二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿1話目です。


第189話

「惇よ、俺は奴が…関羽が欲しいぞ!」

 

興奮する曹操の視線の先には呂布との一騎打ちで互角に渡り合う関羽の姿があった。

 

(孟徳の悪い癖と言いたいところだが…あの武を見たら仕方あるまい。)

 

夏侯惇はため息を吐きながら呂布と関羽の一騎打ちを眺めていく。

 

呂布は『人中の呂布』と謳われる程の無双の士として有名だが、対する関羽は先の一つ目の関の攻略で華雄を一騎打ちで降すまでは無名と言っていい存在だった。

 

無名だった筈の関羽が、此度の董卓軍と諸侯連合の戦で誰よりも名を上げている。

 

その事に嫉妬を感じながらも夏侯惇は関羽と呂布の一騎打ちに魅入っていた。

 

(個の英雄の時代は終わり兵法の時代だと言うのに、お前達は個の英雄足ろうとするのか?孟徳が魅せられるのはわかるが、覇道を歩まんとする孟徳の道には邪魔になりかねん。さて、孟徳をどう説得するかだが…。)

 

夏侯惇はちらりと曹操を横目で見るが、子供の様に目を輝かせる曹操の姿に頭を抱えそうになるのを堪える。

 

(駄目だなこれは。ならば、万が一奴等を配下に加えた時に御せる様に努めるしかあるまい…。)

 

気苦労を紛らわせる様に頭を掻いた夏侯惇は、呂布と関羽の一騎打ちを見物していくのだった。

 

 

 

 

「関羽か…中々出来るな。」

 

虚空に身を隠しながら戦の見物をしている王貴人が、呂布と関羽の一騎打ちを見てそう評する。

 

「兄弟子たる士郎はあの二人の一騎打ちをどう見る?」

「そうだな…呂布が弓を使えば、呂布に分があるだろうな。」

「弓?呂布は項羽の様な猛将ではないと言うのか?」

 

王貴人の問い掛けに士郎は頷く。

 

「確かに呂布は神秘の薄れた今の時代において、神秘が濃かった時代の英雄の様な圧倒的な膂力を持っているが、その本質は猛将ではなく弓を得手とした狩人だ。」

「なるほど、弓を得意とする士郎ならではの視点だな。」

 

一騎打ちの暗黙の了解として弓の使用は無い。

 

それ故に呂布は本来の力を発揮しきれていないと士郎は評する。

 

「得手としていない接近戦で武功を上げるか…まるで殷周革命の時の士郎の様だな。」

「私にあそこまでの天然の膂力は無いさ。尤も、弓の腕ならば負けないがね。」

 

かつて自信を持てなかった士郎とは思えないその自負に、王貴人は笑みを浮かべる。

 

「流石は『天弓士郎』と言ったところか。」

「重荷に感じていたその異名も、今では私の誇りだ。」

「私の夫なんだ。そのぐらいの自負は持って貰わねばな。」

 

微笑む王貴人に苦笑いをすると、士郎は意趣返しとばかりに王貴人を抱き寄せるのだった。

 

 

 

 

「三蔵~、次はどこに行くんだ?」

「そうねぇ…洛陽にでも行ってみようかしら?」

 

天竺から無事に中華へと経典を持ち帰った三蔵一行は、中華の地でシッダールタの教えを元に人々の救済を続けている。

 

そんな三蔵一行にとって今最も気になるのが董卓軍と諸侯連合の戦だ。

 

「御師匠様、戦は止めなくていいのか?」

 

八戒の言葉に三蔵は困った様に苦笑いをする。

 

天竺で見た泥々とした宗教争いを直に見た三蔵は、なるべく政への関与をしたくないのだ。

 

それ故に戦そのものには関わらず、その戦で心身を痛めている民の救済をしていっているのだ。

 

「御師匠様、荷の準備が出来ました。」

「悟浄、ありがとう。さぁ、皆行くわよ!洛陽の人々の元へ!」

 

笑顔で人々の救済を続ける三蔵一行の姿を、シッダールタは涅槃から微笑んで見守っていくのだった。

 

何故か隣にいる御立派な神に去れと言いながら…。




本日は3話投稿します。

次の投稿は9:00の予定です。

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