二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第187話

後の歴史に名を残す、董卓軍と諸侯連合の戦が始まった。

 

この戦は董卓と帝がいる都にまで通じる二つの関を巡る戦だ。

 

二つの関を諸侯連合が抑えねば都までの進軍で兵糧が続かず、諸侯連合は瓦解してしまう。

 

それ故に諸侯連合は二つの関を奪取するべく、関の前に陣を敷いたのだ。

 

董卓軍もそれをわかっている故に、二つの関に多くの戦力を割り振っていた。

 

一つ目の関を守る董卓軍の将は華雄と張遼。

 

共に董卓軍で名を馳せる将だ。

 

この二人が率いて関に籠れば、如何に董卓軍に比して圧倒的な兵数を誇る諸侯連合でも関を抜く事は困難であろう。

 

そして兵数が多いという事はそれだけ多くの兵糧を必要とする事でもある。

 

董卓軍の軍師は、春先に始まったこの戦は収穫の時期まで持たせれば勝ちの目が出てくると読んだ。

 

圧倒的な大軍を相手に勝機がある事と董卓への厚い忠義故に、関に駐留する董卓軍の兵達の士気は非常に高い。

 

そんな董卓軍が守る関をどう抜くのかを話し合うべく、諸侯連合の主だった将が一つの陣幕に集まるのだった。

 

 

 

 

「よくぞ我が檄文に応え集まってくれた。私は名族、袁家の袁紹である!」

 

纏う鎧の意匠から一目で裕福である事が読み取れそうな一人の男が、陣幕に集まった諸侯に向けて声を上げる。

 

「此度の戦は都を牛耳る暴君、董卓を征伐する為のものだ!各々方には我と共に董卓を討ち、帝をお救い致す栄光の機会を与えるものである!」

 

大仰な物言いを放つ袁紹は、己の言葉に酔いしれて顔を紅潮させている。

 

そんな袁紹を横目に曹操はため息を堪えた。

 

(よくも平然と嘘を並べ立てられるものだな。まぁ、野望の為にその嘘に乗っかった俺もそう大差はないか…。)

 

曹操は袁紹の演説を右から左へと聞き流しながら、集まった諸侯を値踏みしていく。

 

(もっとも注意を払うべきは、江東で名を上げている孫堅か。奴の軍は少ないが、黄巾の乱でも名を残している優秀な将だ。だが孫堅以外に一人、妙に気になる者がいる…。)

 

曹操がチラリと目を向けると、そこには他の諸侯と違って質素な鎧に身を包む大きな耳が特徴的な男がいる。

 

(奴は何者だ?己の言葉に酔っている阿呆は別として、他の諸侯は腹の探りあいをしているというのに、奴だけは自然体でそこに在る…。)

 

曹操の様に覇気に満ちているわけでもなく、孫堅の様に歴戦の勇士たる空気を纏っているわけでもない。

 

そんな大きな耳の男から曹操は目を離せなかった。

 

(まぁいい。此度の戦で推し測ってやろう。貴様が凡百の徒か、はたまた大器を有した英傑なのかをな…。)

 

四半刻(三十分)にも及ぶ袁紹の演説が終わると、この日の集まりは終わって諸侯はそれぞれの陣へと戻っていったのだった。

 

 

 

 

『曹操』

 

三国志を代表する英雄の一人である。

 

一代で魏を建国し中華の半分を統べた彼が最大の好敵手である劉備の存在をはっきりと認識したのは、董卓軍と諸侯連合の戦いの時だ。

 

この董卓軍と諸侯連合の戦いの前に行われた諸侯連合の軍議の後に、曹操は腹心の夏侯惇に次の様に語った。

 

『大耳の男を注視せよ。奴の器を見極めるのだ。』

 

乱世の奸雄と謳われた英傑の曹操だが、この時はまだ野望へ向けて牙を研ぐ一人の有力者に過ぎなかったのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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