エルキドゥがギルガメッシュの友となってから数ヵ月が経った頃、ルガルバンダ殿が亡くなった。
元々病弱だったルガルバンダ殿は王位を退くと神の加護を失い、以前の病弱な
体質に戻ってしまっていた。
その為、これまでは俺が霊薬を融通して病にならない様にしていたのだが、千年を超える王としての激務で精魂が尽きていたルガルバンダ殿の身体は、少しずつ衰弱していってしまったのだ。
俺は体質を改善する霊薬をと提案したのだが、ルガルバンダ殿はその霊薬を飲むことを拒んだ。
「二郎殿、我に残された最後の役目はギルガメッシュに死を教える事だ。」
そう言ったルガルバンダ殿は、日々老いて衰えていく自分の姿を隠さずにギルガメッシュに見せていった。
そして先日、最後の時にギルガメッシュと少し話をすると、俺やギルガメッシュ達に見守られながら眠る様に逝った。
ルガルバンダ殿の魂は、魂の扱いの専門家である仙人の俺が、ウルクを始めとした近隣の者達が死後に旅立つ冥界に案内をした。
ルガルバンダ殿の名はウルクだけでなく、中華やギリシャ、ケルトの神々にも知られていた程だ。
彼の死を悼み、献杯をするのも当然の事だろう。
その献杯をしていた時の事。
不意にギルガメッシュが俺に問い掛けてきたのだった。
◆
「二郎よ、死とは何だ?」
亡くなったルガルバンダ殿に献杯をしていると、ギルガメッシュは数ヵ月前に名乗った俺の名を呼んで問い掛けてくる。
「随分と難しい問いをしてくるね。」
「仙人は宇宙と人生の真理を探求していると言っていたであろう?」
俺はギルガメッシュの言葉に、手にしていた杯を置いて苦笑いをする。
「二郎よ、お前は少なくとも1回は死を経験しているであろう?答えよ、死とは何だ?」
あらゆるモノの本質を見抜くギルガメッシュの目は、俺が転生者である事も見抜いている。
「ギルガメッシュ、それは100年以上前の事だから忘れちゃったよ。
それに俺にとって肉体的な死は、死で無くなっているからね。」
反魂の術を極めた仙人は自らの意思で転生する事が出来る。
なので一般的に考えられている死の概念は、仙人にとっては死では無いのだ。
もっともそのせいで多くの仙人は百年、千年と経っても宇宙と人生の真理に
辿り着けないのだが…。
「だから、俺にとっての死でいいのなら答えるよ。」
「ほう?構わん、話すがいい。」
今まで大人しく聞いていたエルキドゥも興味があるのか耳を傾けてきている。
「俺にとっての死とは、『俺が俺で無くなる事』だね。」
俺の答えを聞いたギルガメッシュは、杯を置いて腕を組むと目を瞑った。
そして少しの間沈黙をすると、不意にギルガメッシュは笑い出したのだった。
「フハハハハ!なるほど、確かにそれは死にも等しい事だ!」
俺の答えに満足したのか、ギルガメッシュは杯を手に取ると酒を飲み干した。
エルキドゥはまだ首を捻って考えている。
「これはあくまでも俺の答え。だからギルガメッシュやエルキドゥも同じ答えになるとは限らないよ。」
同じ答えになるとは限らないよ。」
「そうであろうな。我が我以外になるなどありえんからな、フハハハハ!」
この日、ルガルバンダ殿が亡くなってから難しい顔で考え込む事が増えていたギルガメッシュの顔に笑顔が戻ったのだった。
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