二郎になりました…真君って何?   作:ネコガミ

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本日投稿2話目です。


第190話

「ほう?一騎打ちで呂布と互角に渡り合う者がおったか?中華は広いものだ、ガッハッハッハッ!」

 

中華の都にある宮の執務室にて、董卓が豪快に笑い声を上げる。

 

その董卓の前には第二の関を落とされて都に戻って来た呂布と張遼が立っていた。

 

「まぁ、華雄が捕らえられたのは残念だが致し方あるまい。」

「その華雄殿を一騎打ちにて捕らえたのも、呂布殿と渡り合った御仁である関羽殿です。」

 

張遼の言に董卓の目に好奇の色が浮かぶ。

 

「関羽は誰に仕えておるのだ?」

「間者の報告によれば、公孫瓚の下にいる義勇軍を率いる劉備に仕えているとの話です。」

 

聞かぬ名に董卓は首を傾げる。

 

「劉備?」

「噂程度の話ですが、なんでも高祖の御血筋の方とか…。」

 

髭を撫で付けながら董卓が思考を巡らせる。

 

「ふむ…二人の目には他の諸侯はどう映った?」

 

董卓の言に呂布と張遼は少し考え込む。

 

「え、袁紹と袁術は数は多くても大したことなかった。」

「そりゃ呂布から見れば大抵の輩は大したことなかろうよ。」

 

呆れた様な董卓の言に張遼は吹き出してしまう。

 

「ぷっ!…失礼。私が見たところでは公孫瓚殿は精鋭を率いていましたが小数であり、中華に覇を唱えるには力不足です。孫堅殿も同様です。袁紹殿と袁術殿は中華を担うに足る財力と御血筋をお持ちですが、王足る威と才に欠けておる様に見えました。」

 

一区切りを置いてから張遼は言葉を続ける。

 

「そして曹操殿ですが…覇者足る威と才は満ちておりますが、天下を掴むにはまだ時期尚早かと。」

 

張遼の言に董卓が頷く。

 

「うむ。儂にも曹操は英傑足りうる者だが、若いせいか血気に逸るところがあると見える。あれでは大事な所で勝ちきれぬであろうよ。」

 

呂布と張遼は董卓の言に頷く。

 

(惜しい…董卓様こそ、真の英傑足る御仁であるというのに…。)

 

拳を握り締めた張遼は目を瞑って天を仰ぐ。

 

(才も胆力もある。そして無双の士である呂布殿もいる。なれど、天は掴めず…董卓様はなんと不運な御方なのだろうか…。)

 

帝から権力を簒奪すれば董卓が中華の覇権を牛耳る事は出来た。

 

しかし董卓はそれを良しとせず、民の為に地均しをする事を選んだのだ。

 

(せめて、董卓様には生きて貰いたい。この御方はここで死んでよい御仁ではない。なんとかお考えをお変えする事は出来ぬだろうか?)

 

張遼が思案を巡らせていると、洛陽の宮にとある一行が訪れたのだった。

 

 

 

 

「初めまして、董卓様。私は旅の仏僧をしております、玄奘三蔵と申す者でございます。」

 

合掌をして頭を下げる三蔵に、董卓は邪気の無い笑みを浮かべた。

 

「噂は聞いておりますぞ法師様。儂は董卓。この都にて政を担っておる田舎者です。」

 

董卓の返礼に三蔵は笑みを浮かべた。

 

「董卓様が噂とは違う御方で安心しました。」

「ほう?どの様に違うのですかな?」

「噂では董卓様は都で悪政を敷き、酒池肉林を貪る暴君であるとの事ですが、私の目には民への慈悲に溢れた名君の様に見えます。」

 

三蔵の言に董卓の傍に控える呂布と張遼が頷く。

 

「いやいや、強ち間違っているとは言えませんぞ。田舎者故に美食を楽しんで、これこの様に肥えてしまいましたからな、ガッハッハッハッ!」

 

そう言ってポンッと董卓が腹を叩くと、三蔵もクスクスと笑ってしまう。

 

「して、法師様は如何様な用向きで洛陽に来られたのですかな?漢の国教は道教ですので、洛陽にて仏教を広めたいとおっしゃられるのであれば、帝の許しを得ねばなりませぬが。」

 

とある世界線では光武帝が儒教を広めたのだが、この世界では二郎や王夫妻の影響で中華の国教は道教であり続けている。

 

「いえ、私は無理に御仏の教えを広めるつもりはございません。」

「ふむ?では、法師様は如何様な用向きでいらしたので?」

「涼州や洛陽の民は諸侯連合と戦う董卓様の事を心配しております。」

 

三蔵の言に董卓は表情を引き締め為政者の顔になる。

 

「ありがたい事ですなぁ…して?」

「私も信仰の道を歩む者として些か政争に巻き込まれた事がございます。此度の戦、董卓様の御首を諸侯連合が挙げるまで終わりにならないのではないですか?」

「如何にもその通りですな。」

 

頷く董卓に三蔵は合掌をして言葉を続ける。

 

「民の願いは董卓様が生き残る事です。私にそのお手伝いは出来ませんか?」

「それは無用に願いましょう。」

 

三蔵は真意を見定め様と董卓の目を見詰める。

 

「儂の首一つで次代の中華の民の安寧が買えるなら安いもの…無用に願いましょう。」

 

董卓の言に呂布と張遼は董卓の前に回り、片膝を着いて包拳礼をした。

 

「ち、養父上、ほ、法師様の願い通りに。」

「呂布殿の言う通りです董卓様!董卓様は此処で死んでよい御方ではございません!」

 

呂布と張遼の懇願に董卓は首を横に振る。

 

「袁紹が周到に根回しをしておる。どう足掻いても儂の首がなければ戦は終わらぬ。仮に儂が諸侯連合を討ったとすれば、諸侯連合を治める者達がいなくなり、中華には混乱が広がってしまうであろう。その混乱を治めるには何十年と掛かる。そうなれば多くの民が犠牲になる。」

 

張遼は鼻の奥に感じるツンッとしたものを堪えながら声を上げる。

 

「代わりの者ではいかぬでしょうか?」

 

張遼の言に董卓は眉を寄せる。

 

「儂の身代りになる者を用意すると言うのか?袁紹と曹操は儂の顔を知っておる。似ておる程度の者の首では納得すまい。」

 

万策尽きたかと張遼と呂布が項垂れる。

 

すると…。

 

「じゃあ、同じ顔を用意すればいいのかい?」

 

そう言いながら一人の青年が虚空から姿を現すと、董卓と呂布と張遼は驚いて目を見開く。

 

そして青年の姿を見た三蔵はただ苦笑いをするしかなかったのだった。




次の投稿は11:00の予定です。

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