スカサハが桃源郷でやけ酒を飲む日々を送る様になって数年、セタンタとオイフェの間に一人の男の子が産まれた。
コンラと名付けられた男の子は、セタンタの才を色濃く継いだ将来有望な赤ん坊だった。
セタンタはコンラが乳離れすると、師であるスカサハの元にコンラを預ける事にした。
この頃のケルトは以前にも増して戦乱が絶えず、セタンタも戦場を駆け回って子育てをする暇がなかったからだ。
折よくスカサハが桃源郷から影の国へ帰ってきていた事もあり、セタンタはコンラをスカサハに預ける事が出来た。
コンラをスカサハに預ける際にスカサハとオイフェの睨み合いが発生したが、それはご愛嬌といったところだろう。
コンラをスカサハに預けてからのセタンタは、一人で国を守り続けた。
身を潜め、敵軍に奇襲を仕掛け、一撃を与えた後に直ぐに退く。
飢えや孤独に耐え一人で国を守り続けるセタンタは、いつしかケルトに並ぶ者無き英雄となっていた。
そして七年が過ぎセタンタが国を守りきった頃、スカサハの元で幼児から少年へと成長したコンラは、一目父に会おうと影の国を旅立とうとしていたのだった。
◆
「師匠、行って参ります。」
「うむ、気を付けて行くのだぞ。」
スカサハから与えられた無銘の槍の宝貝を手に、コンラが影の国から旅立つ。
そのコンラの背を見送るスカサハはそわそわと落ち着きがなかった。
「コンラは良き子に育った故に心配ないが、英雄と持て囃されて鼻っ柱が伸びた馬鹿弟子がどう動くかわからぬのが不安だ…。」
豊かな胸を寄せる様にして腕を組んだスカサハは、同じ所をいったりきたり歩き続ける。
「むぅ…ゼンよ…早く来ぬか!」
スカサハが不満を溢す様に独り言を呟くと、虚空から二郎が姿を現した。
「随分と苛立ってるね。何かあったのかい?」
「おぉ!待っておったぞ!早速だが頼みがあるのだ!」
常と違って余裕がないスカサハの様子に、二郎は疑問に思いながらも言葉の続きを待つ。
「ゼンよ、コンラを見守ってくれぬか?」
「コンラを?それはどうしてだい?」
二郎は以前にスカサハが新しい弟子を取ったと風の噂で聞いて、影の国を訪れてコンラに会った事がある。
「コンラはセタンタ…いや、クー・フーリンに会いに行ったのだが、コンラはクー・フーリンに『己から名乗ってはいけない』とゲッシュを誓わせられておるのだ。」
セタンタはケルトに並ぶ者無き英雄となると、太陽神ルーからクー・フーリンの名を与えられている。
「それがコンラを見守る事と何か関係があるのかい?」
「コンラの戦士としての才はクー・フーリンと並んでおる。いや、投擲に関してはコンラの方が上じゃな。そしてコンラは儂が心血を注いで育て上げた。それほどの戦士を見て、あの馬鹿弟子が戦わぬ筈がない。」
「コンラが名乗れば親子とわかって殺し合いにまではならないだろうけど、セタンタがコンラに誓わせたゲッシュが問題になるのか。でも、親子なら会えばわかるんじゃないかな?」
二郎の言葉にスカサハは大きなため息を吐く。
「あの馬鹿弟子は戦が終わって落ち着いてからも、一度もコンラに会いに来ずに戦で滾った血を治めるために女を抱いておったのじゃぞ?そんな馬鹿弟子が戦士の本能よりも親子の情を優先するとは思えぬ。」
憤慨するスカサハの姿に二郎が微笑む。
「なんじゃ、その笑みは?」
「スカサハの様子がただの弟子思いの師とは思えなくてね。」
「ふんっ、別によかろう。二度弟子に惚れようとも…。」
頬を染めて顔を逸らすスカサハの姿は、間違いなく恋する乙女のものだった。
「いつの間に少年趣味になったんだい?」
「少年趣味ではない!コンラだから惚れたのだ!」
からかわれている事を察しているスカサハだが、乙女としては反応せざるを得ないのだ。
「それで、俺はどこまでやっていいのかな?」
「好きにやって構わぬ。可愛い弟子の為なら、ケルトの神々程度黙らせてやるわ。」
スカサハの返答に微笑んだ二郎は虚空へと姿を消したのだった。
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