「よくいらしてくださいました。亮を呼んできますので、少々お待ちください。」
諸葛亮の母が客間から出ると、劉備は杯の水を口にする。
「兄者、私も入ってよろしかったのでしょうか?」
「いいんじゃねぇか?諸葛亮の母上殿が招いてくれたんだからよ。」
斜め後ろに立っている関羽の問いに劉備はそう答える。
「まぁ、そう肩肘張っても仕方ねぇさ。ゆっくりと諸葛亮殿を待とうぜ。」
そう言うと劉備は杯の水を飲み干したのだった。
◆
劉備と関羽が客間にて諸葛亮を待っていた頃、供として二人と一緒に来ていた呂布は、外で馬の世話をしていた。
「う、うまいか?」
愛馬の赤兎馬だけでなく、劉備と関羽の馬にも塩を舐めさせ水を飲ませていく。
手慣れた様子で呂布は馬の世話を続けていくが、これはかつて董卓に厳しく仕込まれたからだ。
まだ戦場を駆け回っていた頃の董卓は人馬一体と謳われる程に馬術に優れていた。
その董卓に師事を受けたからこそ、今の呂布があると言えるだろう。
馬の毛漉きをしながら微笑む呂布は、そんな当時の事を思い返しているのだ。
「へぇ、毛漉きが上手いんだね、呂布。」
呂布は不意に掛けられた声の方に振り向く。
すると、虚空から二郎と哮天犬が姿を現した。
「じ、二郎真君様。」
身を正そうとした呂布を、二郎は片手を上げて制する。
「馬達の毛漉きを続けていいよ。俺も哮天犬の毛漉きをするからね。」
二郎がそう言うと、哮天犬は千切れんばかりに嬉しそうに尾を振る。
虚空から天の牡牛の毛を用いて造られた毛漉きを取り出した二郎は、哮天犬の毛を漉いていく。
しばしの間、二郎と呂布は無言で毛を漉いていた。
「あぁ、忘れる前に言っておかないとね。呂布、おめでとう。」
二郎の祝福に呂布は首を傾げる。
「貂蝉が二人目を懐妊したみたいだからね。今日はそれを祝いに来たのさ。」
二郎が告げた言葉に、呂布は驚いて目を見開く。
「ちょ、貂蝉!」
今にも愛馬に跨がって駆け出しそうな呂布を、二郎は片手を上げて制する。
「大丈夫、安心していいよ。士郎と王貴人に頼んで、華佗を連れていってもらっているからね。」
中華の大英雄二人を使い走りにする理不尽な武神がここにいる。
もっとも、産まれくる命を守る為とあって、士郎と王貴人は笑顔で二郎の頼みを引き受けていた。
呂布が安堵のため息を吐くと、二郎は微笑む。
「そう言えば呂布の長女…玲綺(れいき)が『弟妹は私が守る!』と言って弓を射っていたね。」
二郎の言葉を聞いた呂布が頭を抱える。
まだ幼女と言える年齢の呂布の長女である玲綺なのだが、ここ最近の彼女は張遼にせがんで馬に乗ったり、呂布に弓を習って野兎を狩ったりとお転婆に育っていた。
「お、王貴人様の話をしたのが、よくなかった…です。」
王貴人が残した数々の逸話は、今の世を生きる多くの女性の憧れとなっている。
その為、王貴人の様に強い女性になろうと、武芸に励む女性が少なくないのだ。
「王貴人は琵琶も達者なんだけどね。玲綺はどうもそっちには興味が無いみたいだ。」
このままでは嫁の貰い手がと心配した呂布は、帰ったら貂蝉と相談する事を決めたのだった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。