
「そういう事なら桃源郷に来て気が済むまで宴でもするかい?」
「…配下の者達に後事を押し付けてくるのでしばし待っとれ。」
こうして配下の者達に影の国のあれこれを押し付けたスカサハは、傷心が癒えるまで桃源郷に入り浸るのだった。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。