「どうやら間に合った様ですな。」
「うむ。」
無事な公孫瓚達を目にした張遼が安堵した様子で言うと、関羽も笑みを浮かべながら頷く。
「文遠様、この後はどうするんですか?」
「先ずは公孫瓚殿達と合流しましょう。その後は諸葛亮殿の策を伝え、どうするのかを考える事になるでしょうな。」
玲綺の問いに答えた張遼は、馬を駆けさせ公孫瓚達の所に向かったのだった。
◆
「よく来てくだされた。この公孫瓚、歓迎しますぞ。」
救援に来た張遼達を、民と共に休息をとっていた公孫瓚が出迎える。
「水や食糧は大丈夫でしょうか?」
「すまんが少しわけてくれぬか?曹操から逃げる為に必要最低限しか持ち出しておらぬので、民達が腹一杯食えていないのだ。」
「直ぐに配りましょう。」
包拳礼をした張遼は指示を出すために即座に場を離れる。
「久し振りだな、関羽。」
「お久しゅうございます、公孫瓚殿。御無事でなによりです。」
お互いに包拳礼を交わした二人は笑みを浮かべる。
「すまぬが世話になる。」
「お気になさらず。我が主君は過日の恩を忘れておりません。それに公孫瓚殿が我等の領地に来てくだされば、兄者は楽が出来ると喜ぶでしょうからな。」
「ははは、劉備殿は変わらんな。」
旧知の友の変わらぬ様子に、公孫瓚は笑い声を上げた。
「劉備殿とまた酒を楽しみたいものだ。だが、その前にやらねばならぬ事がある」
「その事で策を預かってきております。」
そう言いながら関羽は公孫瓚に竹簡を渡す。
竹簡を受け取った公孫瓚は開いて目を通していく。
すると公孫瓚は驚いて目を見開いた後に、不敵な笑みを浮かべたのであった。
◆
「追い付いたか。」
夏侯惇は地平線に見える人々の影を見て口角を引き上げる。
「惇兄、ほんとに公孫瓚達を襲うのか?」
「孟徳からの命令だ。仕方あるまい。」
「でもよ、異民族との戦がねぇってんなら、公孫瓚の領地だけで十分だろ?」
従弟である夏侯淵の言葉に頷きたくなる夏侯惇だったがグッと堪える。
「孟徳に小言を言うにしても、先ずはやる事をやってからだ。」
「孟徳のあの女好きはもう病気じゃねぇのか?」
「…男好きで血が絶えるよりはよかろう。」
「そりゃそうだけどよぉ…。」
なんとも言えぬ会話をしていた二人は顔を見合わせると、大きくため息を吐いたのだった。
◆
『中華一の女好き』
一代で中華の半分を支配した覇者である曹操だが、その女好きは当時から広く知られていた。
側室だけで17人と当時としても非常に多くの女性を囲っていたが、曹家の家系図に正式に乗っていない女性も合わせれば70人近い女性と関係を持っていたという逸話が残されている。
そんな逸話が残されている曹操だが、次の様に言い残している。
『文王は27人の妻を持っていたという。ならば俺もそれに匹敵するだけ持っても構うまい。』
この言葉を伝え聞いた劉備と孫策は、曹操の事を『中華一の女好き』と呼ぶ様になったとか…。
多くの妻を娶り、そして多くの子を残した曹操だが一つ文王と違うところがある。
それは一族内の仲が良好とは言えない事だ。
これが響き曹操の死後、後継者争い等から魏はその力を急速に衰えさせてしまう。
一代で中華の半分を支配した覇者である曹操だが、一家の長としては文王に及ばなかったのであった。
これで本日の投稿は終わりです。
また来週お会いしましょう。