キシュの王アッガから宣戦布告の使者がやって来てから3ヶ月。
キシュの兵がウルクを取り囲んでいた。
「キシュの兵の数はウルクの5倍といったところか。」
キシュの兵達を一見したギルガメッシュが、相手の数を看破する。
「ギルガメッシュ、勝算は?」
「エルキドゥよ、我とお前がいて負けるとでも思うのか?」
ギルガメッシュの返答にエルキドゥは苦笑いをする。
「負けるとは思わないけど、民の犠牲は少ない方がいいでしょ?」
「フンッ!我の財である民を、我が無駄にする筈がなかろうが!」
胸を張ってそう言いきるギルガメッシュに、エルキドゥは微笑む。
「それで、どう戦うつもりなんだ。ギルガメッシュ?」
「簡単な事だ。エルキドゥが守り、我が雑種共を蹴散らす。」
俺の問いにギルガメッシュはそう答える。
「キシュの王アッガは、父ルガルバンダが認めた程の相手だ。我自ら試すのも一興であろう。」
そう言って笑みを見せるギルガメッシュの表情は、王としての威風に満ちていた。
「慢心して足元を掬われない様に。」
「フハハハハ!慢心せずして何が王か!」
圧倒的な自負を持つギルガメッシュは友である俺とエルキドゥ以外の者を、見下ろすどころか見下しているところがある。
それはギルガメッシュらしいと言えるのだが、友としては心配になる事が多いのだ。
「二郎よ、よく見ておけ!我が英雄となる戦いをな!」
そう言ってギルガメッシュは、まるで散歩でもする様にキシュの兵達の前に歩いていったのだった。
◆
ギルガメッシュがキシュの兵達の前に進み出ると、キシュの兵達の間からアッガが進み出て来た。
ギルガメッシュとアッガが戦いが始まる前の口上を幾らか交わすと、いよいよ戦いが始まった。
キシュの兵数万人に対して、ウルクの戦力はギルガメッシュとエルキドゥの2人のみだ。
ウルクにも数千人の兵がいるのだが、ギルガメッシュは今回の戦いに兵を用いない事を決めた。
その理由はエルキドゥにあった。
エルキドゥは病が流行した時に一度ギルガメッシュと本気で戦っている。
エルキドゥは民を救う為にギルガメッシュと戦ったのだが、ギルガメッシュが既に民を救う手立てを立てていた事で民の目にはエルキドゥがギルガメッシュに剣を向けたとしか映らなかったのだ。
そのせいでエルキドゥはウルクの民に受け入れられていないところがある。
その為、今回の戦いを利用してエルキドゥをウルクの民に認めさせようというのが、ギルガメッシュの思惑なのだ。
戦いが始まるとエルキドゥは地に手をついてウルクの大地を掌握する。
そして、土を武器に変えて、ウルクに攻め入ろうとするキシュの兵を迎撃していった。
対してギルガメッシュは黄金の波紋から武器を撃ち出してキシュの兵を蹂躙していく。
時折、武器の雨を掻い潜ってギルガメッシュに肉薄する兵がいるのだが、その兵はギルガメッシュが手にする剣で斬り捨てられた。
ギルガメッシュが手にする剣は、冒険で手に入れた宝貝だ。
ギルガメッシュ曰く、選定の剣であるらしい。
選定の剣は力を解放すると光を放って敵を撃つ事が出来るんだとさ。
その光は天地開闢の力には遠く及ばないが使い勝手がよくギルガメッシュはあの選定の剣を気に入っているようだ。
戦いが始まって1時間程経つと、キシュの王アッガが戦斧を片手にギルガメッシュの前に出てきた。
どうやら一騎討ちをする様だ。
ギルガメッシュとアッガの一騎討ちが始まると、キシュの兵達はウルクに攻め入ろうとするのを止め、2人の戦いを見守った。
エルキドゥも攻撃を止めて2人の戦いを見守っていく。
ギルガメッシュとアッガの戦いは、俺の目にはアッガの方が戦士として優れている様に見える。
アッガの方が力、速さ共にギルガメッシュを上回っているのだ。
だが、ギルガメッシュは戦略的に相手を誘導してアッガと互角に渡り合っていく。
戦う者としての才はアッガが、戦いの才はギルガメッシュが優れている。
そんな2人の戦いは丸1日続いた。
2人の余力は十分だったのだが、戦いは唐突に終わりを告げた。
なんと、アッガの戦斧が砕けてしまったのだ。
宝貝を相手に人が作った戦斧で丸1日打ち合うアッガの技量は、この時代の戦士の中でも群を抜いて高いと言えるだろう。
だがそれ故に、アッガは戦斧無しでギルガメッシュに勝ち得ない事を悟ってしまった。
アッガは戦斧を放り捨てると、地に腰を下ろした。
そして、ギルガメッシュに己の首1つで兵の助命を願い出た。
だが、ギルガメッシュは…。
「此度の戦い、中々に楽しめたぞ。アッガよ、その褒美としてウルクを襲った不敬を許そう。」
ギルガメッシュの言葉に、アッガは眉を寄せる。
「ウルクの王ギルガメッシュよ、我に情けをかけるのか?」
「情けではない、借りを返しただけの事よ。」
ギルガメッシュの言葉にアッガは首を傾げる。
「借り?」
「我が冒険をしていた時、我は貴様に水と食料を与えられた。その借りを返しただけの事よ。」
アッガはギルガメッシュの顔をよく見ると、不意に笑いだした。
「ハッハッハッ!思い出したぞ!あの時の旅人か!」
「我は相手が何人であろうと借りを作ったままにはしておかぬ。疾く去るがいい。」
アッガは立ち上がると指示を出して兵に帰る準備をさせた。
「戦に敗れた我は王位を剥奪されるだろう。だが残ったこの命、楽しませて貰おう。」
去り際にアッガはそう言うと、何かから解放された様に笑みを見せた。
「アッガよ、此度は何故にウルクを狙った?キシュに何の益があった?」
「如何にルガルバンダの子でもそれはわからぬか。」
そう言ってアッガは愉快そうに笑う。
ギルガメッシュが不快そうに顔を歪めると、アッガは笑いを収めて問いに答えた。
「ウルクの王ギルガメッシュよ、ウルクを狙ったのは神託があったからだ。」
「神託?」
「そうだ。エンリル様からの神託だ。」
そう答えたアッガは軽く手を上げて合図を出すと、兵と共にキシュへと帰っていった。
その場に残されたギルガメッシュは、顎に手を当てて何かを考え続けたのだった。
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