生き返ったコンラがセタンタとの再会を楽しんでから影の国に戻ったりとケルトでは色々とあったが、中華でも大きな動きがあった。
董卓。
この男は辺境の涼州にて役についていた者なのだが、漢王朝の中央にいた大将軍である何進が宦官に暗殺された後のどさくさで宮中から逃げ出した帝を運良く保護すると、あっという間に中華に名を轟かす時の人となった。
帝の信を得た董卓は武力を背景に都の政を掌握し、腐敗した中央の役人達を次々と粛清していった。
しかしその強引な手腕に危機感を抱いたとある役人が、袁紹や曹操といった有力者に繋ぎを取る。
とある役人は袁紹や曹操の野心、功名心、自尊心を巧妙に煽り、董卓と対立する様に誘導していく。
袁紹は董卓が中央に躍り出る前、知己であった何進と共に腐敗した十常侍ら宦官を掃除するべく兵を上げていたのだが、董卓が運良く皇帝を保護して美味しい所を全部持っていかれた事で完全に顔を潰されていた。
更に名族である己ではなく辺境の田舎者である董卓が帝の信を得ている事に大いに嫉妬していた袁紹は、とある役人の言葉に乗り董卓を引きずり落とすべく根回しを始める。
対して覇気に溢れる曹操は、己が手で直接董卓を討つべく都へと乗り込んだのだった。
◆
「董卓様、この名剣『七星剣』をどうぞお納めください。」
声を発した者は姓を曹、名を操、字を孟徳という。
小柄な身ながら総身に覇気を感じさせるこの男は黄巾の乱でも活躍し、その名を中華に広めていた。
曹操が片膝をつき七星剣を献上しようとすると、董卓が無防備に歩み寄る。
そんな二人の様子を、見上げる様な巨体の大男が睨む様にして見ていた。
背中に冷や汗を感じる曹操は、内心で舌打ちをする。
(呂布め、なんと間が悪い。貴様がおらねば董卓を暗殺出来たものを!)
大男は姓を呂、名を布、字を奉先という者である。
呂布は武芸全般に秀で、一騎当千、万夫不当と謳われる無双の士だ。
感情を表に出さぬ様に努める曹操の手から七星剣を受け取った董卓が、曹操に労いの声を掛ける。
「曹操よ、大義である!」
「はっ!これにて失礼致します。」
無双の士である呂布に睨む様にして見られていた曹操は、駆けて逃げ出したい気持ちを抑え部屋をゆっくりと出ていった。
「と、董卓、いいのか?あ、あいつはお前の命を、ね、狙っていた。」
「構わぬ。」
椅子にどっかりと腰を下ろした董卓は、都での政務による苛立ちをまぎらわせる為に暴飲暴食して肥えてしまった腹を撫でる。
「如何様な理由があっても儂がやっている事は専横だからな。宦官だけでなく小役人にも儂を気に入らぬ輩はおるであろう。ならば、そ奴らが曹操の様な奴に頼るのも当然であろうよ。」
董卓は帝を保護して都に入ったのだが、そこで先ず目にしたのは涼州では考えられぬ程に腐敗した役人達であった。
辺境や地方には欠片も目を向けずに政争に明け暮れ、賂を要求し、私腹を肥やそうとする役人達。
これを目にした董卓はこのままでは中華の国力は衰え続け、中華の外の勢力により滅ぼされると感じた。
故に決意したのだ。
己が命を掛けてでも中華の為に大掃除をすると。
「お、俺は董卓に恩がある。だ、だから董卓を守る。」
呂布は所謂拾い子であった。
その呂布は幼少時から戦士の才を発揮していたのだが、その呂布の才を利用して、当時の呂布の養父は周囲の者達を脅して私腹を肥やしていたのだ。
そんな時、その養父の行いに痺れをきらした周囲の者達が、董家に救いを求めたのが董卓と呂布の出会いのきっかけである。
「馬鹿者が、儂を守るよりも嫁である貂蝉を守らんか。」
「ちょ、貂蝉は嫁だが、董卓も俺の養父で、か、家族だ。」
董卓は頭をガシガシと掻きながらため息を吐く。
「呂布よ、あとどれほど持つかわからんが、確実に儂は滅びる。」
「お、俺が董卓を守る。」
「無双の士のお前ならば中華の英傑達を相手取っても勝てるやもしれぬ。だが、勝ってはならぬのだ。中華の大掃除を成し遂げ、中華を次代に繋げるには悪を成した儂も滅びねばならぬのだからな。」
呂布は手に持つ武器を強く握り締めた。
「な、なんで董卓が、滅びなければならない。」
「儂以外にやる者がおらんかった。いや、もしかしたらいるのやもしれぬが、そいつを待っているだけの余裕が中華には無かった。だから、儂が中華の大掃除をやらねばならんかったのだ。」
微笑みながら話す董卓を見ていた呂布は、鼻の奥がつんとしたのを感じる。
「安心せい、儂もただでは滅びぬ。中華の次代を任せるに足る英傑を選抜せねばならんからな、がっはっはっはっ!」
快活に笑う董卓の姿に、呂布は董卓の養息となった事を誇りに思うのだった。
本日は3話投稿します。
次の投稿は9:00の予定です。