「やれやれ、劉備殿と同じ様な事をする羽目になるとはな。」
そう言って公孫瓚は苦笑いをする。
凡そ七千の兵に民を合わせると、総人数三万を超える人々で曹操から逃げるとあれば、如何に戦経験豊富な公孫瓚でも苦笑いをするしかないだろう。
「華佗殿は大丈夫ですかな?」
「信じるしかないな。それに産まれくる子の顔を見るためならば、こういう賭けも悪くない。」
公孫瓚と趙雲の妻はそれぞれ妊娠をしている。
身重の者を連れての逃避行は困難を極めるが、意地の張りがいもあると趙雲は楽しんでいた。
「さて、そろそろ逃げるとしますかな。」
「うむ。皆の者!出発だ!」
公孫瓚の号令で、総人数三万を超える人々の逃避行が始まったのだった。
◆
「徐庶!急いで軍を編制してくれ!公孫瓚殿を助けに行くぞ!」
王夫妻に送られて公孫瓚の領地から劉備の領地にやってきた華佗は、劉備に公孫瓚の窮状を伝えた。
すると劉備は一切の躊躇なく、公孫瓚への救援を決断した。
「三日いただければ準備は整います。」
「よし!頼んだぜ!」
そして三日後、救援部隊として関羽と張遼が将として選ばれたのだが…。
「玲綺殿、狩りに行くのとは違うのですぞ。」
「わかってます、文遠様。」
呂布の娘である玲綺が同行を申し出て、張遼を困らせていた。
「呂布殿、貴方からもなんとか言ってくださらぬか?」
「ちょ、張遼、娘を頼む。」
呂布の一言に張遼は頭を抱えてしまった。
もちろん呂布の言葉には色々な意味が含まれているのだが、救援の任に気を取られている張遼は気付かない。
こうして外堀とは徐々に埋められていくのである。
「はぁ…わかりました。この張文遠!命を掛けて玲綺殿をお守りいたします!」
言質まで与えて人生の墓場の墓穴を自ら掘ってしまう張遼である。
既に孫尚香の尻に敷かれ始めている劉備は、仲間が出来ると嬉しそうだ。
「嬉しいです、文遠様!」
「玲綺殿、女人がそう簡単に男に抱きついてはいけませぬ!」
こうして玲綺が抱きつくのは張遼だけなのだが、何故か張遼は玲綺の想いに気付かない。
救援軍に選ばれた兵の中で独身の者達が、そんな張遼を見て舌打ちを堪える。
遠い未来ならば爆発しろの大合唱が起きていただろう。
「さぁ、二人共頼んだぜ!」
「「はっ!」」
劉備に包拳礼をした関羽と張遼は、公孫瓚の救援に向かったのだった。
◆
「プハァ!く~、こいつはすげぇ美酒だ!」
二郎が造った神酒を口にしたセタンタが舌鼓を打つ。
「馬鹿弟子、コンラに王位を譲るのは早すぎるのではないか?」
愛息を胸に抱くスカサハの問いに、セタンタは肩を竦める。
「俺は王なんて柄じゃねぇからな。戦士として自由に戦場に行ける方が性に合う。」
セタンタに王としての資質が無いわけではない。
だが、この男は戦士である事をなによりも望んでいるのである。
「まったく…まぁ、私のコンラならば不足なく王をこなせるであろうがな。」
そう言ったスカサハはスッと立ち上がる。
「あん?どこに行くんだ?」
「決まってるであろう?妻が夫の側におらずにどうする?」
「はぁっ?!」
スカサハの言葉にセタンタは驚きの声を上げる。
「おい!影の国の女王としての役目はどうすんだ!?」
「配下の者達に任せる。なに、儂がおらぬ間はケルトの戦士の魂がティル・ナ・ノーグに行けずに迷うだけの事。それに、そろそろ二人目が欲しいのでな。」
「ふざけんな!色ボケも大概にしやがれ!」
こうしてまたしてもケルトに伝説として残る師弟喧嘩が始まる。
スカサハの愛息は二人の喧嘩を子守唄とし、哮天犬の毛皮に包まれながら安らかに眠る。
そしてスカサハとセタンタの喧嘩を、二郎は神酒を片手に微笑みながら見物するのであった。
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