「よく来たな、二郎。久し振りに会えて嬉しいぞ。」
空飛ぶ犬というファンタジー生物に乗ってはしゃいでいたら、
いつの間にか寝てしまっていた。
そして、寝ている間に伯父上のいる場所についていたようで、
こうして伯父上と謁見している所だ。
伯父上の容姿は整えられた顎髭を生やした、三十代半ばぐらいの黒髪、赤目のイケメンである。
「はい。俺も会えて嬉しいです、伯父上。」
「そう固くならんでよいぞ、二郎。お前は我の外甥故な。」
そう言いながら、伯父上はニッと笑顔を見せた。
「さて、呼び出した理由なのだが。二郎よ、お前には道士になってもらう。」
「道士ですか?」
知らない言葉に首を傾げると、伯父上が説明をしてくれた。
伯父上の説明を俺なりに解釈していく。
道士を簡単に言うと、道教という宗教の信者の事だ。
では、道教ってどういう教えなのかというと、『宇宙と人生の真理の探究』となる。
宇宙と人生の真理の事は置いておいて、道(タオ)とはなんぞやというと、
始まりと終わりを示すもの…とでも言えばいいのかな?
道という字の『首』は始まりを意味するらしい。
そして残りの部分が終わりを意味するようだ。
そういった事を踏まえて、道教の教えの根幹となる道(タオ)の意味を解釈すると、
命の答えを探究するといった感じになる。
うん、哲学的過ぎて俺には意味がわからない。
それこそ前世の記憶を頼りにするなら、俺には『悟りを開け』とも聞こえてしまう。
正直いって無理難題過ぎるだろうと思うのだが、この道教には救済処置的な考えがあるのだ。
それは…『答えが出るまで生き続ければいいじゃん』といった考えだ。
そう、道教は不老不死を推奨している宗教なのである。
不老不死を推奨しているおかげなのか、中華の地に生きる民には、
道教を信仰する者が多いみたいだ。
伯父上の話には続きがあって、道教の修行をしている道士が一定以上の修行を身に付けると、
額に第三の目と呼ばれる紋様が浮かぶ様になって『仙人』と名乗る事が許されるらしい。
『仙人』かぁ…俺の記憶だと、忍ばない忍者漫画で見た気がするな。
それで伯父上は、毎日の様に俺の寝所に侵入を試みている小鬼に、
自分で対処出来る様になるために『仙人』になれだとさ。
「お話はわかりました。伯父上、そういう事でしたら喜んで道士になります。
なにより、面白そうですからね。」
「宇宙と人生の真理の探究を面白いと感じるか。流石は二度目の生を生きる者だな、二郎。」
うん、伯父上には俺が転生者だって事がバッチリとバレているんだよね。
俺が母上から産まれたばかりで意識が無い頃、俺を転生者と見抜いた伯父上が、
『二度目の人生を生きる男』という意味で『二郎』と名付けたと、
3歳の頃に記憶が戻った俺が、初めて伯父上と会った時に教えてもらった。
それを聞いた時は本気で焦ったんだけど、伯父上に
『二郎がどの様な存在であろうと、我の外甥であり、家族である』って言ってもらえて、
俺はガチ泣きしてしまった。
その事があったから、俺は転生した事を受け入れて、今生の家族と本当の家族になれたんだ。
まぁ、俺がガチ泣きしているのを見た母上が、伯父上を全力で殴り飛ばしたんだけど、
今では伯父上が酒の席で話す笑い話となっている。
「さて、二郎よ。お前を導く師を紹介しよう…。太上老君、ここへ。」
「初めまして、僕は太上老君と名乗っている仙人だ。」
伯父上に呼ばれて謁見の間に入ってきた人を見ると、緑髪、赤目の年若い青年だった。
「二郎よ。太上老君は道教の根幹を造り上げた神であり、その教えを実践する仙人だ。」
ファッ!?そんな偉い人が俺の師匠になるの!?
…あれ?
「伯父上、伯父上は道教の最高神ですよね?」
「太上老君は求道者故に、中華の神々のまとめ役を拒んだのだ。」
「ハッハッハッ!その節はご迷惑をお掛けしましたね、天帝。」
太上老君は頭を掻きながら大笑いしている。
「少しでも迷惑を掛けたと思うのなら、もう少し霊薬を融通せよ。」
「実はこれっぽっちも悪いと思っておりません。」
「太上老君の言う事よ。」
伯父上と太上老君が楽しそうに笑いあっている。
「二郎よ、太上老君は1000年以上生きている仙人だ。学べる事は多かろう。励めよ。」
「はい!」
こうして、俺の道士としての修行が始まった。
前世では憧れるだけだったファンタジーに触れる事が出来る新たな人生に、
俺は子供の様に目を輝かせるのだった。
あ、俺、まだ7歳の子供だったわ。
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