劉備達は旅を続け袁紹の領地まで後一日の距離まで来ていた。
しかし…。
「玄徳兄貴!曹操の軍が来やがった!」
多くの民を連れていた事で行軍が遅れてしまい、後少しという所で曹操軍に追い付かれてしまった。
「ったく、雲長を前触れに出したばかりだってぇのに…。」
愚痴を溢しながら劉備は頭を掻く。
「翼徳、連中の数は?」
「ざっと見て一万ってとこだぜ。」
劉備はため息を吐きたいのを堪える。
(よくもまぁ、それだけの兵を出す余力があるもんだ…。)
劉備は政を経験した事で一万もの兵を動かす大変さを理解出来る様になった。
それだけの兵を養い、訓練するには多大な財力が必要になる。
「姿形(なり)は小さくても器はデケェ…かぁ。」
曹操の力は袁紹や袁術の様に生まれた時には既にあったものではない。
己の才覚で手にしたものだ。
劉備は自身と曹操との差に今度こそため息を吐いてしまった。
しかし曹操からしてみれば、劉備は一介の民と同じ身分から領地を得る程の運と才覚を持った男として見えている。
お互いがお互いを英雄として見ているのだ。
もっとも、曹操は己の才覚を自覚しているのに対して劉備は自覚していないのだが…。
「さ~て、どうしたもんかねぇ?」
曹操軍は自軍より圧倒的に数が多い。
いつもの劉備なら此処は迷いなく逃げの一手だ。
しかし今は兵では無い民を連れている。
ただ逃げるだけでは間違いなく犠牲が出るだろう。
(雲長も張遼もいねぇからおいらが考えるしかねぇんだがなぁ…。)
呂布も張飛も間違いなく優秀な戦士なのだが、あれこれと考えるのは苦手である。
なので劉備自身が頭を使うしかないのだが、いい策が浮かばない。
(ちくしょう!どうすればいいんだ?!)
迷っている間にも曹操軍は陣を整えている。
このままでは何も出来ずに民を巻き添えにして劉備軍は潰滅してしまうだろう。
「少しいいか?」
劉備が頭を悩ませていると、不意に声を掛けられた。
声の方に劉備が目を向けると、そこには白髪に褐色肌の男と短めの髪の女の姿があった。
近くにいた呂布と張飛が驚きながらも得物を構える。
何故ならその男と女は何も無い虚空から突如姿を現したからだ。
「あ~…あんたらは?」
劉備は手を上げて呂布と張飛に武器を下げさせながら問い掛ける。
「私達はこの先にある村で宿を借りている道士なのだが、何やら騒がしくなった様なのでね。様子を見にきたのさ。」
「道士?」
劉備は目の前にいる白髪の男を観察する。
道教は中華で最も広く信仰されているのだが、その教えを学んで道士となる者は少ない。
それは人々に余裕が無いというのも理由の一つなのだが、地上に弟子を取る仙人がほとんどいなくなったからだ。
だからこそ劉備は白髪の男に興味をそそられたが、今はそんな事をしている場合ではないと顔を振って気を取り直す。
「道士様、色々と話をしたいとこなんだが…今はあいにくとその暇が無くてな。」
「ふむ、察するにあちらにいる連中に追われているといったところか?」
「お察しの通りで。」
苦笑いをしながらそう言う劉備の姿に、白髪の男は肩を竦める。
「理由は問わないでおこう。世俗の事に関わり過ぎるのは好ましく思われないのでな。だが、世話になった村が連中に荒らされる可能性があるとなれば見過ごせない…そうだろう、王貴人?」
「…王貴人?」
聞き覚えのある名に、劉備が思わず声を出してしまう。
そんな劉備の姿がおかしかったのか、白髪の男はクスリと笑ってから名乗りを上げる。
「私は王士郎。かつて文王に仕えた道士だ。そしてこちらが…。」
「王貴人、士郎の妻だ。」
士郎と王貴人が名乗ると、劉備達は驚いて目を見開いたのだった。
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